ナニをするにも支配的!麗しの暴君悪女様、圧倒的独裁で民衆を華麗に幸福へと導く!

山田 マイク

第1話 処刑


「殺せ。殺すのじゃ!」


 クオリティラル・パラダイム・サッカー・ブリリアント・プリズムミマム17世は、天蓋のついた豪奢な座具でふんぞり返り、甘い香りのする扇子を振りかざして、そのように命じた。


「ハッ!」


 玉座の段下にいた大臣が慇懃に傅いたあと、顎をしゃくって合図を出す。

 すると、命を受けた甲冑の戦士が大剣を振りかぶった。

 

「お、お待ちください、陛下!」


 跪いた首に鉄の首輪をつけられた男が、懇願するように言った。


「わ、私の何がいけなかったのでしょうか! 不肖ながら、私はこの国のため、そして女王陛下のために、粉骨砕身捧げてまいりました。我がマルディーニ家は、先代の王から仕えております。もう長い間、特に問題も起こさず、真面目に尽くしてきた。それがなぜ――なぜ、斯様な仕打ちを」


 男は目に涙を浮かべ、哀れな命乞いの言葉を吐いた。


「私は今朝、いきなり死罪を言い渡され、何の説明もされておりません! どうか――どうか説示を」


 すると、クオリティラル・パラダイム・サッカー・ブリリアント・プリズムミマムは顎に人差し指をあて、「うーんとねー」と呟くと、にっこりと笑った。


「えっとね、気に食わないから」

「き、気に食わない?」

「そ。キモいの」

「で、ですから、私の何が」

「んー……顔?」


 こて、とクオリティラル・パラダイム・サッカー・ブリリアント・プリズムミマムは首を傾げた。


「か――顔、ですと」

「そ」

「ちょ、ちょっとお待ちくださいませ! そのような理由で、この私を処刑するのですか」

「そ」

「そ――そんな滅茶苦茶な! 私は辺境の出身とはいえ、由緒正しきマルディーニ家の長男、公爵の身分ですぞ。大体、この処刑、審問官や枢機卿たちの許可を得ているのですか」

「得てない」

「罪状はなんですか」

「罪状はない」

「馬鹿な!」


 男は怒鳴った。

 すると壇上のクオリティラル・パラダイム・サッカー・ブリリアント・プリズムミマムは半眼になり、いかにも面倒くさそうに、


「うーるせえなあ。そんなの要らねーってばよ。おみゃー、ちんを誰と思ってんのがね?」

「ゆ、許されない! いくら王でも、このような横暴が許されて良いはずが――」


 この期に及んで喚き散らす男を遮り、クオリティラル・パラダイム・サッカー・ブリリアント・プリズムミマムは、いかにも軽薄そうに、殺れ、と冷酷な言葉を吐いた。

 すると、鋼鉄の鎧を着た兵士が、その凶悪な刀を振り下ろした。


 ごとり。


 男の首は床に転がり、玉座の間は瞬く間に血の海と化した。


「くっせー!」


 むせ返る血の匂いの真っただ中で、クオリティラル・パラダイム・サッカー・ブリリアント・プリズムミマムは鼻をつまみながら、ケラケラと笑った。


「よーし、死んだな! あースッキリした! コイツ、気に入らなかったんだよなー!」


 女王はそう言うと、ぴょん、と玉座から飛び降りた。


「ほんじゃ、お前ら、あとは任せたぞ。くせーから、ちゃんと掃除しとけよ」


 ハッ、と臣下どもは一斉に傅いた。

 数百の人間の真ん中を、鼻歌交じりに彼女は歩いていった。


 その中の一人に、マルクスという男がいた。

 彼は体中を汗だくにし、ガタガタと震えていた。

 恐怖からくる震えだった。


 ――この国は狂っている。


 一部始終を見て、彼はそのように確信していた。

 あの女王。

 なんという悪辣で非道な為政者だろうか。


 気に食わない、という理由で臣下の首を刎ねる。

 数百人の貴族を集め、玉座にて斬首による公開処刑を行う。

 とても正気の沙汰ではない。


 それなのに、この場にいるものは、誰も彼女に口を出せない。

 まるで、国の中枢が彼女に誘惑支配テンプテーションされているかのようだ。


 権力が暴走している。

 国外留学で政を学んで来たマルクスにとって、今まさに目の前で起きた出来事は、頭が狂いそうなほどの狂気の沙汰であった。


「やい」


 じっと地面を見つめていると、頭上から声が降ってきた。

 美しく雲雀のなくような声だが、今は地獄の閻魔よりも恐ろしい声音。


 汗だくの顔を一度つるりと撫で、恐る恐るおもてを上げると、クオリティラル・パラダイム・サッカー・ブリリアント・プリズムミマムがマルクスを睥睨していた。


「はっ」


 マルクスは震える体を抑え込み、頭を下げた。


「お前。今日から朕の側近だ」

「――は?」

「今までの側近には、さっき殺したあいつの代わりをさせる。だから、その代わりはお前だ」

「わ、わたくしが」

「そうだぎゃ」


 そうだぎゃー、と言いながら、クオリティラル・パラダイム・サッカー・ブリリアント・プリズムミマムは部屋を出て行った。


 マルクスはごくりと喉を鳴らした。

 心臓が早鐘を打ち鳴らしている。

 血の気が引いて、くらり、と思わずよろけてしまった。


「だ、大丈夫か、マルクス」


 横にいた知人の小貴族、モンブリーが小声で言った。


「あ、ああ。大丈夫」


 そうは答えたものの、マルクスは血が凍るほどの恐怖に襲われていた。

 あの暴君に、側近になるように命じられたのだ。


「おい」


 再び声がして、目を上げる。

 すると、そこにはたっぷりとした白髭を携えた老人が立っていた。


 枢機卿のピエール・ディ・マリアだ。


「な、なんでございましょうか」


 マルクスは慌てて立膝になり、頭を垂れた。


「お前、名前は」

「ドルトムント地方から参りました。オスカー家の3男、マルクス・フィンガル・オスカーでございます」

「マルクスか」


 ピエールは目を細めながら、髭を絞った。

 それから、その象のような濡れた瞳で、こういった。


「今日から、お主がこの国の宰相だ」


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