スズナミ

飛行

涼風が吹いている夏の暮れ。

　私は今空を飛んでいる。

実際に飛んでいるのは私ではなく、私の下にあるベッドが飛んでいるのだが、そこは重要ではないのであまり掘り下げないようにする。

　このベッドが飛びだしたのは先日のことだ。寝ようとマットレスとタオルケットの間に潜りこんだ瞬間、飛び始めた。

　ベッドは私を乗せていろいろな場所を巡った。

　休日には家族連れが、押し寄せる緑の豊かな公園。

　日本で唯一ペンギンを飼育している水族館。

どこも小さい頃母と行った場所ばかりだ。

　私が小学校を卒業する頃には母親は流行病にかかり、寝たきりだった。

　このベッドは幽霊になった母が、下から持ち上げているのだろう。

今日もこの旅の終わりに恐怖を感じながら、マットレスとタオルケットに潜り込む。