第2話卯月の雪

いいえ、あなたさまにはわかりますまい。この心うちに秘めたる姫さまの面影のうるわしさは、四方よもの宝に勝ります。金銀宝玉、いずれもかすむ姫様の瞳に射とめられ、先の世でお目にかかって、今生で姉妹となりましてからは、姫さまを姉さまとお慕いしてまいりましたけれど、姉さまが嫁いでしまってからというものの、私は男たちに愛想をつかし、春の盛りにひとりきり、姉さまを思って涙して、数多の人形のうちのひとつを姉様に見立てて愛でてもうつろ。

くしけずる髪も姉さまの黒髪に及びもつかず、瞳にかがやく月の光も宿さぬものをどうしていつくしめましょう。

ああ、姉さまが恨めしい。いいえ、義兄さまがうとましい。

姉妹の血は何にも勝るえにしとなり、この身を抱けば姉さまと心かよわせられると信じて、幾夜もの夜を越えて参りましたのに。私はこのまま姉さまに身を焦がして、春も過ぎて夏も終わり、やがてきたる冬を迎えるのでしょうか。

どうか真白い雪の中に私をこのまま埋めてください。義兄さまの血にぬれた姉さまの口づけが千歳の雪を溶かすまで待ちとうございます。今生の終わり、やがてきたる来世でふたたびまみえんことを願って今宵も眠りましょう。

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