解決編・第1話 シナリオ

早緑弥生の部屋。

四条、的場と容疑者4人板付き。

床にはミニクーパーのおもちゃ、少し離れたところに灰皿が置かれている。


四条「さて、皆さん。これが戸川さんの証言をもとに、戸川さんがこの部屋を後にした直後の部屋を再現した状態です。多胡さんのプレゼントであるミニクーパーはここ、戸川さんが使った灰皿はこの位置です。戸川さん、間違いはありませんか?」

戸川「ええ、大丈夫だと思います。こんな感じでした」

四条「18時半、戸川さんが帰ると、この日の早緑さんの予定はすべて終わった状態になりました」

森田「森田との約束は?21時に森田来るよ」

四条「すいません、一旦、森田さんとの約束は無視させてください」

森田「えー!!!えーっ!ええっっーー!!」

的場「驚きのサイズがデカい」

四条「あとでちゃんと森田さんの存在が効いてきますから」

森田「そう?じゃあいいよ」

四条「……さて、戸川さんを送り出した後、早緑さんはしばらくくつろぎます。何しろ1日で3人も相手にするハードスケジュールでしたからね。ざっと2時間ほどくつろいだ後、恥ずかしがりやの早緑さんはここにきてやっと『もらったプレゼントをちょっと付けてみようかな』という気になりました。ここまではいいですか?」

全員「あ、ああ(みたいな生返事)」


再現回想へ。早緑、メイド服を着て登場。


四条「前から欲しかったというメイド服。姿見の前でいろんな各度を楽しんでいるうちに時間は過ぎていきます。そしてもう一つのプレゼントである馬のお面を被ってみたころには時間は21時を回ってしまいます」


早緑、馬の面をかぶる。


四条「その時です。来客予定はもうないはずなのに、突然ドアチャイムが鳴ります」


ドアチャイムの音。

ビクッとして玄関の方を見る早緑弥生。

少し間をおいて、再びドアチャイム。


森田の声「すいません、森田です」


ドアチャイムの音。


森田の声「森田です。お呼びにあずかりました森田です。誕生日おめでとうございます」


ドアチャイムの音。


森田の声「サミー!お馴染みの森田ですけども。森田でお馴染みの」


ドアチャイム連打。

怯えている早緑弥生。


森田の声「森田が来ましたよ!」


再現回想から、四条たちの会話に戻る。


森田「チャイム押したの森田だよね?」

四条「そうです。さぞ早緑さんは驚いたことでしょう。さらにここで早緑さんは重要なことを思い出します。的場さん」

的場「はい」

四条「警官がこの部屋に着いたとき、鍵はかかってなかったんでしたね?」

的場「……そうです」

四条「つまりそれは、戸川さんが帰ってから、的場さんが来るまで、この部屋の鍵は空きっぱなしだった可能性があるということです」

多胡「ということは、まさかコイツ(森田)が入って弥生を…?」

森田「森田入ってないよ!」

四条「森田さんの言うとおり、森田さんは部屋の中には入っていません。それは部屋の中に全く指紋がないことからも明らかです」

麻木「じゃあなんだっていうんです?」

四条「この時早緑さんが思い出した重要なこと……それは玄関の鍵を閉め忘れた、ということです。来るはずの無い来客、叩かれるドア、そして閉め忘れた鍵。恐らく早緑さんはとてつもないパニックに陥ったでしょう」


再び再現回想へ。

早緑弥生。(馬の面かぶったままパニック)

以後、四条の語りに合わせて展開していく。


四条「とにかく玄関の鍵をしめなければ!そう思った早緑さんは視界の悪いまま駆け出します」


早緑、玄関の方へ駆けだそうとする。


四条「しかし彼女の足元には、折悪くミニクーパーのおもちゃがありました。果たして、視界の悪い早緑さんはミニクーパーを踏んづけてしまいます」

全員「あっ!」


早緑、ゆっくりとスローモーションでコケる。


四条「そしてバランスを崩したその先にあるのは……」

全員「灰皿っ!」


早緑、ゆっくりと灰皿に頭をぶつける。

鈍い音が響く。


四条「頭を打った早緑さんは起き上がり、意識が朦朧とする中、テーブルの上にある携帯から助けをもとめます。この状態では119番と110番の判別がつかなくても仕方がないでしょう」


早緑、這いずって携帯を手に取り電話をかける。


四条「しかし残念ながら、早緑さんの頭の傷は致命傷でした。オペレーターの呼びかけも虚しく、彼女はそのまま眠るように亡くなったのです……」


早緑、テーブルに突っ伏して、死亡時の写真の状態と同じになる。


全員「……」

麻木「な、なんてことだ……」

多胡「俺たちのプレゼントが……」

四条「……多胡さんのミニクーパー、麻木さんの馬のお面、戸川さんの使った灰皿、そして森田さんのノック。皮肉にも貴方たち全員の行動が、最も不幸な形で重なった結果の事故だったんです。……あるいは、貴方達全員で早緑さんを殺したと言ってもいいのかもしれません……」

全員「……」

的場「凄い……完璧だ……。これが、踊る脳の実力ってやつか……」

戸川「こんな……こんなのあるかよ……。(四条に)なあ、あんた!嘘だろ?なあ、嘘だ!嘘だって言ってくれよ!なあ!」


四条に縋りつく戸川。動じない四条。


四条「……ええ、嘘ですよ」

全員「……えっ!?」

四条「今話したのは、全部嘘です。ウソ推理ですよ」

戸川「嘘ってあんた……確かに嘘だって言ってくれって言ったけど。そういうことじゃないじゃん」

四条「いや、そういうことなんです。今のは……そうですね、真犯人が用意したシナリオと言ったところですかね。それをあえてなぞってみました」

多胡「嘘だろ……いや、そうじゃなくて……ややこしいな。真犯人ってことは、やっぱり弥生は殺されたのか?」

四条「ええ。そうです。さっきの推理聞いてて分かりませんでしたか?前半部分、だいぶ雑でしたよ。後半もかなり苦しいところありましたし」

森田「森田は分かってたよ。さっきのがウソだって。だって森田ちゃんとサミーと約束してたから」

的場「四条さん、一体どういう事です……?」


そこへ煙山たちが続々と戻ってくる。


煙山「四条!お前の言うとおりだった!森田のやつは三友(ミツトモ)グループの御曹司だ。無職は無職だが、とんでもない金持ちだぞ!」

竹下「四條さん!証拠品を確認したら言ってた通りゴミ箱から10個分のケーキのフィルムが見つかった!でもこれが事件となにか関係あるのか?」

宗助「先生!見つけました!お風呂場の天井裏にありましたよ!ほら!(包を開ける)このとおり、日本刀です!」

四条「……全員揃いましたね。では、改めて始めましょうか。本番はここからです!」

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