第12話 弟子をとった

「……弟子?」


 突然の弟子希望者の出現に、マティアスはただただ戸惑うばかりであった。


「はいっ。もちろん、急な話で迷惑なことは承知しています。それでも私はずっとマティアスさんや、お仲間のカレンさんに憧れていたんです。1年前、暗黒の不死鳥ダークフェニックスと戦ったあの時から」


「……あれか」


 そのモンスターの名前を聞いて、マティアスの脳裏には1年前の光景が甦ってきた。

 かつての激闘を思い出して、マティアスは少し遠い目をする。


「……お願いします。私、もっともっと強くなりたいんです。あなた達5人みたいな、人を守れるような強い人になりたいんです。だから……どうか、私をあなたの弟子にして下さい」


 アンナは、頭を深々と下げて頼み込んできた。

 マティアスは一瞬どうするか悩んでいたが、その時ちょうど思い出した。

 自分はもうパーティーから追放されたソロ冒険者の身であり、弟子をとってそれにいくら時間を割いても仲間に迷惑をかけることは無いということに。


「1つ、言っておくことがある。……今の俺は、カレンとは別行動をとっていて……つまり、ソロ冒険者ということだ。それでもいいのかい?」


「ソロに? ……いや、理由は聞きませんし、それでも私は構いません」


「……そうか、分かったよ。君の強くなりたいという気持ちは、ムダにはできないからね」


「……本当ですか? ありがとうございます!」


 アンナは嬉しさのあまり飛び上がると、そのままマティアスの手を自分から握りにいって感謝の意を示した。


「嬉しい……こんな日が来るなんて、本当に感動しています」


「感動して終わっちゃダメだぞ。君はこれから強くなるために、より一層努力しなくちゃいけないんだからな」


「はいっ、重々承知しています!」


「ならいいんだ。……ジェシー、チコ。そういうことだから、俺はしばらくこの子に時間割くことになるけど……まぁ、まだ俺がパーティーに戻るには早いだろうしいいだろ?」


 マティアスは念のためにジェシーとチコにも確認をとる。

 今は別々のパーティーだが、仲間であることには代わりはない。

 冒険者活動に支障が出るかもしれない出来事の報告は、仲間には欠かさず行うのがマティアス達のルールである。


「あ、ああ。そうだな」


「うん。まだ時間かかるだろうし、別にいーよ」


「サンキュ。それじや、アンナは正式に俺の弟子ってことだ」


「はいっ、よろしくお願いいたします! ……そうだ。ねぇ、ミーナもマティアスさんの弟子になってみたらどう?」


 無事弟子にして貰えて安心したのか、アンナは仲間であるミーナにもマティアスの弟子にならないかと誘ってきた。


「うーん……私は応援するだけでいいよ。頑張ってね、アンナ」


「そっか……分かった。無理はさせないよ」


 一方3人から少し離れた場所では、ジェシーとチコが作戦会議を行っていた。


「女の子の弟子だってさ、しかも中々可愛い子。

……これはアレだね。なんか面白そうだね」


「やけに物理的な距離が近かったからな……ただの弟子だとしてもカレンさんの繊細な性格上、あんな風に手を握っている姿を見ると勘違いして面倒になる可能性もある」


「あんな風……アンナちゃんだけに?」


「黙れ。……よし、俺はこの件をリーネに報告しに行く。お前はマティアスの側で2人を監視するんだ」


「ラジャー。積極的に三角関係の構築をサポートさせて頂きます」


「作るのはカレンさんとマティアスの直線だけでいい。……そうしなきゃ、また5人揃って戦える日は遠のくばかりだぞ」


「……そだね。ちょっとふざけすぎたよ」


 ジェシーとチコも、またいつか5人で戦える日を夢見て自分に出来る行動をとる。

 カレンの心の病を完治させる方法は分からないが、カレンが自分の力でマティアスとのけじめをつける必要があるのは確かである。

 そのために、ジェシーとチコはリーネとともにカレンのサポートを全力でこなす。

 そのためにも、まずはアンナという少女がマティアスとカレンの関係にどう変化を持たせるのかを、調べる必要があった。

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