第91話 ホームレス、そして禁断症状
*
目が覚めた。
知らない天井、背中はふかふかの布団ではなく硬い木の床。
そのせいかで体が軋む。
リュースティアは起きてすぐ、なぜ自分がこんなにもみじめな気持ちで目が覚めたのかわからなかった。
だがすぐに昨晩の出来事を思い出す。
そうだ、俺は逃げたんだ。
俺に差し出された手を振り払って。
ここはギルドの二階、お金のない冒険者用にあてがわれた大部屋だ。
屋敷を飛び出した後、皆と決別し、メーゾルから出ていく勇気などあるはずもなく、あてもなくただ領内を走り回った。
そしてたどり着いたギルドの二階。
受付にいたラニアさんは何も言わずに二階へと通してくれた。
なかなか気の利く人物だと思う。
そしてそこにリュースティアとレヴァンはいた。
彼はなぜかずっとリュースティアの後をついてきていた。
なにも言わず、いくらこっちが拒絶しようとリュースティアから離れる事はなかった。
だから諦めた。
「はぁ、どうすっかな、、、。」
一晩たち、冷静に考えれば考えるほど自分に非があることが分かり嫌になる。
リズたちは何にも悪くない。
そんな事はわかっているのだがこちらにも譲れないものは当然、ある。
巻き込みたくない、勝手な言い訳を口にして俺はみんなに嘘をつき続けたんだ。
本当は自分が大切な友を守れなかったことを知られるのが恐いだけなのに。
勇者であるアルフリックを魔王と言って誰にも信じてもらえないことがみじめで。
皆を守るため、そう自分に言い訳をして、みんなを傷つけて逃げたんだ。
「くそっ!」
俺は弱い。
そんな当たり前の事を突きつけられたようで訳もなくイライラする。
俺は弱い。
そんなこと知ってる、誰よりも俺自身が。
だから今更それを突きつけられたところでなにか思うはずなどない。
だけど、ヴァンを助けられなかった。
その事実とともにその言葉がリュースティアの胸に深く沈み込んでいく。
「珍しいな。リュースティア様がそこまで怒りをあらわにするのは。リュースティア様はあまり心を見せない。おそらくそれがリズ様達には不安なのだろう。」
声のする方を見ると案の定レヴァンさんがいた。
昨夜はリュースティアに付いてきたせいで風呂にも入れずこんなところに泊る羽目になったはずなのに文句はないらしい。
それもそうなのだがレヴァンさんはいつも通り着ている服には一切皺がなく、髪の毛も完璧にセットされている。
目や顔には疲労の色など一ミリも見られない。
本当は家に帰っていたんじゃないかと疑いたくなるレベルだ。
さすがイケメンは違うな。
「レヴァンさんは俺をなんだと思ってるわけ?俺だって自分の感情が制御できなくなったりどうしていいかわからなくなるときだってあんだよ。それにリズたちが何で怒ってるかなんて俺にだってわかってる。」
「そうか、すまない。いくら強い力を持っていようがまだ15歳だったな。それならば心が付いていかないのも無理はない。不死者の悪い癖だ。何百年と生きている我らと同じように考えてしまう。」
そっか、俺、15なんだ。
中学生くらいか?
思春期真っ只中、イライラするのも仕方ない。
のかな?
一応前の世界だとそろそろアラサーだったんだけど、、、。
「なぁ、レヴァンさんはどうしたらいいと思う?」
こんな問いに意味はない事など重々承知している。
それでもリュースティアは他人の、レヴァンさんの意見が聞きたかった。
またも自分で答えを出すことから逃げたのだ。
「私の意見を聞いてどうする。また逃げるのか?私は言ったはずだぞ、いつまでも逃げていてはいけないと。決断は早い方がいい、と。決めるのはリュースティア様自身だ。もっと素直になればいい。そうだな、1つだけ言えることがあるとすれば少しは自分の為を考えてみることだな。」
”また逃げるのか”
その言葉が鈍器のように頭を殴打する。
何百年も生きているせいかレヴァンさんに言われるとその言葉は重みを増す。
なんとなく、彼の言葉にはたくさんの後悔と悲しみを連想してしまう。
だから無視できない。
彼の言葉に考えさせられる。
だが彼はいつでも答えは用意してはくれない。
自らで考え、出した答えが最良であると知っているのか、あくまで道を示してくれるだけだ。
「レヴァンさんに何がわかんだよ。俺にだって譲れない想いはあるんだ。」
そう言って荒々しく部屋を出ていくリュースティア。
冒険者の朝は早いためか昨夜はたくさんいた冒険者たちはほとんどここにはいない。
おそらくクエストにでも向かったのだろう。
リュースティア様もクエストに向かうのだろうか?
彼は意外と頑固者のようだ。
素直に彼女たちの元へ帰るつもりはないらしい。
(リュースティア様、機を逃しては後悔する。主と私みたいにはなるな。)
そんな事を思いながら新たな主の後を追う。
*
リュースティアが屋敷を飛び出してなんだかんだ5日がたっていた。
いまだにどちらも折れる気はないらしい。
リュースティアは簡単なクエストで日銭を稼ぎ様々な宿を転々としながらホームレス生活を継続している。
もちろんレヴァンさんも一緒だ。
リズたちは屋敷で悠々自適、とはいかないがそれなりの生活をしてるらしい。
これはシルフとの共感覚によって得た情報だ。
シルフに念話を切られてしまっている以上それ以上情報を手に入れる事は不可能だった。
下手に探りを入れてリズたちにバレるのも嫌だしな。
それでもマップ機能を使って異常がない事はチェックしている。
何か少しでも異常があればすぐにでもかけつけられるように転移の準備は満タンだ。
うん?
これだけ聞いたらただのストーカーだ。
ふつーにキモイ。
自分の行動にかなり幻滅しているがこればっかりは仕方がないだろう。
皆を守るためだ、そうやって自分を正当化し、なんとかやっていってはいる。
それはいい、まだ耐えらるんだ。
けどそんな俺にもついに限界が来た。
もう耐えられない。
リズたちの事より深刻も深刻。
それはリュースティアのアイデンティティに関わる問題だ。
「お、おかし。お菓子が作りた――――――い!!!!!!!」
そう、リズたちが屋敷にいるためお菓子が作れない。
今日で五日目。
こんなに長期間お菓子を作っていないのなんて転生した直後くらいだ。
「リュースティア様、どうかしたか?」
突然叫び出した主に若干引きぎみのレヴァンさん。
それもそのはず、今のリュースティアは目が血走っていて落ち着きがなく有り体に言うなら怖い。
というか完全に薬でもやってるん人にしか見えない。
「おかし。おかし。おかし。・・・・・・。」
だめだ、完全に聞こえていない。
これじゃただのゾンビと変わらない。
これはどうにかして屋敷に戻るべきだろうか?
それとも被害が出る前に殺るべきか?
なおも焦点の定まらないリュースティアを見ながらそんな物騒な事を考える。
だがレブァンが物騒な決断をする前に救世主が現れた。
「あれ?リューちゃん、どうしたの?」
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