空気は空(から)で。
おぼろい
第1話 いい子
教室には国語の先生による、朗読が響いていた。
学校特有の、こじんまりとしたスペースを包む静寂、そこに文章が音となり、意思を持ち、伝わる。
教室の静寂はいい。
そう思い始めたのは、いつ頃からだろうか。
あたりを見渡すと、真面目に聞き入るもの、教科書を開きつつ教科書に落書きするもの、ぼんやりと顔を暇そうにさせるもの。
みんな違ってみんないい。
そんなセリフをどこかで聞いた気がする。
鼻で笑ってやりたい気分だ。
みんな違う。
これが結論だ。
いいとか悪いではない。
そこにあるだけ。
どこからともなく沸いた怒りは、みるみるうちに私の眉間にしわを作った。
どいつもこいつもいい子ぶりやがって。
なんとか私は感情を抑えようと、無言でいると。
「じゃあ…よし、月野。」
…。
…えっ?
「あ、わ、私…ですかぁ…?」
自分でも驚くほど、間抜けな声を出してしまった。
情けない…。
くすくす…と薄ら笑いが聞こえる。
「す、すいません。」
「ちゃんと聞いておけよ?じゃあ37ページの…」
最悪だ…。
顔を赤くしつつ、顔を手のひらで覆いたくなる。
チャイムが鳴り、4限目の終わりを告げる。
私はいそいそと弁当を持ち、教室を後にした。
グランド近く、ベンチがいくつか並ぶその一番右側
そこが私の特等席だ。
空は私の心に反して澄んでいて、穏やかな春の風がそよそよと校庭を漂った。
今日はコロッケパンだ。
ふわふわのパンに挟まれれtたレタスとポテトコロッケにソースが染みている。
ビジュアル完璧だ。
がぶり、とかぶりつくと思わず口角が上がった。
「お、笑うんだね~君。」
と背後から声がした。
上を見上げるとショートの髪に、少し焼けた肌、だらしなくシャツだしをした女子がいた。
「…むぐ。」
「ん、なんて?」
「…っつ…んっ、ん。…だれ?」
「え、しらなかった?ほらー同じクラスだよ。」
ふむ、と顔を戻して考える。
…あぁ、と思い出して声を出した。
「元気な子だ。」
「え、印象?」
「うん…ってごめん…名前…。」
「気にしないでよ、龍式潤多(りゅうしきうた)だよん。よろしく。」
「…夜野明(よるのあかり)。よろしく。」
「よろしくね、いい子ちゃん。」
にひひ、と龍式さんは微笑んだ。
わたしはいいこじゃないのに。
私は。
「どした?」
キョトンとした声がきこえた。
にこり、と笑顔を作る。
「ううん、何でもないよ。」
ふーん、と言うと
「一緒にいい?」
と、隣に座り、パンを開け始めた。
私は一人が良かったが、断るのも申し訳ないので、了承した。
春のぬるい風が心地よい、そんな日。
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