第4話蚕
きれぎれの夢の合間にあなたの影をみたような、そうでもないような気がして、梅雨どきの暗い部屋の中にいくつも並ぶ人形の世話をするのもむなしくて、髪をくしけずって、ちょっと伸びたかしら、あら、あなたもそうかしらと、りぼんの髪かざりをめいめい飾って、あなたが研究室から帰ってくるのを待っている。私を部屋から遠ざけて、眠れない目を光らせて、寝物語を聞くように重たい本を読むあなたはちっとも私のわびしさなんて知らないで、蝶の標本にうもれている。いつしか動物園の昆虫標本の部屋に迷いこんで、あなたはつぶさに語ってくれたけれど、私はひとつも覚えもしないで、ただ蚕の成虫がかわいらしかったのを覚えている。いつしか飼えたらいいのに。きみが蚕みたいなものじゃないかとあなたは笑って、私の纏う蝶柄の浴衣をむいて、裸身をめでるのももうひと月もふた月も前のことで、私がだんだんやせていくのも知らないで、もらいもののシャインマスカットをつつきながら、語るのはヘレナモルフォのことばかり。あなたが飼いたいのは私じゃない。夢うつつに日々を送ってすれちがう。私の部屋に人形のほかに鏡がふえてゆくのもあなたは知らない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます