後編

 カーディガンを羽織って、家を出た。

 なんかお腹痛くなってきた。


 玄関を出てから右に曲がって約50m。

 家から2つ隣が幼馴染の家だ。


 歩道側からあいつの部屋の窓がちょうど見える。

 あいつにしては珍しく、カーテンも窓も閉まっていた。

「……何回言っても聞かなかったくせによ」

 なんだか、無性に腹がったって来た。

 いや、窓を閉めろといったのも俺なんだけど。




 家の前に着いたので、インターホンを押す。

 ピンポーン、という音が、休日の住宅街に響いているような気がした。

 まるで、この世界に、俺しかいないような。


「……出ねぇな」

 5分くらい経っただろうか。

 電話には出たので、家にはいるはずなんだがな。

「電話、掛けるか」

 今度はすぐに出た。

「もしもし?」

『あっ、もしかして、もう着いた?』

「おう。さっきインターホン押したんだけど、気付かなかったか?」

『あー、うん ちょっと、立て込んでて』

「そか、今出てこられるか?」

『うん、今行くね』




 5分後、ドアが少しだけ、開いた。

「おう」

「ごめんね、ちょっといまっ出れなくてっ」

 頬が赤いし、なんだか息も荒い。

「どうした? 風邪でも引いたのか?」

「ううんっ 大丈夫ぅっ」

「? あ、じゃあ、コレ」

 作ったチョコレートを差し出す。

「あっ、うん ありがとっ」

 そういって、こいつは、チョコを受け取ったものの、取り落してしまった。

「落とすなよ…… 頑張って作ったんだから」

 そう言って、俺は屈んで落ちたチョコを拾い上げた。




 拾い上げたチョコを渡そうと、俺は上を向いて、言葉を失った。

 絶句した、というか、何か見てはいけないものを見てしまったというべきだろうか。


 それは、ノーブラで前かがみになったからか、見えてしまったこいつの胸ではなく、

 目にかかった髪をかき上げたときに見えてしまった、見覚えのないピアスでもない。


 足元が、夕日に照らされて、一部だけが見える。

 足だ。

 黒く、太い足が、こいつの後ろに立っているのが見えた。


 俺は言葉を失ったまま、チョコを渡した。

「あっ、ありがっとうっ ま、またねっ」

 幼馴染は、そう言い残して、ドアを閉めた。


「……」

 俺はしばらくその場を動けなかった。

 心臓はずっとバクバクしている。

 うそだろ。

 あいつに限って、そんなことはないはずだ。

 だって、そんな。


「……っ~!!」

 ドアの向こう側からは、声にならない”こえ”、が聞こえる。


 俺の心臓は、激しい音を立てて止まらない。

 いっそ、止まってしまえばいいのにな、なんて思った。


「ぁ……」

 あいつの声だけが、今止まった。

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チョコとピアス 360words (あいだ れい) @aidarei

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