第4話蚕

きれぎれの夢の合間にあなたの影をみたような、そうでもないような気がして、梅雨どきの暗い部屋の中にいくつも並ぶ人形の世話をするのもむなしくて、髪をくしけずって、ちょっと伸びたかしら、あら、あなたもそうかしらと、りぼんの髪かざりをめいめい飾って、あなたが研究室から帰ってくるのを待っている。私を部屋から遠ざけて、眠れない目を光らせて、寝物語を聞くように重たい本を読むあなたはちっとも私のわびしさなんて知らないで、蝶の標本にうもれている。いつしか動物園の昆虫標本の部屋に迷いこんで、あなたはつぶさに語ってくれたけれど、私はひとつも覚えもしないで、ただ蚕の成虫がかわいらしかったのを覚えている。いつしか飼えたらいいのに。きみが蚕みたいなものじゃないかとあなたは笑って、私の纏う蝶柄の浴衣をむいて、裸身をめでるのももうひと月もふた月も前のことで、私がだんだんやせていくのも知らないで、もらいもののシャインマスカットをつつきながら、語るのはヘレナモルフォのことばかり。あなたが飼いたいのは私じゃない。夢うつつに日々を送ってすれちがう。私の部屋に人形のほかに鏡がふえてゆくのもあなたは知らない。

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