第14話不眠の音楽

何もかもがやぶれていく夜に、あなただけがたしかな言葉をくれる。十二年前から変わらずに。どうしようもないよね、生きていたってさ、何も希望を抱けないし、なんら幸せになれやしない。手が届かない光は遥か彼方で明滅し、それもまもなく塗りつぶされて見えなくなる。呪わない代わりに愛さない。憎まない代わりに信じない。そうして曖昧な境界線の上に立って、かろうじて生きていくことを強いられている。一切を信じないという純粋さだけを信じている。そうして不信に溺れて真っ暗闇の世界の中であなただけは私と同じ地獄に立っていてくれる。轟音のさなかで絶叫し、痛みを分かち合う錯覚に安堵する。言葉を越えたエモーションだけが音楽となって夜の底をひた走る。明かりはつけなくていいよ。そうして重ね合う言葉だけが形を失ってほどけて、ひとつに溶け合うという幻想すらも打ち砕かれて、記憶のことごとくが鋭利な破片となって飛び散って私を傷つけるから、せめてその鋭角だけは鮮度を保っていてほしいと願う。幾たびも血を流す場所の名前なんて知らない方がよかった。

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