第108話 敵?それとも、、、。

「で、お遊びはそろそろ終わりにして一体どうしたのよ?」


嵌められたとは言え相当恥ずかしい事を言ってしまった自覚のあるリュースティアはリアルに悶えていた。

地面をあっちへゴロゴロ、こっちへゴロゴロ。

そこへいつもなら顔を真っ赤にしながらテンパるはずのシズが平常運転で声をかけてきた。

そのことに違和感を覚えつつもいつも通りのシズの声で幾分冷静さを取り戻せた。

ハズイ事に変わりはないけどさ!


「ああ、ここに来てから俺たちのことをずっと監視してるやつがいるんだよ。」


「っつ!敵なの⁉」


リュースティアの発言に顔色を変えたのはルノティーナだ。

その驚き具合からするとルノティーナは視線に気が付いていなかったらしい。

まあ距離が距離だし、悪意や敵意を向けてる訳じゃないから普通に感知は難しいだろう。

リュースティアがおかしいだけで気にするべきことではない。


けれど彼女は腐ってもSランクの冒険者。

当然魔族と戦いながらも周囲の警戒を怠った覚えはない。

その自分が気が付かなかったという事はそれは相手がかなりの実力者であることを示す。

その顔に緊張が走るのも無理はない。


一方のリズ、シズ、スピネルはリュースティアが手を出していないことから敵ではないとあたりをつけているため、警戒はするもののルノティーナほど不安は覚えていない。

仮に敵であるとしたらリュースティアがこんな風に視線を受けていると話す事などない。

とルノティーナ以外の三人は考えるのである。

こればっかりは付き合いの差だろう。

仕方がない。


「それがよくわからないんだよな。悪意や敵意は感じないし。ほんとにただ見てるだけなんだよ。だからムズムズするって言うか。」


「ただ見てるだけ?ギルドや国の者でしょうか?」


リズがもっともな意見を言ってくる。

たしかにそれらだった場合、現れた魔族の監視だったり、Sランク冒険者になるリュースティアを見極めていた、という理由がとおる。

だが、何となく腑に落ちない。


「うーん、こればっかは勘でしかないけど多分違う。というかこの感覚、人間じゃない気がする。」


自らが感じた違和感を言葉にするとそんな感じだ。

何となく、ほんとうに何となくなんだけど見ている奴から人間臭さというか人間らしさを感じられない。

どっちかって言うと魔族?

いや精霊?

うーん、どっかで感じたことのある気がするんだけど、、、、。

思い出せん。


「それでリュースティア、どうするの?」


「ん、放置するよ?特に害された訳でもないし。自分で藪をつつく必要はないでしょ。」


いや、普通そうするでしょ。

なんでそんなみんな驚いたような顔してんの?

だってあたかも怪しい奴じゃんそれ!

絶対関わらないほうがいいって!

敵対されたら迎えうつけどさ、まだ何もされてないし。

下手すりゃこっちが加害者だよ?


「危険ではありませんか?」


「まあ確かに安全だって保障もないけど危険だって確信もないだろ?面倒なことは関わり合いにならないのが1番!ってことで帰ろ帰ろ。」


なおも不安そうな表情を崩さない彼女たち。

そんな顔されても関わりたくないことだけは曲げられない。

なにせ得体のしれない相手だ。

このまま乗り込むにはいささか不用心すぎる。

いくらみんなを守れるだけの強さがあるとは言え無駄にリスクを払う必要はない。


仮に接触するとしても、だ。

そしてみんなにはああいったがもちろん放置するつもりもない。

わざわざ干渉する気はないがとりあえず相手のことは知っておきたい。

敵でないに越したことはないがこれから敵対する可能性もある。

そうなった時に対処できるように手を打ってくか。


「いいからいいから、ほら帰るぞ。」


みんなには内密で調べを進めたい。

色々な理由はあるがめんどくさい。


ってことで帰りは俺に頼らない帰還方法が必要だな。

なのでここは屋敷にいるであろうシルフに念話をする。

シルフたちは今回はお留守番だったからな。


『シルフ、帰りの転移は手伝ってくれ。みんなを一度にそっちへ戻したい。』


『了解なの!けど人数が多いからディーネにも手伝ってもらうの!』


『頼む。俺とレヴァンさんは対象外でいいぞ。みんなの後に自分で転移するから。』


秒で返事が返ってきた。

リュースティアから念話が来るのをずっと待っていたのだろうか?

相当暇なんだな、精霊って。

そんな事を考えていたらリズたちを中心に魔方陣が浮かびあがり魔力が最大量に達した時、みんなの姿は消えていた。

そのあとすぐにシルフから無事にみんなの転移が完了したとの報告が来た。


「仕事が早ぇよ、、、、。」


転移を頼んでから実行までが早すぎる。

やはり精霊はそうとう暇なのかもしれない。

けど、とりあえずこれで問題はないな。


「じゃあレヴァンさん、悪いけど一つ頼まれてほしい。って言ってももうわかってるんだろうけどさ。」


その場に残ったリュースティアは同じく残ったレヴァンにそんな事を言う。

言われた方も大方予想はしていたのか特に何かを聞くでもなく一度だけうなずく。


「面倒事押し付けた見たいで悪いな。」


「気にするな。私はリュースティア様の従者、存分に使ってくれてかまわない。それに今回は私の魔法の方が向いていることも事実だ。」


確かに彼の言う通りレヴァンさんの魔法ほど向いているものはないかもしれない。

彼の性格や実力から言ってそうそうやられることもないだろう。

それになにより彼ならば信頼できる。


「じゃあ頼んだ。こいつ連れて行っていいからなんかあったらこいつを使いに出すかこいつの念話を使って俺に連絡してくれ。」


「承知。では私はいく。私がいないからと言って奥様方と羽目を外しすぎないようにな。」


「馬鹿!くだらない事言ってないでさっさと行けよ⁉」


「すまない。」


笑いの混じった謝罪を最後にレヴァンさんは自らの影に沈みこんでいった。

そしてその影が消えるまでその場で見送るリュースティア。

彼の行く先を思うとその顔が心配そうなものになるのは仕方がないだろう。


「くれぐれも気を付けてくれよ。、、、うっし、俺も怒られないうちに帰るか。」


そう言ってリュースティアも転移魔法を使い、屋敷へと帰る。

これでひとまずは一件落着かぁ。


「濃い珈琲が飲みたい、、、、。」



切実なリュースティアの願いが聞こえた。



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