ふと今
@kt1208
暗闇の中、黒い、霧のような
ふと、暗闇の向こうに気配を感じることがある。
それはたとえば夜道を歩いている時、街灯の明かりの届かぬ林の中。
たとえば空き家の窓、動かぬカーテンの向こう側。
深夜、目が覚めた時、部屋の隅に。
なにかいるような気がすることがある。
なにも見えないしなにも聞こえない、なにか匂うわけでもない。
なにもない、いるはずがない。でも、なにかがいると感じることがある。
じっと暗闇の中で目を凝らす。なにもいない、そのはずだ。
「チッ」
舌打ち。だが、それは怖さを紛らわせるためのものだ。
ついさっきの出来事。
電子レンジとオーブンを同時に使ったらブレーカーが落ちた。
電気が消えて、家の中は真っ暗になった。
洗面所に向かうために壁伝いに部屋を移動。
短い廊下を抜けようとした時、嫌な感じがした。
じっと暗闇の中で目を凝らす。なにもいない、そのはずだ。
でも。なにかが。
目の前に。
「チッ」
再度、舌打ち。怖さを紛らわせるための。
前に手を伸ばした、なにもないことを確認するために。
それは初めてのことだった。
暗闇の向こうに気配を感じるなにかに手を伸ばすなんて。
声が出ない。
スローモーションの世界で自分の手がそれに近付いていく。
目の前にこれが現れたのは初めてのことだった。
これ。
これはまやかしなんかじゃない。
これは、なんだ。こいつは。
暗闇の中、黒い、霧のような、いや、もっと。
声が出ない。
自分の手が吸い込まれるように、今。
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