第17話 妖精ってこんな連中です
「つかぬことをお聞きしますが」僕は申し訳なさそうに言う。「妖精の皆さんは、僕を憎んでいるとばかり思っていたのだけれど、違うの?」
違っていたら嬉しいなぁ、という希望も込めて聞いたのだ。
「てゆーかぁ、なんでぇ、妾たちがぁ、魔王様を憎むわけぇ? ちょー全然、意味不なんですけどぉ?」
妖精女王が上下に動きながら言った。上昇と下降という意味。
「その無駄な動き止めて、酔いそう」と僕。
「あらあらぁ? 妾の美しさに魔王様が酔ってますよ的な?」
妖精女王が言うと、他の妖精たちがキャーキャーと楽しそうに喚いた。
「ねぇ、ごめん、真面目な質問いいかしら?」チェリーが言う。「あたしが魔王軍からみんなを解放した時、みんな喜んでたわよね? あたし、余計なことしてないわよね?」
「魔王軍死ね」「魔王軍嫌い」
「クソの中のクソ、それが魔王軍」
「魔物とか滅べ」「魔物死すべし」
妖精たちが急に吐き捨てるように言った。
「妾たちはー、勇者チェリーに感謝してますけどぉ? めっちゃ感謝してますけどぉ? てゆーかぁ? 感謝しすぎて感謝って言葉がゲシュタルト崩壊しちゃいました的な?」
「それは凄まじい感謝だね!」と僕が突っ込む。
「えっと、だったら、こっちのレナードのことは……」
チェリーが恐る恐る、僕に視線を向け、更に小さく指さした。
「魔王様は好き!」「魔王様は飴玉くれた!」
「魔王様は見た目が好き!「魔王様かっこいい!」
「魔王様は優しかったよ?」「魔王様、髪伸びたの素敵!」
妖精たちは嬉しそうにレナードの周囲を飛び回る。
「妾の魔王様だと言ってますけどぉ? 妾、ちょー言ってますけどぉ? 魔王様と喋るなって言ったはずですけどぉ? 妾のですけどぉ?」
ん? ちょっと待って。最初にローヌが僕を無視してたのって、妖精女王の命令だったから?
「レナードのことは好きなのね」チェリーが言う。「魔王だったのに?」
「魔王様は妾たちを大切に扱ってくれましたしぃ? 先代とか先々代は死ねばいいと思いますけどぉ? 魔王様は最初から最後まで妾たちに優しかったですよぉ?」
そんなに優しくした覚えないから、ちょっと怖いんだけど!
僕の偽物とか出没してた!?
でも飴玉をプレゼントした記憶はある。てゆーか、定期的に飴玉配ってたな僕。
「更に魔王様は妾を嫁にと、そうおっしゃってくれてました的な?」と妖精女王。
「言ってないよね!? そんなこと一切言ってないよね!?」
やっぱり僕の偽物がいたんじゃないの!?
「え? レナード、婚約とかしてたんだ……」
チェリーが怨めしそうな目で僕を見た。
「してないからね!? 本当にしてないからね!? どういうことか僕にもさっぱり分からないからね!?」
「ところで、今日はずいぶん平和ですぅ、って思ったら」妖精女王が言う。「地獄メイドがいないじゃなーい! そっかぁ、あのメイドは死んじゃった的な?」
メイド本当、何したの!?
なんでみんな、メイドのこと地獄メイドって呼ぶの!?
てか、地獄って人間の想像だよね? 死んだら良い奴は天国、悪い奴は地獄に行くっていう謎の妄想。
「メイドは死んでないけど?」チェリーが言う。「メイドと何かあったの?」
「あのメイドはぁ、妾が魔王様と結婚するってことにぃ、大反対!」
「そうなんだ?」とチェリー。
「それはお互いに建設的じゃない、って言うんですよー。困っちゃうなぁ、本当。妾と魔王様は結ばれる運命ですのに的な?」
あっれー? 僕、その台詞聞いたことあるぞぉ。
僕が妖精界に行くって言った時にメイドが「妖精と会うのはお互いに建設的じゃない」的なこと言った気がする。
「真剣に聞きたいんだけど」僕が言う。「僕たち、いつ結婚することになったっけ? 僕が君にプロポーズしたって本当?」
「もちろんですよぉ!!」妖精女王が胸を張って言う。「妾の夢の中で、しっかりプロポーズしてくれましたからぁ!」
「プロポーズしてるじゃないの! レナードのバカ!」
「チェリー、ちゃんと聞いてた!? 夢って言ったよ!? 妖精女王、夢の中って言ったよ!? 僕、全然関係なくない!?」
「現実では照れくさくて、妾の夢で告白とか魔王様ちょー可愛い」
妖精女王がデレデレと頬を染めながら言った。
「ほら! やっぱりレナードが告白したんじゃないの! あたしとはもう離婚する!?」
「待って! 本当待って! チェリーとは離婚しないよ!? 君のこと、まだ保護するよ!? 行き場ないよね!?」
「でも妖精女王はどうするのよ!?」
「だーかーらー! 僕は夢の中に入り込む能力ないからね!? 僕は夢魔じゃないから!」
「そうなの?」
「そうだよ!! どうせアレでしょ? 魔王だからそのぐらいできる、って思ったんだよね? それ偏見だから! 僕にもできないこと、割とあるから!」
「あたしだって、できないこと、いっぱいあるんだからね!?」
「そこ張り合わなくていいよチェリー!」
突っ込み疲れたぁぁぁぁ!!
妖精ってこれだから苦手なんだよね。悪意はないけど相手を困らせるのが大好きなんだよね。
あれ?
相手を困らせるのが好きって、悪意じゃないかな?
あぁ、面倒だからどっちでもいいや。
と、妖精たちがヒソヒソと会話をしていた。
妖精女王は瞳に涙をいっぱい溜めて、今にも泣きそうな雰囲気だった。
「妾……妾……ぐすっ……」妖精女王が右腕で涙を拭う。「妾より、そのちょっとぽちゃってなった勇者の方が好みかあぁぁぁぁ!!」
「ぽちゃってしてなぁぁぁぁい!!」チェリーが叫ぶ。「筋肉量は落ちたけど、太ってないもん! 絶対太ってないもん!!」
「落ち着いて! 2人とも落ち着いて! 僕、なんかすごい疲れた! 帰りたい!」
そしてチェリー、この前太ったって言ってなかったっけ?
僕の勘違いか? ハッキリとは覚えていないけれど。そういう会話をした覚えがある。
「それはダメですよぉ」妖精女王が急に真顔で言う。「せっかくなのでぇ、2人とも宴に付き合ってもらいまーす。地獄メイドもいないのでぇ、ハメを外しましょう的な!」
妖精女王の言葉で、妖精たちが僕とチェリーの背中をグイグイ押す。1人1人の力はたいしたことないけれど、数で押すものだから、僕もチェリーも駆け足で森に入った。
何これ試練? 試練か何か?
僕はただ、妖精界のピンチを妖精たちに伝えたかっただけなのだけど。
もうすでにクタクタなんですけど。帰ってお風呂入って眠りたいんですけど。
そう思いながらも、本気で抵抗しない僕。
つまり、妖精たちの宴も少し興味あるということ。本気で嫌なら、僕は帰る。自分に嘘を吐かない人生を望んでいるから。
それはチェリーも同じなのだが、と思ってチェリーに視線を送る。
チェリーはとっても楽しそうに笑っていた。
あ、チェリーは純粋に妖精の宴が楽しみなんだなぁ、って思った。
チェリーの楽しそうな顔を見ていると、僕も楽しくなってきた。
「魔王様、魔王様」妖精の1人が僕の耳元で言う。「チェリーとはもう決めたの?」
「決めるって?」
「一発、やったの?」
「どこでそういう言葉覚えるの!? 君たちって性別ないよね!?」
繁殖する時に性行為を伴わないのが妖精だ。
「主に魔物から覚えたよ?」
「そ、そうだよね」
支配してたからね。めっちゃ魔物駐留してたもんね。つまり妖精たちは魔物の影響を多く受けているのだ。
「や、やってないわよ! なんてこと言うのよ!!」
チェリーが顔を真っ赤にして叫んだ。
僕と同じ質問をされたのだとすぐ分かった。
「ねぇねぇ、魔王様の棒見せて? 棒があるんでしょ? それで孕ませるんでしょ?」
また別の妖精が、僕の顔の前で言った。
「見世物じゃないよ!? 割と大事な棒だからね!? それないと色々困るからね!? 見せないよ!?」
妖精、うっぜぇぇぇぇぇぇ!!
僕が支配してる時はもう少し大人しかった気がするけどなぁ! もう1回支配しちゃおうかなってチラッと思ってしまうぐらいには、うっぜぇぇぇぇ!
もちろん、そんなことしないけどね。
僕はもう平和にのんびり、穏やかに日々を過ごしたいと願っているから。
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