第93話 どこでもフラグ建築士

「ふー、落ち着いた。ほんと久しぶりに調理器具を握ったよ。」


ミザに連れられ宿まで来た二人はとりあえず夕食の準備を手伝わされた。

さすがにミザ相手に何もせずに厨房を借りられるとは思っていなかったので素直に手伝う。

それに夕食の準備なら願ってもない。


というわけでちゃちゃっと夕食をつくり、丁寧にデザートを作らせてもらったというわけだ。

今はお客さんのいなくなった食堂でリュースティアの作ったお菓子を食べながらくつろいでいる。

今日のメニューは簡単にプリンとクレープ。

レヴァンさん用にトマトを使ったアレンジ版も用意してある。

どうやらレヴァンさんもトマトは好きらしい。

さすが吸血鬼、お約束は守ってくれる。


あとは夕食の材料とパイ生地が余っていたので自分たちのご飯用にキッシュを焼いてみた。

もちろん大好評。


「やっぱりリューちゃんの作るものは美味しいね。連れてきてよかったわ。」


「ってミザが食べたかっただけかよ。」


お菓子を作って落ち着いたのかミザと会話しているリュースティアはいつもと変わらないように見える。

無理した笑顔ではない自然の笑みだ。

ミザ、おそるべき、、、、。


「まぁその理由が9割であることは認めるわよ。」


「9割ってほとんどじゃねーか。じゃあ残りの一割は何なんだよ?」


「お姉さんが話を聞いてあげようと思ってね。どうせリューちゃんの事だからみんなの為にって考えすぎちゃったんでしょ?」


的確過ぎて返す言葉もない。

どうしてミザはこうも確信をつくのがうまいのだろうか。

正直付き合いが長いとは言えない。

合ったら話すくらいはするが言ってしまえばそれだけなのだ。

それなのにミザはまるでこちらの心を見透かしているかのように話してくる。

恐い、そう思う。

だけど相手がミザならばそんなに嫌ではないと思える。


「図星か。さっきも言ったけどほんとにリューちゃんってわかりやすいよね。まあ可愛いし、いっか。でそうね、話を戻すけど。リューちゃんが思っているほど人は強くないし弱くもないの。それをリューちゃんもの物差しで判断してやったりやらなかったりは相手の為ではなくて単なる我儘にしかならないよ?」


「どういう事だ?」


分かるようでわからない。

ミザの言葉はいつもそうだ。

長く生きているおかげかレヴァンさんはミザの言いたいことを理解しているようだが助け舟を出すつもりはないらしい。

リュースティアの後ろに直立不動の姿勢のまま動く気配がない。


「簡単に言うと、リズ様達はリューちゃんに守ってもらうだけの弱い存在じゃないってこと。そしてリューちゃんが悩んでいることを黙って見守れるほど強くないってことかな。もちろん他にもあるだろうけどねー。」


「けどリズたちよりは俺の方が強いし俺は男だ。だったら守るのは当然だろ?それに心配させないように弱い所は見せてないつもりだ。」


「実力の問題じゃないよ。多分覚悟の問題かな。彼女たちはリューちゃんと冒険する上で覚悟を持ってるんだと思うよ。じゃなきゃ危険な冒険なんていくら好きな人と一緒だからってできないと思うけどな。だからリューちゃんが彼女たちをただ守るだけの存在って見る事は彼女たちの覚悟を踏みにじってるって事になるんじゃない?だから彼女たちは怒ってるんだよ。」


覚悟。

確かに俺も覚悟を持っていた。

皆だって同じだ。

どうしてそんな簡単な事忘れていたんだろう。

俺だってみんなを守るっていう覚悟を踏みにじられたら怒るよな。

うわー、俺ってすげぇくそな奴じゃん。


「自己嫌悪してるところ悪いけどもう一個ね。彼女たちはリューちゃんが好き。好きだからこそよく見てるんだよ、だから些細な変化にも気が付いちゃうの。気が付いたら当然心配になるよね?で、人は好きな人を平気でずっと心配しているだけでいられるほど心は強くできてないの。だから聞き出して楽にしたいと思う。もちろんお互いに、ね。」


「はぁ、ミザってなんかやっぱりすごいな。ずっと俺が悪い事はわかってたけど具体的にどうすればいいか全くわからなかったんだ。謝るにしてもなんて言ったらいいかわからなくて。」


これは紛れもない本心だ。

結局リュースティアはどうしたらいいかわからなかった。

隠し事をしていることにみんなが怒っているとばかり思っていたからなおさらだ。

きちんと話をしょうにも何を話せばいいのかわからない。

そんな事を考えいるうちに5日が過ぎた。

どんどんと期を逃していくことが自分でも分かっていた。

そんなときミザにあったんだ。

あんな神様くそじじいに感謝するのは癪だがこればかりは神の思し召しとして感謝するべきかもしれない。


おそらくレヴァンさんはわかっていたのだろう、だからこそ道を示してくれた。

リュースティアが誤った道に行かないようにいつも隣にいてくれた。

彼がいたからこそ自分を保てた。

感謝してもしきれない。

だが結局他人に頼る形になってしまった。

怒っているのかな。


「これもリュースティア様が導きだした結果だ。よき友を持つことはリュースティア様自身の力であって他人の力ではない。だから誇ればいい。」


良かった。

怒ってないみたいだ。


「ありがと、レヴァンさんには助けられてばっかだな。」


「リュースティア様は私の主だ。助け導くのは当然の事、気にするな。」


うん?

せっかく感謝したのになんか素っ気ないな。

いや、これは違う。

若干顔が嬉しそうだし、照れ隠しかな。


「はあーいいなぁ、こんなにカッコいい従者さんがいて。リューちゃんも一緒でいいからさ、もううちに来ない?何なら私に婿入りする?」


「ばっばか!いきなり何言ってんだよ!」


まったく、せっかくいい感じに見直していたのに。

今の一言で完全ににパァだよ。

本人もおそらく本気ではない。

今も慌てふためくリュースティアを見て楽しんでるし。

どうも年上の女性は苦手だ。


「ごめんごめん、冗談だって。リューちゃんじゃなくてレヴァンさんなら大歓迎だけどね。」


「勝手に言ってろ。じゃあ俺、リズたちのところに帰る。そんでうまく言えるかわからないけどきちんと話すよ。」


ミザのおかげで覚悟はできた。

上手く伝えられるかはわからないけど、多分大丈夫だと思う。

リズたちならきっとわかってくれる。


「最後に一個だけ。リューちゃんはもっと自分を大切にしなさい!もしリズ様たちと逆の立場でリズ様たちが無茶ばっかしてたら生きた心地がしないでしょ?大切にしたい人の中にきちんと自分も入れてあげる事!いい?大切な人じゃなくて大切な人笑っていられるように頑張るのよ。」


「ミザ、ありがとな。俺ミザには一生頭上がらない気がするよ。うん、やっぱミザの事好きだな。じゃあまた来るよ。今度はお礼も兼ねてもっとうまいもん持ってきてやる。じゃあな!」


そう言って勢いよく宿屋を飛び出す。

どうなるかわからないが今はとにかく一秒でも早くみんなに会いたかった。

そして本音をぶつけるんだ。

思っていることをきちんと言葉にしよう。

かっこつけて強がるんじゃなくてありのままの弱い自分でみんなと向き合ってみよう。

嫌われるかもしれない。

呆れられるかもしれない。

けど不思議とそのことに恐怖は抱かなかった。。



「ったく、ほんとにリューちゃんは女心わかってないんだから。好きなんて簡単に言わないでよね。」


勢いよく屋敷にかけていくリュースティアの後姿を見ながら彼女がつぶやく。

もちろん彼が振り返る事などない。



さすがどこでもフラグ建築士。

こうして次々に本人の知らぬところでフラグが建築されていくのであった。



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