第3話 一人ぼっちクエスト

「……よし、今日からソロ冒険者生活のスタートだ」


 マティアスは、冒険者としての収入源である“依頼”を受けるために、冒険者ギルドへとやって来ていた。


「いらっしゃいませ、マティアスさん。……あら、本当にもうお一人なんですね」


 どうやらギルドの受付嬢には、既に彼がソロになったという情報は届いているようだ。

 彼女は1人になったマティアスのことを心配するような目線を向けるが、彼は彼女の心配を振り払うようにつとめて明るく振る舞う。


「ああ、今から受ける依頼が、俺の記念すべきソロ初の依頼だ。何かいいのは無いかい?」


「……あら、思ったより元気そうですね。私はてっきり、やむにやまれぬ事情でもあったのかと……」


「うーん。実は俺も、抜けなきゃいけない理由は聞かされてないんだよな。カレンの方から説明も無く、一方的に通告されたって感じだ」


「あらあら、カレンちゃんがそんな……話だけ聞いてると、中々乱暴な感じですねぇ」


「ホントだよ。乱暴な話だぜ」


 “乱暴”という言葉がツボに入ったのか、マティアスは受付嬢と目を合わせて笑い合う。

 改めて昨日のことを思い返してみると、終始一方的に話を進められ、途中から味方がいなくなっての四面楚歌状態。

 本当に、これ以上ないほど理不尽で乱暴なクビの通告だった……が、理不尽ではあっても不快感はない。

 こうやって笑い話に出来ているのがその証拠だ。


「……フフフ。どうやら、部外者の私が心配するような話じゃなさそうですね」


「ああ。きっとあいつには、何か考えがあると思う。

だから俺は、今まで通りあいつらを信じることにするよ」


「フフフ……今まで通りですね、マティアスさんは。

だったら私も今まで通りに仕事するとしますか」


 受付嬢は背筋をピンと伸ばして仕事モードに戻ると、手元のファイルにまとめてある中から、マティアスにいくつかの依頼を紹介してきた。


「今のあなたに紹介できる依頼は、こちらになりますね。お客様はソロでの挑戦になるので、難易度はBランク以下のものをお薦めさせて頂きます」


 ギルドに寄せられる依頼は、難易度によってEからSランクまでに分類される。

 基本的に冒険者は自分のランクと同じか、それより下の依頼しか受けることが出来ず、ソロで挑む場合は下のランクの依頼のみが紹介される。

 ギルドにとっては同ランク=互角という認識であり、失敗のリスクを考えると同ランクの依頼は複数人で挑むことが推奨されているのだ。


「そうだな……それじゃあ、肩慣らしついでにロックフルーツの採集でもやろうか」


「了解しました、依頼人の方にはギルドの方で連絡させて頂きます。依頼人がいるイストの街には、いつ頃出発致しますか?」


「すぐに出発するよ。今から馬車で向かえば、夕方には着けるかな?」


「そうですね。それでは、夕方頃にイストに到着すると伝えておきます」


 マティアスはギルドでの依頼の受注を終えると、すぐに馬車に乗って目的地であるイストへと向かうことにした。

 明日になってから向かうことも考えたが、カレン達が今日から既に活動していることを思うと、じっとはしていられなかった。


(……さあて、はじめてのソロ任務だ。あいつらの名前に泥を塗らないようにしないとな)


 冒険者になってはじめてのソロでの活動。これまでいくつもの修羅場をくぐってきたマティアスでも、やはりはじめての経験には緊張を見せる。


(……分かっちゃいたけど、いつもとは感覚が違う。移動中の話し相手がいないってのは、寂しいもんだ)


 目的地に到着するまでの間、マティアスは馬車の荷台で景色を見ながらボーッと過ごしていた。

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