藍色の愛に逢い
ひきがえる
第1話 青すぎた彼ら彼女らの物語
愛することによって失うものは何もない。
しかし、愛することを怖がっていたら、
何も得られない。
アメリカの女性作家 バーバラ・デ・アンジェリスはこう言った。
だが、それは果たして正しいと言えるのだろうか。
愛したがために、失ってしまうものなんて腐るほどあるし、
愛することによって何かを捨てなければならないこともある。
愛し続けても何も得られないこともあるくらいだ。
誰しもが、皆、「愛」に踊り踊らされ、ひと時の「愛」に執着し、藻掻く。
今までのどんなお偉いさんが話し合っても、未だに定義が定まらない「愛」。
人それぞれに「愛」があり、それは、誰にも分からない。
だから俺は、「愛」が怖い。
高校2年生の夏。
俺はいつものように、永遠と続くかのようににそびえ立つ坂を、一歩また一歩と上っていた。
容姿、学力、運動能力共に、そこそこの「才色兼微」である俺に、そうそうラブコメ的展開が来ることも無く、ただただ退屈な日々を過ごしている。
俺は別に、彼女が欲しい訳ではなく、俺もまた「そういった世界」に憧れる人間の一人なのだ。
「そういった世界」に憧れる人間の例を挙げるとするならば、女子高生なんかがそうだろう。
ドラマや映画の役に恋をし、そのような展開を今か今かと待ち望む。
人に恋をしてるのではなく、恋をしている自分に恋をしている。
そんなナルシズムの塊である。
「え、あいつ何ブツブツ言ってんのまじキモイんだけど」
「なんか怖いし、早く行こ」
ふと頬が歪む。
どうやら口に出してしまっていたらしい。
あぁ、やっぱり。
こんな失敗だらけで、何も実らないものなんていらない。
だから、
「俺に青い春なんていらない」
時は過ぎ、放課後の教室。
俺は一人、いつものように文庫本を読み耽っていた。
少し色褪せた本は、それだけで読んできた人達の思いを彷彿とさせる。
そうやって本を楽しんでいると、既に最終下校時刻を過ぎていることに気づく。
重たいカバンに本をそっとしまい。
静かに教室を出た。
「あぶないあぶない~」
ドンと、重たい音がするのと同時に俺は地面に打ち付けられた。
「痛たたたー、ごめんね。怪我ない?」
大丈夫ということだけ聞くと、その女の子は足早に去っていった。
ったく、なんだったんだよあいつ。
結局誰にぶつかられたのかも分からないまま、落ちた本をカバンに入れ、ズボンのホコリをはらい、家路に着いた。
家に入ると、緊張感が走った。
またか…。
ここ最近、両親は仲が良くない。というか、所謂、離婚の危機と言うやつだ。
俺も、もう高校生だ。雰囲気などで察しがついてしまう。
そういうこともあり、家は俺にとって少しも居心地のいい状態ではなかった。
ただいまを言うのも憚られた俺は、黙って自分の部屋へと向かう。
「あ、お兄ちゃん…おかえり」
俺の部屋に向かう途中にある部屋からすっと顔をのぞかせたのは、何を隠そう世界の妹、詩乃である。
世界の妹だからといって、3に関する数字で変になったりしない。
兄と違い、容姿、運動能力共に県内トップクラスであり、オマケに家事も出来る。
妹が優秀だと兄の肩身が狭い…。
「また喧嘩だね…。」
「あぁ、そうだな…。」
そう一言だけ交し部屋に向かった。
階段から見えた妹の顔には寂寥感が漂い、ただただ悲しそうだった。
この時、俺が両親の仲裁に入っていればこんなことにはならなかったのだろうか。
どうにもならない後悔だけが頭の中ををぐるぐるかけ回った。
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