27日目 「ルキアの記憶」

 「それじゃあ私達がここに来るまでの話をしましょうか......少し長くなると思うけど聞いてくるかしら?」


 みよ達はコクリと頷いた。

 


 

 私は生まれつき人より魔法の力が強かった。でも人を傷つけるのに魔法を使いたくはなくて、小さい頃は魔法が出来ることをずっと隠してきた。


 それでも私は魔法が好きだった。誰かを幸せにできる、そういう魔導士になりたかった。そんな私が始めたのが薬屋で、魔法を込めて、みんながちょっと幸せになれるような薬を調合しながらゆっくりと暮らしていた。


 夫は私がやってることを肯定してよく助けてくれたし、本当に幸せだったと思う。娘のリリとただ穏やかに暮らしたいだけだった。


 薬屋の仕事は思ったより順調に進んだ。いや、順調過ぎたのかもしれない。国では少し有名な薬屋になってしまった。もちろん魔法を使ってることがバレないはずはなかった。


 そんなある日、王宮魔導士というものに任命されてしまった。もちろん名誉なことだった。給料も高めだし、待遇も悪くなかった。ただ、薬屋をやってた時と違って家族と会う時間が少なくなったのは少し残念だった。それでも、リリのためを思って働いていた。


 だけどある日突然、リリと私は引き離された。王宮には他の魔導士たちも集められて、何やら怪しげな儀式のために魔力が必要だと聞かされた。そのためには、しばらくの間眠り続ける必要があるらしいけど期間は不明で不安しかなかった。


 報酬が高いこともあって依頼を受けてしまう人も少なくなかった。それでも私は断ろうとしたのに、あの人達はリリを人質に取ってきた。


 私は決意した。リリを連れてこの国を出ようと。それからは大変だったけどなんとか隣国まで逃げてくることができた。


 その日初めて、人を傷つけるために魔法を使ってしまった。



 「まあ、そんな感じよ。だからここであったことも私達のことも全部忘れて行きなさい。そっとしておいて欲しいの。もうあんな目には会いたくないから......」


 そう話し終わるとマリーは涙を流しながらルキアの頭を撫でた。


 「リリのために頑張ってきたのね......とても出来ることじゃないわ」


 ルキアはマリーが急に涙を流し、自分の頭を撫でていることに驚いている。


 「何もあなたが泣くことないじゃない......どうして」


 そう聞くとマリーは


 「誰にだって労わってもらう権利はあるわ! 私はただお話を聞いただけだけど、ルキアがリリのことをとても大事に思ってるってことははっきり伝わったの......だから誇りを持っていいと思うわ」


 そう言うとルキアからは初めて笑みが溢れた。


 「不思議な子ね。人に頭を撫でられたのなんていつぶりだったかしら......もう忘れてしまったわ」


 それを見るとリリは


 「お母さんが笑ってるの久しぶりにみたかも」


 と言いながらマリーと一緒にルキアの頭を撫でる。


 「もう、リリまでやめなさい」

 

 そうは言いながらもルキアはいい笑顔をしていた。


 「ごめんなさい、取り乱してしまったわね。それじゃあ少しの間だけどリリと仲良くしてくれてありがとうね。さようなら......」


 そうルキアが言うと


 「待って!!」


 と言いながらみよが立ち上がった。





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