悪役令嬢と正ヒロインが手を組んだら異世界攻略も夢じゃない‼︎?〜二人で幸せ勝ち取ります‼︎〜
江村歩々里
第1話 これは夢でしょう
「ネイリ―・ケラ・ナトソン。今この場を持って、私レグラス・ノラ・アドソンはお前との婚約を破棄することをここに宣言する!!」
煌びやかな王宮の会場に響き渡る声に、言葉を向けられた少女は何が起こったかのか理解できずに目を瞬かせる。そんな呆気にとられる少女の表情に満足げに頷いた青年は、隣にいた可憐な少女を抱き寄せ更に高らかに声を張り上げた。
「お前が私の想い人である、リリアナ・ラウンセン・テ―ラ嬢にした数々の非道の行い。私はこの目でしかとみた!!お前のような卑しい女が国母になるなど言語道断!!今すぐこの場から立ち去るがいい!!」
大勢の着飾った紳士淑女がいる中で遠慮なく向けられた悪意ある言葉に、少女は戸惑いながらも青年に負けない大声で一言言い放つ。
「喜んで!!」
「なっ!?なんだと!?」
そんな少女の言葉が予想外だったのか素っ頓狂な声を上げる青年に続き、事の成り行きを見守っていた周りの人だかりが騒めき立つ。
「き、貴様!!自分が何を言っているのか分かっているのか!?」
顏を茹でたこのように真っ赤にし憤慨する青年に少女は不思議そうに首を傾げる。
「婚約破棄ですよね?よく分かりませんがお好きにどうぞ。」
全くもって少女はこの状況が理解できていなかったが、目の前の青年が自分に婚約破棄を求めていることだけは理解できた。
だから青年の希望に沿って、婚約を破棄する旨を伝えたのになぜ怒るのかと不思議でたまらなかった。
「っつ!?・・・・・・な、な、なんだと!?貴様、ことの重大さを分かっているのか!?」
なおもわなわなと怒りで震えながら息巻く青年に少女は目もくれず、身に着けている深紅のドレスをふわりと波経たせ優雅に踵を返し、
「全くもって分かりませんが、婚約はお好きにどうぞ!私はこれにて失礼させて頂きます」
そう言い放つと大勢が呆気にとられる中、少女は会場の入り口であろうドアへと颯爽とかけていく。
「な!、何をしている近衛兵!!ネイリ―を捕まえろ!!」
後ろから聞こえた慌てふためいた荒げ声に少女の口元から小さな失笑が零れる。
(さっきは自分で出ていけって怒鳴っていたのに、今度は捕まえろだなんて・・・・・・まぁ私、捕まらない自信しかないけどね)
近衛兵と呼ばれた兵かどうかは分からないが、入り口にいた屈強な体格の男たちが少女を止めるために入口に立ちはだかる。
だが、少女は一向に歩みを止めずそれどころか更に加速して男たちの元へと一直線に向かう。
ぶつかる!!誰もがそう思った中、少女は軽々と男たちの肩に両手をつき全体重を腕にのせ自身の体を宙に浮かせ反転させる。
その鮮やかさに誰もが息を呑む中、男たちの頭上を通り抜けた少女は止まることなく暗闇が広がる場外へと姿を消した。
誰もが唖然とする中、その少女を騒ぎ立てた青年の隣でキラキラとした眼差しで見つめる一人の少女がいた。
―――――――――――
見慣れない会場から人気のない所まで全力で駆けてきた少女は、息を整える間もなく誰もいない中庭にどさりと倒れこむ。
先ほどまで自身がいた光景を思い出し、少女の中で一つの結論が導き出される。
(うん・・・・・・これ夢だわ)
見たこともない場所、知らない人々、時代錯誤な格好。極めつけは現代社会で聞いた事もない婚約破棄の言葉にネイリ―と知らない名で呼ばれた自分。
その全てに心当たりのない少女の喉元から思わず唸り声が鳴る。
(ネイリ―って誰よ)
そう、自分の名前は、
生粋の日本人である自分が西洋風な名前で呼ばれたことなど一度も無く、思い当たる節も全く持ってないので夢だと結論ずける。にしても、学校で呼ばれているあだ名にもそんな珍妙なものはなかった。
いったいどこからそんな名前が出てきたのかと首をかしげ視界に入ったドレスに思わず顔をしかめる。
(あー、それに何なのこの恰好・・・・・・動きにくいったらありゃしない)
ここまで走ってくるまでに何度足がもつれそうになったことか。
それもこれも自信が身に着けているドレスと以上に踵が高い靴のせいである。
一見すらっとして見える深紅のドレスだったが、中にはふんだんにパニエが入っておりそのフリルが歩くたびに足元へ絡みつき覚束無い足取りにさせた。
(そういえば・・・・・・あの子がよくこんな格好をしているキャラクターが出てくるゲームをしてったけ)
霞がかかったように上手く思いだせない記憶の向こうに幼馴染の顔を思い浮かべる。
慣れない格好での全力疾走に疲弊したのか、軽い睡魔が少女を襲う。
(夢なのに・・・・・・夢のなかでも眠いなんて)
眠気に懸命に抗うも瞼は重く、深い微睡へと意識が吸い込まれていく。
目が覚めたらテストの予習をして、大会に向けて走り込みに行こう。そうだ、この夢の事も明日学校であの子に話してあげよう。きっと目を輝かせて聞くに違いない。そんな考えを巡らせながら少女は現実か夢うつつか分からない世界で静かに意識を手放した。
それからどれだけの時間が経ったのだろうか、少女を揺さぶる何かに沈んでいた意識を覚醒させられる。
「ああ良かった!!おはよう!ネイリー!!」
まだ開ききっていない視界に広がる淡いピンクの髪にネイリ―と呼ばれた少女はしばし固まる。
「ネイリ―、起きてるよね?おーい、まだ寝ぼけてるのかな?」
現実離れしたピンク色の髪を靡かせながら愛らしい顔で覗き込んでくる見知らぬ少女にやっとの思いで口を開く。
「どちら様でしょうか?」
「あ、そっかこの世界ではネイリ―とリリアナはライバル同士だから仲良くないんだっけ?あれ、でもネイリ―はリリアナの存在は知ってるはずだし・・・・・・やっぱり、もしかして寧々ちゃん?」
目が覚めても一向に覚める気配のない夢にげんなりしていると、目の前のファンシ―な少女から思いがけない言葉が飛び出し、思わず勢いよく詰め寄る。
「今何て?」
「え・・・・・・えっと寧々ちゃん?間違ってたらごめんなさいネイリ―。」
寧々ちゃん。そう呼ばれた名は確かに自分のものではあるが、どれだけ記憶を探ってもピンク髪を持った知り合いなどいないのだ。
いや、待てよと少女は自分に言い聞かせる。
これは夢だ。夢なのだから私が知っている姿形で現れるとは限らないのでは?
そう考えるすんなりと一人の人物が頭の中に浮かぶ。
それは、眠りにつく前に思い浮かべた幼馴染の少女である。
自分を寧々ちゃんと呼ぶのは近しい者の中でも彼女だけだ。
「・・・・・・もしかして
恐る恐る開いた口から出た言葉に、目の前の少女は大きな瞳をこれでもかと言わんばかりに見開き心底嬉しそうな表情を浮かべる。
「やっぱり!寧々ちゃんだぁ!!」
がばっと勢いよく抱き着かれ、その柔らかい感触に夢にしては妙にリアルティがあるな~何て事を考えていると、幼馴染の口からでた言葉に思考が停止した。
「私達、ゲームの世界にきちゃったね。」
「はい?」
理解不能な言葉に少女は目の前の幼馴染の見慣れない姿を凝視しする他なかった。
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