第2話 国立リッツ学院

 国立リッツ学院。


 以前は国立ハートフル孤児院という口ずさむだけで心温まりそうな名前だった。故あって孤児となった子供達を、清く正しく健やかに育て上げることを教育方針とした、歴史ある由緒正しき施設だったそうな。



 ……そんな素敵施設を、三十年前に『義を見てせざるは勇無きなり』を地で行く元帝国官僚、リッツ・クラージュ名誉体育教官殿(九十四歳)が、なんでか丸ごと破壊・更地にした。


 その後、新たに創り上げたのが、今を輝くリッツ院の歴史的誕生。

 清く正しく健やかでなんか笑えて、『義を尽くさざるは利を得ざるべし』という信念を持つ人材を育て上げる。

 リッツ院は、そんな脳筋的資本主義な校訓を貫き通してこの【超日之本帝国スーパーひのもとていこく】に産みだされてしまった、孤児院兼エリート芸能養成学院となるのであった。



 ここで言う芸能とは、一芸を極めうる才能。

 話術や心理学、読心術による場の支配能力。

 文化芸能技術力や発想力。

 理科学的知能や分析能力。

 身体能力や戦闘能力。

 超能力。

 集団におけるカリスマ性やそれらを支える補助能力。

 そして多くの、ともすれば世界中の人間にとどまらず、多様な種族までも虜にするアイドル性など……。

 まさに、神から与えられたギフトである。


 もちろん神は等しくそれらを与える存在ではなく、歴代院生においてもむしろ非凡な才を持つ者は多くはない。

 才を持たない者達は、平々凡々な人生こそ幸せ、と本心から思う者や諦め半分に思う者もいれば、才能の差はあれど、特定の一分野においては誰にも負けまいと研鑽を続ける者もいた。そしてそれらの人間がギフトを受け取った者たちへ向ける視線は、期待や崇拝、そして嫉妬まで様々。


 しかしそれらの感情の圧力に耐え、芸を極めたその先に待つ、輝ける世界を切り開くことこそが国立リッツ学院の教育方針――至上なる命題なのだ……っ!



 ……という、なんか厳かな歴史や存在意義はあるけれど、基本的に学院生達の性格というか、性質は緩い。すごい才能を持った人達は大体変人なので、今の時代においては嫉妬なんてとんでもない。むしろ「わたしアレな感じじゃなくて良かった神様ありがとう!」って考える人の方が多いし。


 実際、僕(十七歳セブンティーン)と近い年齢の学院生はサクヤさん(たぶん同じくらい)含め、僕以外変人ばかりだ。受け継がれしブラック育成というか強制労働のせいでまともな人間は卒業し(逃げ)てる。年少組の皆は可愛げもあるが、リジュ以外やっぱり変だ。


 院運営者。上位幹部達なんて、名ばかり経営者であるものぐさマザー、リッツせんせーを始め、一部の良心を除く幹部全員が戦闘能力に傾きすぎた戦闘民族。


 以前、今は亡きハートフル孤児院を更地化した理由を問うたところ、リッツせんせーはこう答えた。


『でもでもだって、和風じゃなくて洋風のかわいいお城みたいな所に住みたかったんだもん』


 ……っていや、ジジイがでもでもだってとかあんまりかわいくねーからっ!! あと理由っっ!!


 ちなみに彼のファミリーネームはクラージュであり、孤児の学院生は全てクラージュの名が強制的に付いてくる。

 誠に残念ながら、ぼくもクラージュの一員だ。ここまで育ててもらった立場で申し訳ないけど……ほんとに残念だよリッツせんせー。



「……神様、僕をアレな感じにしないでくれてありがとう」



 願わくば、リジュだけはピュアな天使なまま大人にしてください。

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