第77話 虚しい結末
*
「どうしたであるか!私を討伐に来たのであろう?それっぽっちの力で私に勝てると思っていたのであるか⁉」
魔王だから強いだろうとは思っていたけどこいつほんとうに強い!
さっきから無詠唱で上級魔法をぶっ放してきやがる。
「俺はヴァンとは戦いたくない。俺たちが戦ったって無意味だってのがなんでわからないんだ!」
リュースティアはヴァンから放たれる上級魔法を必死で相殺しながら叫ぶ。
リュースティアに戦う気がない以上戦いはどうしても防戦一方になってしまう。
それに城の中にはまだリズたちがいる。
簡単に魔法をいなすわけにもいかない。
「まだそんな甘い事をいうのであるか!ならばその甘さを後悔しながら死ね。」
くそ、まだか!
レヴァンさん早くしてくれ。
「悪いな、俺はパティシエだから甘党なんだよ!【風壁】!【幻霧】」
ヴァンから放たれた魔法を受け止めつつ霧魔法で時間を稼ぐ。
これで視界はゼロ。
お互いに視界がゼロの状態ならばヴァンは無闇に魔法を放つことはできないはずだ。
魔法さえとりあえず封じれば何とかなる。
「だから甘いといったのである。リュースティアは吸血鬼を、古き魔王たる
どこからか、少しいらだったヴァンの声が聞こえた。
その直後、危機感知が背後に反応する。
しかしリュースティアが回避しようとしたときにはすでにヴァンの腕が振り下ろされた後だった。
「ぐっ、。なんで。」
かろうじて身をよじることで急所を外すことに成功したリュースティアだったが受けた傷は浅くない。
胸から流れる血を抑えながらもヴァンの第二撃に備えるため魔力感知をフル起動し、感覚を研ぎ澄ます。
ストレージに
隙を見せたら確実に次は殺ろされる。
「なんで、であるか。私は吸血鬼であるぞ?視界が封じられようと血の匂いでリュースティアの位置など手に取るように分かるのである。それに魔法を使うからと言って接近戦ができないとは誰も言っていないのである。いつまでも甘い事を言っていないで殺す気で来るのである。」
くそ、油断した。
これじゃあ視界を塞ごうが意味がない。
と言うより自分が不利になるだけだ。
「だからさっきから言ってんだろ?俺は甘党なんだよ!」
とは言ったもののこのままじゃ確実にじり貧だ。
こちらに相手を殺す気がない以上、どうしても攻撃が甘くなってしまう。
どうにかして相手を無力化したいがこうも隙が無いとそれも難しい。
ヴァンを殺すか俺が殺されるか。
くそ!
「頑固者が!ならば希望通りさっさと死ぬのである。」
ヴァンが詠唱を始めた。
これは危機感知に頼らずともヤバイってのが分かる。
あれをまともにくらったら確実に死ぬ。
最上級、いやこの感じだと
『リュースティア様。遅くなり申し訳ありません。こちらは無事に終了しました。』
来た!
リュースティアが待っていたレヴァンさんからの一報がついに届く。
レヴァンさんは影移動が使えるのでヴァンの目が覚めた時にもしものことを考え、リズたちの避難に当たってもらっていた。
思っていたよりも時間がかかったのはルノティーナあたりが強く反発でもしたのだろう。
こんな時に迷惑な奴め。
まあ気持ちはわからんでもないが。
レヴァンさんがどんな手法を使ったのかはわからないが無事に避難してくれてよかった。
今のヴァンはヤバすぎる。
『サンキュ。なあヴァンは死ぬ気なのか?』
リュースティアがヴァンと戦っていて疑問に思ったことだ。
多分ヴァンはリュースティアを本気で殺そうとはしていない。
もし本気で殺す気ならわざわざ接近戦ができることも血の匂いで位置が分かることも言う必要がない。
それに傷を負わせたのに追撃の手を緩め、詠唱を始めた。
確かにヤバそうな感じがプンプンしているが見方を変えるとわざと時間を与えているようにも見える。
リュースティアが回復できるように。
そう考えてしまうと答えは一つしかない気がする。
リュースティアを追い込み、本気にさせ自らを殺させる。
それこそがヴァンの描いたシナリオなのではないのだろうか。
『・・・・・・。』
無言のレヴァンさん。
だがそれはおそらく肯定の意。
好意的ではないにしろ、自分の主だ。
やはり思うところはあるのだろう。
『くそ、何でなんだよ!何であんたらはそれで平気なんだ!』
やり場のない怒り。
それは自ら死を選ぶヴァンに対してなのか。
死を選んだ主を止めようとしないレヴァンさんに対してなのか。
その選択を否定できない自分の弱さに対してなのか。
リュースティアにはわからない。
『主様は、、、。主様は決して我々闇の生きものと人間が交われないことをその身を持って知っておられます。ですから苦肉の策として自ら死を選んだのです。王たる主様を倒した人物が他のアンデットを従わせたと言う事にすれば共存も不可能ではいない。主様を倒したという強大な力、それがあれば人間の闇の生きものに対する恐怖は小さくなる。人間に対しても、アンデットたちにとっても抑止力となる。主様はよくそうおっしゃっていました。』
『共存を願うのなら、なんで戦う必要がある!調停を結んで仲良くしていけばいいじゃないか。』
そうだ、お互いに平和を望んでいるじゃないか。
ヴァンは人間が好きなんだ。
人間もアンデットも同じように想っている。
それなのにこんなシナリオしか用意できないなんて絶対に間違っている。
『それはできないのです。人間は一度与えられた恐怖を忘れない。魔王の一人でもある主様を人間は決して受け入れることはない。主様はリュースティア様に我々アンデットたちの希望を託したのです。自らの命と引き換えに。ですからどうか主様の最期の願いを聞き届けてあげてください。』
その言葉を最後にレヴァンさんとの念話が切れた。
一時的だったとは言えスキルなしのレヴァンさんと念話をつないだことで相当に魔力を消費したらしい。
だがそんなことはどうでもいい。
ほんとうにそれしか救う道はないのか。
ほんとうにそれしか人間とアンデットが共存できる道はないのか。
「すまない。リュースティアには酷な事であるのは承知しているのである。だがリュースティアにしかできないことなのである。レヴァンを、みんなを頼んだである。」
リュースティアとレヴァンの念話を聞いていたのかヴァンが詠唱の途中でそんなことを言ってきた。
悲しそうな顔で、つらそうな声で。
「くっそー!!!」
リュースティアの叫びが二人きりとなった城内で響く。
そしてその直後、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます