転じて生きてもそれは罪
小野芋子
プロローグ
その山の山頂は、やたらと爽やかに風が吹いていた。大きな岩の近くに荷物をおろし、俺はほどけかかった左腕の包帯を巻き直すために、荷物の中から新しい包帯を探し出していた。ほどけかかった包帯からは深い紺色に変色した肌が顔をのぞかせている。また、濃くなったような気がする。目的地である、「回帰の草原」はこの山をくだれば、すぐのはずで、この変色した肌は何かを敏感に感じ取っているのだろうか。慣れた手付きで包帯を巻き終え、長いローブを羽織り直す。
そういえば、先程から同行者の姿が見えない。そう思い、辺りを見渡せば、同行者である先生(俺がそうやって呼んでいるだけだが)は、山頂の一番高い岩の上で腕組みをして立っている。風で、毛先だけが金色に輝く長い黒髪がさらさらと揺れている。齢10歳ほどにしか見えない先生はその実200歳で「リンネ」と呼ばれる、簡単に言うと、一度死を経験して生き返った人間だ。そのせいか、先生は死んだときから見た目が一向に老けないらしい。
「なにしてるんですか、先生」
「なあ、お前、その先生っていうのいい加減やめないか…」
先生は、隣に立った俺を一瞥すると非常に深いため息をついた。
「私は君の先生になった記憶などないのだが…」
「いや、あの日から先生は先生ですよ。俺の中ではね。さあ、先生、行きましょう。目的地まではもうすぐです。俺たちの旅の終わりも、もうすぐなんですから」
「…ああ」
先生が立っていた岩から先に降りて、荷物をまとめだす。荷物をまとめながら、俺はここまでの旅路を思い返していた。
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