FantasyUniversalis~転生弱小領主は勝ち馬に乗って生き残る~

文屋 源太郎

第一章 鉄血令嬢

第0話 FantasyUniversalisⅤ

 【FantasyUniversalis】、通称FUは、俺の大好きなシュミレーションゲームだ。


 舞台は魔法やドラゴンが存在するファンタジーな世界。


 様々な選択肢からプレイするキャラクターを選んだり、自分好みに作ったりすることができ、皇帝、小領主、騎士、盗賊、商人とプレイスタイルは実に多様だ。


 明確な勝利条件などはなく、プレイヤーは自由に目標を定める必要がある。


 偉大な王の下で立身出世するもよし、弱小領主となって下克上するもよし、巨大な帝国の皇帝となって内憂外患に立ち向かうもよし、領地に引きこもって技術立国を目指すのも悪くない。


 なんなら、別に一国一城の主とならずとも、商人として金の力で自分の思い通りに歴史を動かすのもよし、戦士となって技を磨き、一騎当千の強者として戦場をかき乱すもよし、ならず者として盗賊王を目指すなんてのもありかもしれない。


 しいて言えば、このゲームでプレイヤーがやるべきことはただ一つ。生き残ること。それだけだ。


 ファンタジーな世界観、自由度の高さ、魅力的なキャラクター達で大人気の……と言いたいところだが、とっつきにくいのか一般的にはあまり知られていないマニアックなゲームだ。


 熱狂的なファンは多いが、売れていないのかシリーズ第四作目を最後に長らく新作がリリースされていなかった。


 グラフィックスやユーザーインターフェースなどは、すっかり古臭くなってしまった。それでも、ほかに代わりとなるゲームもない。俺は毎夜、FUのプレイ時間を積み重ねてきた。FUは俺の人生と言ってもいい。


 そんな自由な時間をすべてFUに捧げる生活を送っていた中、ほんの数か月前、事件が起こった。


 もう数年、音沙汰のなかったFU公式から、突然、告知がなされたのだ。


 なんと久しぶりに新作を出すという。


 なんでも、とある資産家が、FUの熱烈なファンで莫大な資金を投じ、新作FUを開発することができたという。


 あまりにも眉唾な話で、ネット上では様々な憶測が飛び交った。詐欺なのではないかとか、発表から発売までが短すぎる、などと否定的な意見がばかりだ。


 もともと、開発元も判然としていなかったので仕方ないのかもしれない。


 しかし、俺は期待に胸を膨らませずにはいられなかった。


 毎日のように、簡素な公式サイトに載ったわずかばかりの情報を見つめ、発売を待ち続けた。


 そして今日は待ちに待った待望の新作【FantasyUniversalisV】の発売日。


 FUシリーズに自由な時間のすべてを捧げてきた俺は、定位置であるパソコンのモニターの前に座り、新作のインストールが終わるのを今か今かと待ちわびていた。


 食料も水も準備万端、幸い連休で時間もある。FU5を遊びつくすつもりだ。


 外界との情報を遮断するためにスマホの電源もオフ。


「まだか?」


 ダウンロード時間が長い。


 旧作なら数分とかからずに済んでいたが、今作は、もう数時間が経過している。早く遊びたくて気がせいているが、これだけ容量が大きいという事はそれほど期待が持てるという事でもある。


 ダウンロードが終わり、インストールもスムーズに完了する。


 自動的にFUの画面が起動する。


 NEW GAMEの文字が並ぶ。


 いよいよ始まりだ。


 俺はペットボトルの水を一口飲むと、画面をクリックする。


 キャラクターの選択画面が開かれた。


 このゲームにおける一番重要な瞬間といえる。


 自分の分身となるオリジナルキャラクターを作って、FUの世界に入るのが、FUの醍醐味だろう。


 だが、それはあえてしない。


 今作は久しぶりの新作、捜査官やシステムがだいぶ変わっているかもしれない。


 それにストーリーも見たい。


 基本的に好き勝手できるゲームだが、ストーリーも存在している。前作ではなかなかの作り込みだった。ストーリーの根幹にかかわるような主要キャラクターもプレイアブルだ。


 とりあえず一週目は、チュートリアル的な意味でもストーリーを楽しむ意味でも無難にプレイアブルのキャラクターから選ぶのも悪くはない。


「ん? なんだ?」


 ザザっと一瞬、画面にノイズが走る。


 まるでテレビがまだアナログだったころにあった不気味な砂嵐のようなあのノイズだ。


 元に戻ったかと思うと今度は、いくらクリックしても、キャラクター選択画面から動かなくなってしまう。


 さっそくバグか?


 だが、歴戦のFUプレイヤーはそんなことは織り込み済みだ。冷静にゲーム画面を閉じて、再起動しようとする。


 しかし、うんともすんとも言わない。パソコンがフリーズしてしまったのだろうか?


 とりあえず、電源ボタンを長押しして無理やりシャットダウンを試みる。


 何も変わらない。どうやら相当厄介なバグらしい。


 ええい、ままよ。


 俺は、デスクトップパソコンの電源コードを引き抜いた。


「は?」


 思わず声が出てしまう。


 電力の供給をたったにもかかわらず、モニターには


【FantasyUniversalisⅤ】のロゴが煌々と光っている。


 今時、画面の焼き付きなんてあるわけがない。


 俺がモニターをのぞき込んだ次の瞬間、モニターが強い閃光を放ち、視界が真っ白になる。


 ……何が起こったんだ?


 目の前にゲーム画面があるのがわかる。なんだか頭がぼんやりしていて体はフワフワと水に浮いたような感覚だ。


 最近忙しかったからな、疲れているのかもしれない。


 だが、ここでやめるわけにはいかない。


「キャラクターを選んでください」


 ゲームのボイスが頭の中で鳴り響く。


 俺が操作するまでもなくカーソルがひとりでに動いていく。


「ランダムで生成します。よろしいですか」


 ちょ、ちょっと待ってくれ。


 まずは主要キャラクターでやりたいんだ。


「ランダムで生成しました」


 無慈悲にも俺の声は届かない。


「ゲームをロード中」


 ああ、畜生、もう適当にやってくれ。


 初めてプレイするシナリオで、運次第のランダムキャラクターとは、なかなかに厳しいが、歴戦のプレイヤーである俺ならどんな縛りがあってもFUを楽しめる。


「な、なんだ!」


 俺は絶叫する。


 今まで、暗い部屋のパソコンのモニターの前にいたはずが、とんでもなく高い晴天の空から落下している。分厚い雲の層を抜けると眼下には山々や森林、都市を有する巨大な大陸が広がる。


 夢を見ているのだろうか。


 壮大なオーケストラをBGMに、目の前に【FantasyUniversalisV】のタイトルロゴが浮かび上がる。


 美麗なグラフィックと公式サイトでは銘打っていたが、VRゲームだったとは知らなかった。


 まあ、そんなわけないだろうが、ともかく、ゲームがプレイできているならなんでもいい。


 何を犠牲にしても今はとにかく新作のFUで遊びたいんだ!


 タイトルロゴが消え去り、俺の体は空に浮かぶ。


 渋い男性の声でナレーションが入る。


「ここは、源素と魔力に満ちた巨大な大陸、パンゲア」


 FUシリーズは毎回、ストーリーで直接的な関わり合いはないが、世界観を共有している。シリーズおなじみの舞台となるのがパンゲア大陸だ。


 俺はパンゲア大陸の上空を飛び回りながら、まるで現実世界のようなパンゲア大陸やそこに住まう人々の姿が見る。


 やっぱり最新のゲームはきれいだ。今まで、古めかしい2Dゲームだったことを考えると飛躍的な進歩といえるだろう。


 いや、冷静に考えればおかしい。VRゲームにしてもできすぎているし、そもそも俺のポンコツパソコンにこんな重たいゲームが動かせるはずがない。


 考える間もなく、ゲームは進む。


 景色が切り替わり、俺の周りに次々と絵画が映し出される。


「パンゲア大陸、中央部に位置する超大国、神聖エルトリア帝国。かつては比類なき栄華を誇り、大陸に覇を唱えたが、暗愚な皇帝や疫病によってその命はつきかけていた。帝国が築き上げた平和は夢幻と消え去ろうとしている」


 神聖エルトリア帝国。


 周りには、皇帝の戴冠や戦争、疫病の絵画。


 神聖エルトリア帝国の歴史を大まかに描いたものらしい。


 詳細な説明はないが、想像力を掻き立てる壮大そうな歴史に胸が躍る。


 神聖エルトリア帝国は間違いなく物語の中心地となる場所だろう。


「混沌の時代の訪れとともに、東の古代王、西の龍王、南の聖女、北の流星王……英雄たちが産声を上げる」


 公式サイトでもほとんど明かされていなかったが、おそらくは物語の根幹を成す主要なキャラクターたちだろう。もっともFUならば、ここで語られた人物が、素直に真に重要な人物とも限らないが……。


 FUは、自由度の高いゲームであるが、一応、この大陸の歴史とも呼ぶべきゲームとしてのストーリーがある。そのストーリーに干渉し変化させるのか、流れに身を任せるのかはプレイヤー次第だ。


「これはのちに「偉大なる戦争」もしくは「悲劇の戦争」の名で知られることとなるパンゲア大陸中を巻き込んだ未曽有の戦乱」


 戦乱。


 FUは、平和とは無縁の狂気の世界だ。


 気を抜けば、こんにちわ! 死ね!とばかりに襲い掛かってくる残酷で単純な世界でもある。


「そして、戦乱の世で必死に生き抜く者たちの物語である」


 その言葉を最後に、俺は意識を手放した。

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