第4話 新しい仲間
※作者注意
この話は運営より修正勧告を受け、一部を削除の上、簡単な説明書きにて代えさせていただいています。
物語を完全な形で届けられないことを申し訳なく思いますが、ご理解いただけるようよろしくお願いします。
春の言葉があったとは言え、実際に教室に入る時は緊張した。 まだ会ったこともない人間たちだ。 本当に歓迎してくれるのかどうか、若干の不安はどうしたって拭えない。
しかし、総司のそんな不安はすぐに払拭された。 挨拶と自己紹介をする総司を、新しいクラスメートは暖かい声で迎え入れてくれた。
授業前に春に一人一人紹介され、休み時間ごとにみんな集まって話しかけてくれた。 春から話を聞いていたおかげですぐに全員と打ち解けられたし、歓迎してくれるというのも本当だったんだな、と納得できた。
新しい生活のスタートは総司が思っていたよりも遥かにスムーズで、これ以上は望めないくらいに最高だった。
「やっぱいいよなぁ。 俺も東京に行ってみたいよ」
総司の話を聞きながら洋介が心底羨ましそうに言う。 男子六人、総司を入れて七人で屋上で弁当を食べて食休みの時間だ。
初夏の屋上は雲が適度に日差しを遮り、開放感と吹き抜ける風が何とも言えず心地いい。 ちなみに総司の弁当は春が作った夕飯の余り物を詰めてきていた。
「ごちゃごちゃしてるし
「だけどさ！ 向こうならストリートライブとかだってできるだろ？ ここじゃ聴かせる相手もいないしつまんないんだよ」
賢也の力説に洋介も頷いている。 二人とも楽器をやっている話は春から聞いたが、洋介はギター、賢也はベースをやってるそうだ。 熱心に練習してそこそこに自信もあるようだが、一緒にバンドを組める相手もいなければそもそも演奏する場所もないと二人とも不満げだ。 東京に行ってメンバーを集めてライブハウスで一曲でもやってみたいと、羨ましそうに語っていた。
「卒業したら行ってみたら？ 俺でよければ案内するよ」
「そうだなぁ。 やっぱ卒業したらこんな田舎より都会に出たいよ」
「つって親父さんはどうすんの？ 酒屋を継げって言われてんじゃん」
優太の言葉に父親のことを思い出して、洋介は難しい顔で固まる。
「それはな……だから難しいんだよ」
洋介と優太は幼なじみだ。 子供の頃から家業の酒屋を継げと洋介が言われているのをよく知っている。 そもそも都会で独り暮らしをするのに援助をするほど経済的な余裕がないこともだ。
ここにいるみんな、事情は同じようなものだ。 文彦、賢也、彰、信雄──みんな揃って頷いている。
「総司は卒業したらどうするの？ 東京に戻る？」
信雄の言葉に総司は考え込む。 離婚したばかりで智宏が心配してここにくることになったものの、経済的には独り暮らしくらいさせてもらえる程度の余裕はあるはずだ。 むしろ智宏が離婚して身軽になった分、長期出張が増えるだろうことを考えれば独り暮らしせざるを得なくなる可能性は高い。
しかし、急な環境の変化があったばかりの総司に、そんな先のことを考える余裕はなかった。
「まだ分かんないかな。 あっちの家は処分しちゃったし……父さんがいつ転勤になるかも分からないしね」
両親が離婚して父が単身赴任できているここに引っ越したことは普通に話していた。 離婚の理由については話していないが、事情はある程度伝わっている。
「でも総司のお父さんなら総司を独り暮らしさせるくらい平気だろ？ あそこの監督を任されるくらいだし結構稼いでそうだもんな」
彰が羨ましそうに言う。 総司も話を聞いて驚いたが、彰の父親は智宏の現場で重機オペをしていて、一昨日の家具の運び込みの手伝いもしてくれていたそうだ。 父親から総司のことも聞いていて、いの一番に話しかけてきた男子が彰だった。
「そうなんだけど先のことはそんなに考えてないからね。 大学ももう考えていかないとって思うんだけど──」
「あ、いたいた！」
不意の声に全員が屋上の入口に目を向ける。 そこには女子四人が立っていた。 先頭で総司たちに指を突き付けていた春が小走りに駆け寄ってくる。
「外に行くって言うから校庭探しちゃったよ！ 総司くんに学校の案内してあげようと思ったのに時間なくなっちゃったじゃん！」
「悪い悪い──てかちょうどいいとこにきた」
文彦が立ち上がると春に近付く。 その顔がだらしなく崩れているのを見て、総司は嫌な予感がした。
「ちょうどいいって何？」
「分かってるだろ？ 飯食ったらムラムラしちゃってさ。 頼むよ」
何を、と訊くまでもないだろう。 今朝、春から聞いた話が総司の頭を
「ムリムリ。 もう時間ないんだから。 後15分で授業始まるよ！」
「大丈夫だって。 俺、早いんだからさ」
「お前、それ自慢することじゃないだろ」
「回数勝負だからいいんだよ！」
洋介のツッコミに反論する文彦に周りは呆れたように笑う。 もちろん、総司に取っては笑うどころではない。 みんなですると言っていたが、まさか学校でもしているのかと、信じられない思いでいた。
春は少し考え込んで呆れたようにため息を吐く。
「しょうがないなぁ。 一回だけだよ？」
そう言うと金網に手を突き腰を突き出す。 一瞬見えた白い下着に文彦が顔を埋めるのと同時に、総司は三重の意味で見たくなくて目を逸らす。
物陰に移動もせずにすぐ隣でクラスメートが情事を始めたと言うのに、全員が別に当たり前のことのような顔をしていて誰一人止める気配もない。
「……止めないの？」
「ん？ いつものことだからね」
由美の言葉にそうなんだと、納得はしかねるが何とも言えず総司は黙り込む。 改めて、このクラスメートたちは互いに当たり前のようにこういうことをしてるんだと思い知らされ、総司は複雑な気分になった。
(約100字削除 情事を思わせる音が総司の耳に届く)
胃に不快感を感じるそれに、総司はこの場を去ろうと決めた。
「東京なんてもっとすごいんでしょ？ 驚くことないと思うけど」
「いや……援交とか大学のサークルの問題とか頭のおかしいやつらの話はあるけどさ、そんなのほんの一部だよ。 経験したことないやつの方が多いと思うよ？」
立ち上がろうとしたところで梨子に声をかけられて、立ち去るタイミングを失った総司が仕方なしに答えると、梨子だけでなく全員に意外そうな顔をされた。
「そうなんだ？ ひょっとして総司くんも？」
「まあ……」
総司に経験はない。 それを女子に対して話すのは躊躇われ曖昧に答える総司に、梨子はなぜか嬉しそうに笑う。
「へぇ……そっかぁ」
笑みの意味は分からないが居心地が悪くなり、総司は弁当箱をぱっとまとめる。 文彦が立ち上がるのが気配で分かり、何が始まるのか理解できてしまう。 この先は聞くのも嫌だった。
「ごめん。 先に教室に戻るね」
「みんなで戻ればいいじゃん。 文彦なら二分で終わるよ？ 豚骨カップ麺だから」
「うっせぇ！」
からかうような梨子に文彦が怒鳴り返すと笑いが起こる。 楽しそうな雰囲気に水を差すのも悪く感じるが、これ以上は、この先は総司には正直無理だ。
「いや……ちょっと落ち着かないからさ」
控え目に心境を伝えると、総司はそそくさと屋上の扉へ向かう。 扉を開けた時に耳に届いた春の声がやけに耳につき、それを遮るように扉を閉めると総司は急いで階段を駆け降りた。
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