第17話 「ただし、条件がある」


(どうしよう......なんとか説明しないと)


「こ、これはね! 生まれつきできたって言うか、ちょっとしたものなら動かせるの!」


「ちょっとしたものって......」


 ハロルドはまだこの世界についてそこまで詳しくなかったが、少なくとも目の前でみた子の力が普通ではないことはわかった。


「まあいい、その力は決して人前では見せるな。利用されかねない......」


 普通なら警戒されても仕方ないだろう。信用できない。危険だと言って置いていかれたかもしれない。しかし、幸い勇者は転移者だから理解があったのかもしれない。


(ここは、よくある寛容設定に救われたって感じかな......)


 そうしてハロルドは身を低くして、ミーファは少し頭を下げてその1メートル四方にポッカリと開いた正方形の穴を潜り抜けるのだった。


ーー日は沈み、普通ならその暗がりを明かりが染め上げ、人が賑わいをなす頃の街は何故か閑散としていた。


「勇者さん、これはいったい......」


「さあな、王都を閉鎖するってくらいだきっと深い理由があるんだろうな。」


 ミーファ達はもう遅いのでとりあえず宿を取ることにした。


 「あまり目立たないようにしなければな......近場に宿はないか。」


(ねぇ、アニー? 近くに宿があるとかはわからないの?)


【ええ、1km以内の情報でしたら探知が可能です。】


(え、できるの?! すごいダメ元で聞いたんだけど......)


【ミーファ様が聞いたのではありませんか。どうしますか? 探知いたしますか?】


(......じゃあお願い。)


【承知しました。 検索の結果、100m先の角を右に曲がった路地に宿泊施設が一軒見つかりました。】


(......ナビかっ!)


そう心でつっこんでいると、


「どうした? マリー? 早く宿を探しにいくぞ。」


「あ、ええと、この道を100m進んだところで右折したとこに宿があるみたいです。」


「どうしてわかる?」


 そう言われるとミーファはたじろいだ。


「あ、あっ、違うんです! 昔から勘がいいというか何というか......その」


 (またやっちゃった......急に話しかけるのが悪いんだからね!)


 ハロルドは、やはり怪訝そうな顔でこちらをみるが、やれやれと呆れたようで納得してくれたようだ。


(ちょろい......)


 味をしめたミーファだった。


 そして町並みを少し歩き、右に曲がると、

宿屋と書かれたいかにも宿屋な看板が見えた。


「本当にあったな......」


 ハロルドもそこまでミーファをあてにしていたわけではなく、ミーファもものは試しとアニーに聞いてみただけなので、二人とも驚いていた。


「ラッキーですね! 今日はついてます!」


 ミーファがそうわざとらしく言うと、ハロルドは苦笑いをしていた。


「じゃあいくか。」


 そうして、私達は宿の扉を開ける。


 中に入ると、ロビーには誰もいなかった。とんだ不人気の宿に来てしまったと二人とも思っていたが、静寂をかき切るように声が聞こえた。


「いらっしゃいませ......お客様。ねぇ、君たちよそ者だよね? どうしてここにいるわけ?」


 一瞬背筋が凍ったが、どうやらすぐに兵士とかを呼ぶわけではないらしい。


 受付から突然話しかけてきたのは、ミーファと同じくらいだが、髪を短く切り、赤色の綺麗な髪で瞳は澄んだ青色をした中性的な女の子であった。


「いやぁ、ごめんごめん驚かせるつもりはなかったんだけどね。別に僕は君たちを引き渡そうとかそう言うことは全く思ってないから。」


 ミーファは少しほっとした。


 その矢先、彼女はおもむろに口を開く。


「ただし、兵士に引き渡さないかわりに条件がある......」


 彼女は、そう切り出したのであった。

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