第15話 全部シマウマさんのせいだ。

「どうしてこうなった」


 気付いたら僕は、誘拐・監禁されていた。

 現在位置は、僕らが乗っていた王都直通高速列車、その先頭車両だろう。両サイドに座席が見られることから、仰向けで列車の通路に転がされている様子。若干身体に痺れがある気がして不快感がある。


 また、カカッカッカと軽快で不快な音が上から聞こえる。できる限り後頭部を下げる形で視線を上に向けると広めの運転室があり、そこで扉を開いたまま運転士さんであろう人がSFチックなデザインのダンスリズムゲームで踊っていた。なんでだよ運転しろ。


 まぁいいかほっとこう。という感じで臭い物に蓋をして、次は頭を上げ、視線を下に向ける。

 黄色い花柄の可愛らしい毛布と赤色のリボンでグルグルかつセンス良く巻かれ、締めは綺麗なちょうちょ結び――いわゆる簀巻すまきにされていた。なんともシュールな状況。意味がわからない。


 頭以外は動かせず、床が硬くて後頭部が痛い。誰か枕、枕をくれ。


「おお、起きたべか」


 なまった方言が聞こえた後続車両の方を頭を上げて見る。いかにも山賊チックな恰好をした人が居た。語りかけられたので僕は丁寧に返答することにした。


「おう、起きたべよ」

「んだか。元気そうで何よりだべ」

「んだんだ」


 どういう会話だ。この状況で行う会話のキャッチボール内容ではない。ノってる僕も僕だ。まずはこの状況を改善すべきだろう。


「空いてる席に座らせてもらえないべか?」

「あ~オラ潔癖症でなぁ、今手洗ってきたから人に触りたくないんだぁ。ごめんなぁ」

「なら仕方ないべなぁ。それじゃ枕か何か頭にひいてもらえないべか?」

「あ~オラのひざ掛けでいいだか? 洗濯してから使ってないし綺麗だぁよ」

「お~いいべいいべ。よろしく頼むっぺ」


 あぁ、最後の語尾、頼むべ、にすべきだった。ちょっと失敗したな。気が緩んで油断してしまった。だが山賊さんは僕の失敗を気にせず、所持品であろうでかいバッグからひざ掛けを出し、端っこのズレもないよう畳みなおして頭の下にひいてくれた。ありがたい。そして優しい、良い匂いがした。


 って違うそうじゃない。状況改善ってそういうのじゃない。必要なのは状況の把握から改善方向・目標を示すことだ。枕は重要だが枕じゃない。


「今何時です?」

「十一時過ぎだぁ。みんな昼飯はなんだべなぁ。オラは持参の弁当だぁ」


 慣れないなまり言葉はやめた。この人は話術の天才だ。油断すれば完全に相手のペースにハマってしまう。


「ふむ。ところで僕、なんで簀巻きにされて転がされてるんでしたっけ?」

「あ~オラ達が誘拐したからだべなぁ。お前さんが手洗ってるとこで仲間がビビビッてして気絶させて、オラの毛布とリボンで動けなくしたんだぁ」


 ……なるほど、思い出してきた。なぜリボンなのか。ってそうじゃない、僕よ、この人のペースに巻き込まれるな。そう、時系列ごとに整理するんだ。


 今朝、目覚めて朝食を摂った後、先日買った高級感溢れる服で一番オシャレなのをチョイス、着替えて出発の準備。

 九時半、僕ら四人はロボ子さんの車で駅まで送ってもらった。車内ではくだんのヅラを被ると意外にも三人とロボ子さんからも好評で、調子に乗ってピン止め、固定した。

 十時、列車に乗車。事前に予約していた最後部車両の座席に座る。昨夜あまり眠れなかったのだろう。席に着いて十分ほど経った頃には三人揃って気持ちよさそうに眠っていた。

 十時半頃、トイレに行こうと前車両の方へ向かうが、どこも山賊チックな恰好をしたおじさん達が並び、混雑というか暑苦しいにもほどがあったため前へ前へとおじさん達を回避。

 ようやく先頭車両に繋がる廊下で空いていた個室を見つけ、脇の洗面所で手を洗っている最中に山賊さんのお仲間からビビビッと電撃っぽいのをくらって失神。そして今に至る、と。

 ……そうか、あの暑苦しい空間は罠だったのか。なんて巧妙なトラップ、これは引っかかっても仕方ない。


「誘拐の目的は?」

「んー、親分も何も言ってなかったなぁ。わかんねぇけどお前さん貴族様か大富豪様だべ? 身代金とかじゃねぇかなぁ」

「いや普通の貧乏平民なんですけど……」

「そうなんかぁ? うーん不思議だべなぁ」


 恐らく、上等な服着て、ついでに綺麗なヅラ被ってたから高貴な身分の人と勘違いされたってとこか……。なんてことだ。この誘拐もあのステマも全部シマウマさんのせいじゃないか。ちくしょう、今度シマウマさんのSNS荒らしてやる。


「あ、そう言えばこの車両、他の乗客いないんですか?」

「んー、自由席だけどオラたちがキタキューで並んでたらみんな先譲ってくれたなぁ。オラとかヘルニア持ちだしなぁ。キタキューの人たちはみんな優しい人たちだべ。なんでか乗ってきてないみたいだけんど」

「……」


 ともかく状況はわかった。誘拐犯のくせに意味不明なくらい丁寧に教えてくれるこの山賊さんを利用すればなんとか脱出できるかもしれない。

 ……いや、親分とやらに無価値な存在と知られて見つかったら埋められる可能性が高いな……。



 助かる道はただ一つ、か。




 アルさーーーーん! 助けてーーーーーー!!



☆★☆あとがき☆★☆

 皆様、いつもご覧いただきありがとうございます(人''▽`)

 今後ともぜひご贔屓いただければ幸いです。少しでもクスッてしていただければ応援、お星様等もぜひぜひポチッとよろしくお願いいたします。


 2021/01 続き、更新しましたー。八カ月ぶりーやっふー。

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