第11話 これが先輩の実力だ
「あわ、あわわわわわ……」
ルフの街を守るために戦っていた新人冒険者、ミーナはおののいていた。
彼女の目の前に姿を現したモンスターは、彼女がこれまで体験したこともないような威圧感を放っている。
「ア、アアアアンナは、大丈夫なの、平気なのぉ!?」
「……正直、ビビってないって言うのは嘘になる。私達2人だけだったら怖くてあんたみたいになってたかも……」
もう1人の新人冒険者、アンナの視線の先には、グランフェンリルと相対する3人の冒険者の姿が見えていた。
「……でも、あの人達の自信溢れる姿を見てると、こっちまで力が湧いてくるよ」
アンナが強い憧れを含む眼差しを向ける3人は、グランフェンリルの前に躍り出て、既に戦闘態勢を整えていた。
「……B級最上位のモンスター、グランフェンリルか。それと、取り巻きのフェンリルが見たところ5体」
「りょーかい、それじゃザコは私が片付けとくよ」
「頼むぞ。それではマティアス、俺達は……」
「ああ、後輩の前でカッコよく決めてやろうぜ」
マティアスの言葉を合図にして、3人は一斉に散らばっていった。
(……さて、手始めに……)
まずはジェシーが、グランフェンリルの真正面に向かって突っ込んでいく。
当然、グランフェンリルは最も目立つ場所にいるジェシーに向かって攻撃を仕掛けてきた。
「……『氷の剣 氷華刃』!!!」
ジェシーは自分に攻撃を仕掛けてくることなど分かりきっていた。
敢えてギリギリで攻撃を避けると、そのまま最短距離から前足を切りつける。
「グガワァ!」
(次は左足……)
続いて左足に目を向けるジェシーだが、その死角から1体のフェンリルがジェシーに飛びかかってくる。
「……おっと、邪魔はさせないよ」
しかし、そのフェンリルの体はチコの剣によって真っ二つにされる。
気づけば、既に取り巻きのフェンリル達はチコによって全滅させられていた。
「……フンッ!」
その間にジェシーの剣がグランフェンリルの左足を切りつけ、グランフェンリルは上半身を支える力を失って前のめりに倒れる。
「マティアス、舞台は整えたぞ!」
「ああ、任せとけっ!」
背後にまで回り込んでいたマティアスは、尻尾から背中、そして首まで駆け登りながら剣を構える。
「『炎の剣 爆炎刃』!!!」
マティアスの灼熱の剣が、グランフェンリルの
邂逅から僅か30秒ほどで、マティアス達3人はあっさりとB級最上位モンスターであるグランフェンリルの討伐に成功し、ルフの街の防衛に成功したのである。
「……すっごい。あんな強そうなモンスターを、こんなに早く……」
「……流石はA級のお三方。はっきり言って私達とは格が違うよ……」
アンナとミーナは、そんな3人の動きを黙って見ていることしか出来なかった。
2人のマティアス達を見る目はそれぞれであり、ミーナはただただ驚愕して口をあんぐり開けているが、アンナは3人に対する憧れを隠しきれずに口に笑みを浮かべていた。
「いやー、終わった終わったねぇ」
「す、凄いです! 皆さんホントに……」
戦いが終わったことに安心し、ミーナは3人に向かって駆け寄っていく。
アンナも、ミーナから少し遅れてその後ろに着いていこうとしたその時、アンナの後ろの影が僅かに揺れ動いたのを、マティアスとジェシーは見逃さなかった。
「……まだだ、後ろにいるぞ!!!」
「……えっ」
ジェシーの言葉が耳に届いて、アンナが首を後ろに振る前に、マティアスの剣が彼女の背後にいる影を突き刺していた。
「……1体残っていたか」
「ゴ、ゴメン、マティアス君! まさか1体逃してたなんて……」
「いや、最初に数を見誤ったのは俺だ。チコは悪くないよ。……君、大丈夫か? ケガはないか?」
「は、はい。……ありがとうございました」
「そうか、ケガがなくて本当によかったよ。……2人とも、俺達が来るまでよく頑張ったな。……だから、こちらこそありがとうを言わせてもらうよ」
マティアスは肩に手を置いてアンナを称賛し、ミーナにも爽やかな笑顔を向けた。
ミーナは雲の上の存在だったA級冒険者から直に称賛の声を受けたことに恐縮しきりだが、アンナは憧れの存在に褒められたことで嬉しさと恥ずかしさ、照れ臭さが入り交じって赤くなった顔を隠すように下を向いていた。
「どうした? ……あっ、もしかして肩に手を置かれるのが嫌だったか?」
「……いえ、そんなのじゃなくて……うん。私、決めました」
「……決めたって、何を?」
「マティアス・クロフォードさん。どうか、このアンナ・ルクロイをあなたの弟子にして下さい!」
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