番外編

悪霊遊戯


幽霊公園、それが僕の家の前にある公園の名前だ。

正しい名前は誰も知らない、大人でさえも幽霊公園と呼んでいる。

遊具は大体揃っていて、広場もある。

それでも昼間からなんとなく薄暗くて、

街で一番高い滑り台があるのに、あまり人が寄り付かないのは、

皆がそう呼ぶように、この公園には幽霊が出るからだ。


公園の片隅には公衆トイレがあって、そこで昔小さな女の子が殺されたらしい。

僕が生まれる前の話で、大人たちだって子どもにそんな話を積極的にはしないから、

詳しいところはわからない、

ただそういうことがあったらしいというのは皆知っている。


幽霊っていうのは大体夜に出るらしいけれど、その幽霊は朝も昼も夜も出る。

僕も一回は見たことがある。

昔の制服を着て、赤いランドセルを背負っているんだ。

そして、見えるだけではなく声が聞こえる人には、こう囁く。

「一緒に遊ぼう、遊び方は決めていいよ」


この公園は多少は広いけれど、別に雑木林があるわけでもないし、

視界を妨げるようなものがあるわけでもない。

それでも、昔から行方不明の人や死んだ人が出ているのは、

どうも肝試しで公園に訪れて、その幽霊と一緒に遊んでしまったからみたいだ。


「鬼ごっこをしよう」

と幽霊に言うと、鬼みたいな姿になった幽霊に殺されるまで追い回されて、

殺された人は鬼みたいな姿に変わってしまって、やはり誰かを追いかける。

「かくれんぼをしよう」

と言うと、遊具と身体がくっついて、その遊具の中にずぶずぶと埋まっていく。

だから永遠に誰にも見つけられることはない。


遊びの誘いを断ろうとすると

「大丈夫、時間はいっぱいあるから」

と公園から出られなくなるし、

公園の時計は時間の数え方を忘れたかのように、ひたすらにぐるぐると周り続ける。

だから、女の子に声をかけられると、

色んな人がいろんな遊び方を言って助かろうとしたし、誰も成功はしなかった。


ある日、僕は見た。

背の高い女子高生のお姉さんが、一人ぼっちでブランコに乗っている。

「うーあーらーらー」

燃えるような赤い空の下、楽しそうに歌を歌いながら。

「ねぇ……」

すると女の子の幽霊が現れて、お姉さんに向かって言ったんだ。


「一緒に遊ぼう、遊び方は決めていいよ」

僕は、悲しくなってしまった。

お姉さんも、一生この公園に閉じ込められてしまう。

「んーんー」

するとお姉さんは顎に手をあてて、何かを考えて、言ったんだ。


「彁彁彁彁しよう?」

「えっ?」


にこにことお姉さんが笑っているのと対照的に、女の子は困惑していました。


「彁彁彁彁」

「なに……それ……?」


女の子は、あらゆる遊びを知っていました。

自分が死んだ後の時間を永遠に楽しく遊び続けるために、

あらゆる遊びを咀嚼し、人間をおもちゃにしてきました。

だから、僕はその女の子が困惑する姿を初めて見たのです。


「にしゃぐりられにしゃぐりられ、しゃんがりひどろにひとみどろ

 たるましよるがの、さんされろ、あろびはちまん、みろなんと

 おうごりあるきの、みちはざま、よいとらよいとら、るるみると」

背の高いお姉さんは楽しそうに歌い、踊ります。

一人でくるくると歌い、くるくると踊ります。

そして、ひとしきり歌い終えると、次に女の子を指差しました。


「あなたのばん」

「えっ……えっ……」


女の子はただひたすらに困惑しているようでした。

それでも、どうにかしてお姉さんをなんとかして害そうとしていたみたいです。

しかし、どうにもそれは上手く行かないようでした。


「みぃみぃみぃみぃ、いちざかれ、つづきがないなら……」

「あなたのまけ」とお姉さんが言いました。

その瞬間、女の子が悲鳴を上げて、消え去ってしまいました。


「ハーン先輩~!」

どこか、公園が明るさを取り戻して、

まもなくお姉さんを呼ぶ声が遠くから聞こえました。

その両手にクレープを持ったお兄さんです、お姉さんかもしれません。


「どこ行ってたんですか?」

「あそんでたよぉ」

嬉しそうにお姉さんはクレープを受け取り、

そして、楽しそうに喋り始めました。

もう一人の人も嬉しそうにそれを聞いています。


もう公園が幽霊公園と呼ばれることはないでしょう。

女の子に殺された人たちが、自分を取り戻していきます。


いつか、僕の死体もブランコの中から回収されるでしょうか。

ブランコの中から、公園の前の僕の家を見ながら祈りました。



部首: 弓 + 10 画

総画: 13画


字源

JIS C 6226-78以前は実在しなかったとされる文字。幽霊文字のひとつ。


意義

不明。


JIS X 0208:1997 改訂の際の徹底的な調査を経ても、

古字書に一致する字体が見つからなかった唯一の文字であるため、

幽霊文字や幽霊漢字の代表として扱われている。

「彊」の誤りである可能性がある。


発音

不明。漢字変換システムなどでは便宜上、カ・セイなどの読み方が付与されている。


(Wiktionaryより引用)

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