第48話 カウザルギー12

妹の家に帰り、病院でのことを報告すると、


「どうしてすぐ申し込まないの」


私は驚いて、


「だって、障害者だよ?障害者になるなんて…」


「いいじゃない。もらえるものはなんでも、もらっとけばいいじゃない。

申請したからって、すぐヘルパーさん頼めるわけじゃないんでしょ?

4月までに出て行ってくれないと困るの。

新学期が始まると子供たちのことで忙しくなるし、町内会の仕事もあるんだよ」





2人の甥の下のほうの子は、4月から中学に上がる。

もともと、中学受験をするかしないか迷っているところだったのだが、私の病気で完全にその話もなくなった。


3月生まれのこの甥は、同学年の子に比べて少し幼い感じでもあったし、妹もどうにも厳しく締め切れない性格で、受験と言うにはあまりにもゆるゆるの勉強の仕方だったが、手首を痛める前の私も、少し協力などしていた。

上の子の時には、だいぶ落ち着きのない子なので、妹は最初からさっぱりその気がなかったが、下のほうはゆるゆるながらも、学習塾に通い、多少の準備はしてきたのだった。

そんな調子だったので、志望の学校に合格する確率は低く、果たして無理をして受験するのが良いのかどうか、秋、私の容体が悪化する少し前、妹は迷っている様子だった。

私は、自分が中学受験に失敗した経験から、たとえ失敗しても中学受験は後々に役に立ってくると思っていたし、上の子の時にもやるだけやってみて欲しかった位なので、手首を痛めた後も、まだそれほどひどくない時期は下の子に勉強を教えたりしていたのだ。

だから、自分の病気で完全に受験の可能性がなくなってしまった事は、とても残念に、申し訳なく思っていた。




それはともかく、確かに、中学に上がれば環境が変わって忙しくなるだろうし、4月までに妹の家を出るとなると、一刻も早く障害認定を受ける必要があった。

年末年始を挟むので、すぐに手帳が出るかどうかわからないし、それからヘルパーさんを派遣してくださる事業所も探さなければならない。


私はいまだに、半年もすればだいぶ良くなるんではないかと言う希望が捨てきれずにいたのだが、回復の速度は気が遠くなるほど遅く、まるで良くならない可能性も考えておかなければならなかった。


こうして、残念ながら、このときの私には、障害者になるという事実に、のんびりショックを受けている時間は与えられなかった。



少し考えさせてくださいと言った翌日には、病院に電話して、ケースワーカーさんに手続きをお願いし、担当医の次の診察日に書類を書いてもらいに病院に行った。





私は割と、1人でどこでも平気で行くし、家の中でのんびり読書をしたり、子供の頃から1人で時間を潰すことに慣れていて、もともと結婚願望もほとんどなかったし、独り身であると言うことをそれほどつらくも思った事はなかったのだが、こういう時は本当につらい。


1人で生きていくと言う事は、そういう時にのんびりとゆっくりと、自分の境遇を受け止める時間すらも与えられないと言うことだ。

何かあったとき、すぐに気持ちを切り替え、動かなければならないと言うことだ。

大変だねと慰められ、立ち直るまでの幾ばくかの時間を与えられないと言うことだ。



何もない時は良い。

家族がいても、慰めにならない人もいるだろう。


一人が、それほど悪いとは言わないけれど、そうか、障害者か、と一緒にショックを受けてくれる、たった1日でも一緒に嘆いてくれる人がいたら良かったなと思った。

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