猫な彼女と誕生日

@山氏

猫な彼女と誕生日

 今日は3月27日。咲弥の誕生日だ。

 俺は先日買っておいた誕生日プレゼントをパーカーのポケットの中で転がしながら咲弥を待っていた。

「ただいまー」

 咲弥がいつものように家に入ってくる。上着を俺の部屋に置いて俺の横に腰を下ろした。

「疲れたー」

 そう言って俺に寄り掛かる。俺は咲弥の頭を撫でた。

「もうすぐ晩御飯だから、寝ちゃダメだよ」

「えぇ……」

 嫌そうな声を上げて、咲弥は体重を預けてくる。

「寝てたら起こして」

「仕方ないなぁ」

 俺は苦笑しながら言った。

 てっきり、誕生日プレゼントをねだってくるものだと思っていたが、そういうわけではないらしい。

「今日の晩御飯は?」

「まだ考えてないけど……咲弥、何食べたい?」

「んー……なんでもいい……」

「どうしようかな」

 せっかくだから、咲弥の好きなものにしてあげたいところだ。しかし、ケーキも用意してあるし、そんなに重くないものにしたい。

「じゃあ、なんか適当に作っちゃうね」

 あまりメニューは決まっていないが、冷蔵庫の中のもので何か作ろうと決めた。

「わかったー」

「えっと……夜ご飯、作ってきていいかな」

 俺は咲弥の方を見て言う。しかし咲弥は動く気配を見せず、むしろさらに体重を預けてきた。

「まだお腹空いてないからいい」

「そう?」

 それなら急いで作る必要もない。俺は咲弥の頭をもう一度撫でて、咲弥の肩を抱いた。

 少しすると、咲弥の寝息が聞こえ出す。俺は咲弥の顔を覗き込んで、寝ているか確認した。

 幸せそうな寝顔で、咲弥はちゃんと眠っている。

 俺はポケットから誕生日プレゼントに用意していた簡素な装飾が付いた指輪を取り出すと、咲弥の左手を取って、薬指にはめる。

「んん……?」

 咲弥が体をよじらせ、うっすらと目を開けた。

「あ、ごめん。起こしちゃった?」

「ん、起きた」

 目を擦り、俺の顔を見上げる。そして自分の手を見た。

「これ……」

 咲弥は顔を赤くして俺を見て、俯いた。

「誕生日おめでとう、咲弥」

「あ、ありがとう……」

 自分の手をまじまじと見つめ、咲弥は幸せそうに笑うと、俺をそっと抱きしめた。

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