ザンザスが心を痛めているのは、リリィの生い立ちの事だった。

リリィを弄んだ奴はかっ消した。


だが。

リリィの傷は消せないのだ。

身体に付いていた鞭の傷痕は、いずれ消えるだろう。


しかし。

失ってしまった大切なものは、もう元通りにはならない。

リリィは、それを充分には理解していないだろう。


「俺が…守ってやりたかった」


ザンザスの苦悩が、伝わって来る。

そっと、寝息を立てるリリィの髪を撫でれば、ん、と小さな声を出して、安心しきった寝顔を向けた。

さらさらと、きらめく金髪がその白い顔にかかる。


ザンザスは、時を忘れいつまでもリリィの寝顔を見つめていた。


「妹か…。不思議な気分にさせやがる」


ザンザスにとって、初めての感情だった。


『愛しさ』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る