Next Game…

夏木

Game Clear

 うるさく鳴き続ける蝉。じめっとした空気と痛いほど照りつける太陽。

 2020年の夏は、いつも通りの高温を記録し続けている。


 世界的大流行となった感染症により、東京オリンピックの開催が延期。人々の移動が制限されて、暇な時間が多くできた。


 世界中の人が楽しみにしていたイベントが延期になったことで、肩を落とした――が、一部の界隈では、むしろ盛り上がりを見せていた。



「――っがぁぁぁぁぁ! あああっ! 負けたっ!」


 ガンガンと冷房をつけ、志場しば光輝こうきは、テレビゲームをやっていた。

 高校生の志場は、夏休みであることを利用して、ほぼ一日中、画面と向かい合っている。


 インターネットを使えば、知らない人とも一緒にプレイできるので、友達がいなくても楽しめるゲームが多い。

 ましてや、感染症対策として、外出を控えるようにと国が言うので、外に遊びに行くところもない。

 学校の課題はあるが、まだまだ夏休み序盤。ゲームに飽きたらやろうと決めていた。


「くっそー……何でいつも勝てねえんかなぁ」


 今日も既に四時間はゲームをしているが、全く飽きない。ずっと負け続けているので、勝つまではやめられなかった。

 勝つためにどうしたらいいかを調べようと、コントローラーからスマホへ持ち替えた。


 何となくスマホを手に取ると、最初にSNSを開いてしまう。今日の志場も、ロックを解除してすぐにSNSを確認した。


 同じ趣味の人たちと繋がっているアカウント。ゲーム以外にも普段の生活について投稿している人も多い。


 自分のタイムラインを遡って見ていると、気になる投稿を見つけた。

 投稿しているのは、ゲームを作っている企業。しかも1社だけじゃない。同じ内容が、同時刻、複数企業で投稿されていた。


『明日、九時開催! 試合の様子を生中継でお届け! 乞うご期待!』


 そう書かれた投稿には、ホームページのアドレスも書いてある。そのページは、一瞬で志場を惹きつけた。


 それは「eスポーツ」について書かれたホームページだった。eスポーツとは何かから始まり、どんなものがeスポーツなのか、世界ではどうなっているのかなど詳しく書かれている。

 そして何よりも、トップページに大きく表示されたバーナーに、「eスポーツ×オリンピック」と書いてある。志場は、目立つこともあって、バーナーをクリックしてみた。


『オリンピックを画面の中で! 融資企業による、eスポーツオリンピックを開催! いつもとは違うオリンピックを楽しもう!』


 そんな謳い文句が書いてある。

 どうやら様々なゲームでオリンピックを行うようで、世界中のゲーマーの参加が予定されていた。


 バレー好きな人が、バレーの試合を見るように、ゲームが好きな志場が、この大会を見ない訳がない。

 志場は、翌日、いつもより早起きをし、スマホよりも画面が大きく見やすいパソコンで中継を見始めた。


 朝一で始まったのは、有名なサッカーゲームだった。二人一組のチームを結成し、対戦する。このゲーム自体は志場も知っているが、やったことはなかった。正直、スポーツゲームよりもFPSが好きなので、プレイ動画は見たこともない。白熱するのは、生きるか死ぬかのゲーム。リアルなスポーツゲームをやるなら、実際のスポーツを見ればいいじゃないか。そんな風に考えていた。

 だが、初めて見るスポーツゲームの試合は、志場の考えを変えた。

 プレイヤーはほとんど喋らない。なのにゲームでは、普通のサッカーと同じくボールが周り、動いていく。無言のやりとりがそこにはあった。そして何より、画面の滑らかさ。リアルすぎる動きは、リアルの人間と変わらない。ここ数年間で進化し続けたゲームは、どんどんリアルに近づいていた。


 他のゲームの中継も始まった。格闘ゲームやカードゲーム、レーシングゲームなどどれも見たことがあるがやったことはないゲームばかり。どのゲームも、プレイヤーは静か。実況が詳しく話す程度。なのに視聴者数が何千人と増え続ける。


 自分がプレイしているわけじゃないのに、ゲームは人を惹きつける。


 それが不思議で、とても魅力的に思えた。

 一日中中継を見ていると、視聴者数がついに十万人を超えた。世界中で見られているようである。その証拠に、コメントに様々な言語が表示されている。


 言葉の壁を超えたゲーム。

 無言の中にもやりとりがあり、多くの人を魅了するゲーム。


 まだまだ日本では「eスポーツ」という言葉が浸透していない。「たかがゲームでしょ」とも言われ、理解されない。だが、eスポーツでプレイされるゲームは、こんなにも人を惹きつける。それは実際のスポーツと何ら変わらない。


 志場も改めてゲームの楽しさ、魅力を知った日だった。プロを目指すわけではないが、ゲームをこの先も続けていこうと思った。


 自分が何かを発信することで、考えが変わるかもしれない。手始めにSNSで短い動画を出そうと決めた。それを見た人が、ゲームをやろうと思うかもしれない。そしてその人から別の人へゲームの楽しさが広まるかもしれない。多くの人が楽しさを知ってくれれば、eスポーツの認知度も上がるかもしれない。可能性は無限大なのだ。テンションの上がった志場は再び、テレビゲームを始めた。



 この時はまだ、将来志場自身がeスポーツでプレイされ、老若男女に人気のゲームを作る側になるとは思ってもいない。

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