第18話 人質・明星3
「パーシーは失敗したみたいだな」
ギュルルルルと激しく噴射を始めた船に、諦めの表情でまばら髭がつぶやく。
「そりゃそうよ。ハイジャックなんて久しぶりだもん」
さっきまで自信に溢れていたドレッドの女も、いよいよ全てを投げたように両手を上げた。
まばら髭がその場にくずおれる。
「クソ、船長に何て言い訳すりゃいいんだ!」
「あ~あ、この場を救ってくれる正義のヒーロー来ないかしらね」
「んなこと言ってる場合じゃねえだろ。いよいよ飛び立つぞ」
噴き出すエンジン風に、エリの髪も吹き乱されていく。
「コックピットから客室に続くドアは閉めたけど、お客さん達は何が起きてるか知らないでしょうね」
「終わったな……」
「終わったわね」
船から吹いてくる風の中で、エリのとなりの二人はすでに悟りの表情だった。
そんな中へ、
「その船、ちょっと待って下さい!!」
焦る声は響いた。
ナナセは走っていた。
お下げを振り乱し、慌てて駆けるつなぎ女に、何事かと往来の人々は振り返る。
あの後あちこちアヒルの着ぐるみの行方を聞いて回って、どうやら
そりゃ迷子になったら帰るべき所に帰った方がいいかも知れないけど、何も置いていくことないのに。いや、これはボディーガードとして一瞬でも依頼人から目を離したナナセが悪いのだ。
宇宙港のロボットを探して、コロニー到着時にもらった識別番号とやらを見せ、船の停泊場まで案内してもらう。
そしてやっと自分が乗ってきたとおぼしき船の前までたどり着いた。
しかし何故かその船の付近から、噴き出すエンジン音と、やっちまったとか終わったとか言う人の声がする。何が終わりなんだろう?
そして船の目の前まで来たナナセに、その光景が目に入った。
コオォォォという噴出音とともに、今まさに飛び立とうとしている船の姿が。
「やっちまった!」
何故か船が自分を置いて出発しようとしている。
な、何で? 無賃乗船がバレたの? 明星は船に乗っているのだろうか?
いや考えている場合ではない。とりあえず、ナナセが無賃だということは置いといて一回止まってもらわなければ。
「その船、ちょっと待って下さい!」
前に出た足で思いっきり踏み切る。そのまま一気に、浮き上がり始めていた船めがけて跳び上がった。
しかしとりあえず突進したはいいものの、それより先のことは考えていなかった。
ナナセは無様にも、コックピットの窓にカエルのような格好でぶち当たったのだ。
窓越しにコックピットの中にいる者達が唖然とした表情でこっちを見ている。またやっちまった。
てか何が起こってるの? 銃を持った男がコックピットを占拠してる? あれ? アヒルの明星が両手を抑えられて……。え? 何これ? また暗殺者が襲撃してきたの? え?
焦るナナセとは反対に、いきなりつなぎ姿の不審な女が張り付いたコックピットの内側の面々は固まっていた。
「な、何だ? この船の乗組員か?」
銃を構える男が慌てて叫ぶ。
明星もここに来て初めて叫びたい衝動にかられた。
子リスのやつ、何をやってるんだ。街中に置いてきたはずなのに、もう追いついてくるなんて。
しかしそんなことを思っていると、
「俺が行って引き剥がしてくる」
銃を持っていない方の、物静かでガタイのいい男がコックピットを出ていく。
引き剥がす? 子リスをか。
どうでもいいが、今まさに銃を持つ男の注意が子リスのおかげで外れている。
何故か側にいる犬が目配せをしてきた、ような気がした。
いずれにしても今がチャンスだ。
アイドルは意外と鍛えている肩を使って、背中を見せていた男に強打を見舞う。不意をつかれた相手は、銃を取り落としてうつ伏せで床に倒れた。
「今度こそ今だよ、ワンダフル!」
「ぐっ!?」
操縦席の女が叫び、ワンダフルが全身で男の背にのしかかる。結構な重さなのか、うつ伏せの男は短い悲鳴を上げた。
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