第57話 蔵の鍵

 練習部屋の前で、ちょうど戻って来た恭也と会い部屋に入ると武人はまだ気を失ったままだった。

「どうなの、月島さんは? 」恭也が倒れたままの月島さんを見下ろしながら舞ちゃんに聞く。

「ずっと幸せそうに眠っています」と月島さんの横に座る舞ちゃんが答えた。

「まさかずっとこのままだったりしないよね? 」夏目が不安そうに俺に聞いた。

「そんな訳ないだろ。放っといたらその内目を覚ますよ」俺も少し心配になったが敢えて自信満々に答えた。


 いつも通りならもうそろそろ目が覚めても可笑しくない筈なのだが。天国だけで気絶して地獄の痛みが無いから、なかなか目覚めないのか、または俺の業の使用時間が伸びたように業自体の威力も増したのか等と考えていたが答えなど出る筈もない。


 月島さんを部屋に寝かせたまま全員外へ出て、それぞれの探索結果を報告しあった。まず俺が月島さんの住居に入って調べた結果を話すと、みんなは月島さんに家族がいる事に驚いていた。


「俺が探した建物はもう一つの修練場みたいだったな。代々の道場主の写真が二十人ほど額縁に飾られてたぞ」

 恭也が道場の大扉の柱にもたれながら報告を終えた。


「僕は蔵の中を探そうと思ったんですが鍵がかかっていたので諦めて、涼介さんと隣の屋敷に入ったんですが、其処には特に何もありませんでしたよ」

 夏目がみんなに説明した。


「コイツが言ったように特に何も無かったぞ。ただ全員じっくり探す時間が無かったからな」

 と涼介。


「私が探した建物は女性の荷物と子供用のおもちゃとかが整理されてあったけど…………随分前の物みたいだったよ。なんかこういうのドキドキするね」

 里香ちゃんは少し興奮気味に話す。可愛いなあ。


「蔵だな」

 全員の意見が一致した。全員全部の建物に問題なく入れたのに蔵だけ鍵が掛かっているなんてかなり怪しい。


「あの蔵の鍵をどうするかだな」

 涼介が言った。


「鍵ならあったぞ」

 俺は机の引き出しで見つけた事を告げた。

「さすがっ! 流石のハルイチくん! 」

 夏目が大袈裟に俺を褒めた。


 全員を蔵の前に移動さして、俺は一人、再び月島さんの寝室に戻った。


 引き出しから燻んだ金色の鍵を握ると、それはズシリと重くとても頑丈にできていた。

 鍵の取手部分の穴に紐で木の札が括り付けられてあり、擦れて見にくいが何か文字が書かれている。多分、蔵の名前でも書いてあるのだろう。俺は鍵を持って急いでにみんなの待つ蔵へ向かった。


 蔵の前で待つ全員に俺は少し自慢気に木の札の方を持ち黄金の鍵をみんなが見えるように上に掲げブラブラさしてみせた。


「お前、マジか! どうやったら、そのバカでかい鍵がこの小さな錠前にはいるんだよ! 」

 涼介が吼えた。

「こんな時にウケ狙いなんていらねーんだよ、バカハル! 良く見ろよ、木の板に記念とか宮崎とかって書いてあんぞ! 」

 恭也が呆れた顔で鍵の木の札を指さした。


 よくよく見ると木の札の裏に「幸福の鍵 宮崎記念館 サボテン園」と書かれている。この大きなな鍵はお土産品であの家族写真、宮崎県に旅行に行った時のものだったんだなと一人納得した。


「ハルイチくん、喧嘩以外はポンコツ系なんですか、ひょっとして、アハハハハ」

 夏目の癖に俺を馬鹿にして笑う。


 逆ギレで当たり散らし全員を黙らせようかと思ったが、里香ちゃんと舞ちゃんが大笑いしているので、俺もヘラヘラするしかなかった。

 随分な言われようだが、ここは甘んじてコイツらの言葉を受け入れよう。



 結局、恭也が力任せに錠前を引っ張ると錆びついていた錠前棒ごとポキリとキレイにへし折れた。

「おおおお!!! 」

 全員雄叫びを上げた。


「結局何だったんだよこの時間は、ええ? 」

 涼介が俺を睨む。

 本当に全く必要のない無駄な時間だった。唯々時間を浪費しただけだった。


「そのカギちゃんと戻しとけよ、ハル! 」恭也が吐き捨てるように言うと蔵の中へ入って行った。

 俺は「はい」と返事するしかなかった。


「パクんなよ、ハル! 」涼介が中へと続いた。

 俺は再び「はい」と返事するしかなかった。


「ドンマイ! 」夏目が一言、声を掛けると舞ちゃんと中へ入った。

「…………」

 俺は黙って二人を見送るしかなかった。

 舞ちゃんはチラリと俺を見るとニコリと頷いた。

 蔵に入った夏目と舞ちゃんが直ぐに戻って来て「俺も須藤さんたちみたいにハルって呼んでも良いかな? 」と夏目が聞いて来た。


 コイツ年下の癖にとは思ったものの「好きにしてくれ」と言うと 舞ちゃんが「じゃあ私も」と言った後、素早く蔵に入って行った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る