第12話葬送

あなたの輪郭を、あなたの声を記憶をたどってなぞろうとするけれど、私の中でそれらは形もなくぼやけて闇に溶けてゆく。失恋したのでしょうとドクターは曲解したレッテルを貼って、その粘着力のあるテープが痛んだ心にしみて、傷を覆い隠そうとするのに抗おうとしても、さまざまな種類のテープを貼られつづける。無数の手が私の傷口をふさぐ。声にするたびに、言葉を形にするたびに、誤読され誤訳されて伝播してゆく。書き記される文字に、あるいは声に、侮蔑とあわれみの色がにじむ。恋は罪悪ですよというセンテンスを何度も何度も反芻するたびに、罪の意識ばかりがふくらんで、あなたにさえ出会わなければと泣いたところでもう遅い。そうして自らの口を封じ、テープが無遠慮に貼られてゆくのをただ耐えて、この痛みのいくらかでも誰かに伝わればいいのにと思いながら何人にも理解されないことを願っている。夢できっとお会いしましょう。血みどろの惨劇を演じるのもいい。あなたが何人も葬ってきたうつくしい刃で私をなぶっていたぶってくださってもいい。こうして日々を永らえるのはあまりに酷だもの。あなたの腕の中で朽ち果てて、やがて骸に百合の花を生けてくださったら、私はそれで幸せなのです。

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