目指す夢と約束の狭間

椎名由騎

約束の彼女と再会

「オリンピック、一緒に出ようね」


 その約束をしたの女の子は誰だっただろうか。





 2020年夏はオリンピックが開催される僕も選手として出場したい気持ちがオリンピックの開催地が決まった時から考えていた。僕が初めて参加するオリンピックは東京だと。

 僕は小さい時から水泳教室に通っており、過去に日本強化選手も輩出したほどの名門の中で揉まれながら約束を果たすために日々努力を積んでいた。


約束と言っても幼少期の約束で一体誰と約束したのか覚えていなかった。ただ、いつかまた再会できるのではないかという期待もあり、練習の毎日。そんなある日練習の帰り道に家の前に車が止まっていた。


「(誰か来ているのか)」


 僕はそう思うと、門を通り抜けて玄関の戸を開ける。


「ただいま」

「おかえりなさい」


 玄関の戸を開けた先には母親がお盆にお茶を載せて運んでいるところだった。


「誰か来てるの?」

「そうよ。アンタも幼馴染の女の子」


 僕の幼馴染?玄関先で疑問に思っていると、母親が驚いた顔で僕の顔を見ていた。


「覚えてないの?」

「幼馴染なんていたっけ?」

「居たわよ。そう言っても幼稚園の時だから忘れてるのも無理ないわね」


 母親はそう言って客間の方に歩いて行ってしまう。僕も水泳用の鞄を置いて客間へと向かう。段々と近付くにつれて父親の声と客であろう男性の声が聞こえる。


『お元気でしたか?』

『はい。ようやくこちらに帰る予定ができましたので、お邪魔させていただきました』


 僕は入っていいものかと考えていると、中にいた母親が出てくるのを見て入れ違いで中に入る。入ると父親と客の男性そして一人の同じくらいの女の子がいた。その女の子を見ていると、目が合う。


「えっ……あ、こんばんは」

「こんばんは」

「彰。久しぶりに里奈ちゃん見て、綺麗だからってガン見はよくないぞ」

「りな、ちゃん……あっ!」


 僕はこの時思い出した。佐々木里奈ちゃん、僕と同じ幼稚園に通っていて、近所も近かった幼馴染。一緒に水泳教室にも通っていた。


「あの里奈ちゃん?」

「久しぶりね、彰君。今でも水泳続けるのね」

「勿論!里奈ちゃんも?」


 僕がそう言うと彼女の顔が曇る。僕は何かまずい事言ってしまっただろうか。


「彰、里奈ちゃんはな……」

「おじさん。大丈夫、ちゃんと話します」


 彼女がそう言うと、父親と男性は席を外した。僕と彼女だけになった客室に静かに彼女の言葉が響く。


「彰君との約束。私、守れなくなってたの」

「どういう事?」


 僕は静かに畳に座り、話を聞く。聞かされる話は僕が知らなかった事ばかりだった。


「私が小さい時に引っ越したのはね、私に心臓の病気があったからなの」

「えっ」

「彰君と約束した後に熱が出てそれから入院してて、ようやく退院まではできたんだけど……」

「……だけど?」


 泣きそうになる彼女にどうすればいいのか考えていると衝撃的な事を言われる。


「運動はもう一生できないって。……だから一緒にオリンピックの舞台に立てません」



 この衝撃の告白に僕はどうしようもなかった。頭の中で混乱して絶望した。


 それが日本選手権がまじかに迫った時の出来事だった。

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目指す夢と約束の狭間 椎名由騎 @shiinayosiki

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