短編集

彩-sai-

眠り姫は目覚めない。

よく思う。死んだ人は、まるで、寝ているようだと。

とても繊細で、儚い。不思議な状態。


なぜか、その儚さに、無性に惹かれてしまう。

命が尽きる瞬間なんて、とても言葉では言い表せないくらい、美しい。


そして思う。

あの、儚い美しさを、自分だけのものにしたい、と。



真上から、身体を跨ぐようにして、人を見下ろす。


漆黒の瞳が、私をじっと見つめ返してくる。

その瞳は、何も映らず、何も語らず。


ただ、無性に惹かれる瞳。


そっと掌を首に当てると、かすかに命を感じる。

漆黒だと思った瞳が、薄く茶色に見えた。

万華鏡のように色を変える瞳を夢中で見つめると、少し揺らいだ。

なんて、綺麗なんだろう。


私は、この人の最期を貰える。


興奮で震える指先に、そっと力を入れていく。


反比例するように、開いた瞳から力が抜けていく。


あぁ、できることなら、少しでも長く、この瞬間を味わいたい。

眼を閉じた暗闇の中で、何を感じているのだろう。

この世界に対する絶望か。その先の安らぎか。


私はいつも思う。

私が見てきたように、私の身体からも、美しく生命が飛び出していくのだろうか。

自分ではわからない。


語ってくれる人も、もう冷たくなってしまった。


この感情を、恋と呼ぶならば、


「眠り姫は、目覚めない。」

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