第28話 “カエル-コト”のジレンマ

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『を振り返って』よく耳にするフレーズである。


それは、どこかの組織に所属していればなおさらのことであろう。


本題も まさにそれである。




しかし、それを記すにあたって この『を振り返って』というフレーズはしばし、過去を着色する合言葉のような一面を兼ね備えている。


そのうえ、その着色は多くの場合、美化に当たる。




特に、中高生においては その美化の根拠に青春というものを声高らかに掲げて、丸め、固め、流し込む。






あくまでも 振り返ることで得られるのは、事実のみであり、それに色など必要ない。


あくまでも、これまでをトレースするのみであり、それ以上以下も、それ以外も何もない。




要は、過去を現在から追っているのである。






だから、本来着手すべきは今後を着色するためのすべを模索することであり、その追いかけた事実という“点”を今後、いかにつないで形に起こせるかを検討しなければならないのだ。






結論を述べよう。




本題に対して 大衆が求める解 は 題意が求める それと ねじれた関係にあるのである。


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「これは、君はそれ以上にねじれこんでいるぞという突っ込みを期待しているのか。」


そう飯田先生は言った。


「はぁ。」


「西村、この 与えられた お題は何か言ってみろ。」


「えっとぉ、一学期を振り返ってです。」


「いいや、違う。次の題について小論文を提出せよ“一学期を振り返って” だ。いいか、小論を提出するのが、与えられたんだ。君のことだから、これが提出して何かしら言われることくらい考えられていただろう。」


「はい。」


いまさらながら、『俺の高校生活は何も変わらない』とかなんとか書いた時のことが思い出される。あの時は飯田先生ではなく、担任に呼び出されていた。


今回の文章に関しては担任から飯田先生へ回ってきたらしい。


まあ、顧問という形があってなのか、俺と飯田先生が話す姿がそれによって目撃されるからか、いずれにせよ、彼女からのほうが俺も少しは言うことを聞くのではと思ったのだろう。


自称進学校であるという俺の学校においては教師陣もそれなりというか、いい大学を卒業している。


言い方は悪いが、馬鹿じゃないないのだ。


だから、作戦、俺に説教する手段を変えてきたのであろう。


まあ、うちの担任が それで言うことを聞くと思っているのならば、恐れくそれは見当違いだ。


彼女もそれに関しては内心わかっていて引き受けたのだろう。




飯田先生はすべてを察した、いや察せざるを得ないような表情をして、俺の小論を机に置き言った。


「それにしても、よくここまで湾曲した文章を書けるものだ...」




「まあ、内容に関しては納得できないわけではない。というか むしろ、部分的には納得している。」


そういって、彼女は右手で少し頭を抱えてつづけた。


「君は もう少しそれなりに それらしくやる場面というのを考える、選ぶということを学ぶべきだ。」




「だから、“僕らしい”ってことで。」


「君はitではなくて、heだろう。」


「いや、君ならyouじゃないですか。」


「ともかくだ、君は君であって、それを保つための手段を得るべきだ。もちろん、石ころのように姿かたちを存在させながらも、認識のうちから消えるのも一つだ。だが、それは石ころ同士では通用しない。だから、それらしくやれと言っているんだ。」




彼女は肘を机の淵に軽くかけながら、額のあたりを自身の掌の付け根あたりで触った。




「まったく、夏休み直前にこんな説教をするとは思わなかったぞ。補講対象者でもない生徒を前にだ...あと、宿題はちゃんと確認したか。」


「夏のですか。」


「ああ、そうだ。」


「えっと、確認しました。」


「そうか、まあ一応うちの学校は進学校だ。授業の進みも早かったり、ろくに理解しないで通り過ぎたところもあるだろう。大学行くなら、まあこの夏、ガンバレ。」


この先生の言うガンバレにはどこか責任感が感じられる。


その単語を適当に使っていないのである。この先生という肩書を背負った女性は先生として“生徒が頑張る”とは何で、何をどうすればよくて、自分がそれに向き合うべきなのかということの答えがわからないのであろうか。


この先生がガンバレというからには俺も頑張らねばとは思わない。しかし俺はその言葉に生半可な気持ちで「はい。」などと答える気はさらさらなかった。


俺がそう彼女の言うガンバリについて考えていると俺の思考を軽くノックするかのように彼女は言った。


「そういえば、今日は行くのか、部活。」


「あぁ、まあそのつもりです。」


「そうか、行ってこい。」


彼女の言う行ってこいは、どこか ぶっきらぼうな演出の裏に、初めて一人で小学校に登校するわが子を見送る母親のような印象があった。




それでも彼女は俺にとっての帰る場所とは一向になりえない。


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