第76話 決して交わらない想い
*
「はぁ、もう俺は何も考えないことにする。現状をすべて受け入れよう。けど一個だけ聞いていいか?」
「なんでしょう?私に答えられることであれば何なりと。」
女装を解いた使者さんがイケメンフェイス&ボイスで言う。
女性でも美女、男性でも美男って反則だよな。
やっぱり神様、この世界は不平等だと思うのです。
ちなみに俺の聞きたいことは使者さんに関することだから100%答えられると思う。
「女装してるってことはもしかしてあなたも男が好きだったりする?」
この人の返答次第では即座にこの場から退出しよう。
さすがの俺でも変態主従に慈悲は与えられそうにない。
遠距離魔法を余すことなく使用し、この地にただ一つの塵さえも残さず葬り去る。
世の中の男性の為に二人には尊い犠牲になってもらうしかない。
それで世界の(主にリュースティア自身の)平定が保たれるなら人を殺すことも致し方ないだろう。
南無~。
「まさか、これは男色の主を避けるための苦肉の策です。私は
「ありがとう!!!」
「感謝されるいわれはないのですが?」
いきなり感謝の言葉を放ったリュースティアに困惑する使者さん。
相変わらずその顔には生気はないが驚いた顔が見れて少し得した気分だ。
でもありがとう、その気持ちは本物だ。
これでおかしいのはこの城の主だけ、ということだ。
良かった。
魔法で遠距離攻撃をする必要はなさそうだ。
まあヴァンの対応次第になるんだけどさ。
「それよりもあなたの名前は?さすがにヴァンほどは生きていないだろうから名前まだあるだろ?」
そうなんだよね。
いつまでも使者さんとか呼びにくい事この上ない。
仮にもこれから交友を深めていこうと思っている人の配下の人物に当たるわけだし。
使者さんだと他人行儀っぽくて親交が深まりそうにない。
まあ名前を教えてもらったところでこの人、不愛想なんだけどさ。
「レヴァンと申します。主の配下の者では一番の新参というところですね。」
なるほど、レヴァンさんか。
名前までカッコいいとか反則極まってるよな。
そこは太郎とかにしとけよ。
誰にとでもなく内心で不満をぶちまけるリュースティア。
これで知力、武力も兼ね揃えていたらどうしよう。
きっとそれは殺っちゃっていいやつだよね?
*
「む。私は一体、、、。」
「起きたか?悪いないきなりぶんなぐるみたいなことして。」
使者さん、もといレヴァンさんと手土産のお菓子を食べながら城の主であるヴァンが起きるのをずっと待っていた訳だがようやく起きた。
3時間も気絶してるのはさすがに長いと思う。
内心で呆れつつも顔には出さない。
俺は大人、だからな!
ちなみに遊技場で遊んでいる女の子達は一向にこちらに来る気配はない。
召喚獣を通して伝わってきた感じだと相当にエキサイティングしてるみたいだ。
なのでこの場にみんなは呼ばない。
決して中断させるのが恐かったとかではない!
断じて違うのだ、、、。
「お主はリュースティア。そうか、私は気絶していたのであるか。しかしこの拘束は一体?」
イスに縛りつけられたままヴァンが不思議そうな顔をしている。
まあ無理もないよな。
ル○ンダイブを決めて気が付いたらイスに縛りつけられているんだもんね。
そこは同情しよう。
拘束を解く気はないけどね。
「さっきみたいにル○ンダイブされても困るしな。こうでもしないと話ができなそうだったし。」
「ル○んンダイブが何かはわからないがまあいいである。しかし解せないのである。」
なんだ?
生かされてるのが不思議とかか?
それとも俺のことかな?
どっちもうまく答えられる自信ないからどうしたもんかな、、、。
「なぜ私の求愛を断るのだ?」
「そっちかよ!!!」
おっと、思わず声に出してしまった。
冷静に、冷静に。
俺は大人だ。
「世間一般の男子は女の子が好きなの!で、俺もその世間一般の男子。男は守備範囲外、他をあたってくれ。」
「はぁ、これは骨が折れそうであるな。今は諦めるであるか。とりあえずその話とやらを聞こうではないか。」
んー?
全然諦めてくれそうにないんだけど。
これは気にしたら負けな奴か?
「俺の話はただ一つだけだ。俺たち人間とヴァンたちアンデットで調停を結びたい。簡単に言えば互いの不可侵条約だな。」
「なぜであるか?」
「なぜってアンデットたちに人間が被害を受けてる。アンデットたちが冒険者に殺されてる。そんなの無意味だと思わないのか?」
「我らアンデットが人間を襲う事に理由などないのである。ただそこに人がいるから殺すのだ。人間とてそれは同じではないか?なぜそれをやめねばならないであるか?殺られる前に殺るのはあたり前であろう。」
「だからその構図をなくすための不可侵条約だろ?互いに殺さずの関係が築ければもう争う必要なんてないだろ。」
「それは理想論であるよ。確かにリュースティアは人間のくせに良い奴である。優しい心を持ち、私たちアンデットである魔物達の声も聞こうとしてくれている。だが人間が皆リュースティアのようなやつではないのであるよ。それに私は人間が好きになれないのである。」
そう言ってどこか悲しそうな顔をするヴァン。
人間が好きになれない、か。
何だろう、すごく無理をしているように見える。
ホントは人間が好きなんじゃないのか?
「人間が嫌いなら何で俺と会ったんだよ?確かに俺の言っていることは理想論かもしれないけど嫌なんだ。ただ自分と違うからってだけで相手を殺すなんて。それに俺はまだあんたたちの事を知らない。知性のない魔物はともかく、ヴァンみたいなやつが理由もなく人間を、他種族を襲ったりするわけがない。だったら俺はその理由を知りたい。」
確かにヴァンは変態だ。
だけど悪い奴じゃない。
その俺の感覚は絶対に間違ってはいないと思う。
ホントにヴァンが悪い奴なら俺はともかくリズたちは無事ではないはずだ。
だからこそヴァンの本音を聞きたい。
何を思っているのか。
「、、、。ただの気まぐれである。種族が異なればわかり合うことなどできないのである。」
「ふざけんな。なら俺がヴァンと友達になればいい。人間と吸血鬼だってきっと分かり合える。だから何もしてないのに諦めんなよ。お前が諦めなければ、お前が変われば他の者はお前に続く。だってお前は
自分で言っておきながらすごく恥ずかしい事に言ってから気づく。
俺はそこまで熱い人間じゃないはずなんだけどなぁ。
なんかこいつを見ていたら我慢ができなくなった。
自分の気持ちを押し殺して自分に嘘をついて。
そこまでしてこいつが守りたいものは何なんだ。
なんのためにこいつは友好の手を拒むんだ。
「清き心を持つリュースティアには分からないである。人間の腹黒さも醜悪さも。」
「ああそうだよ!俺には分からない。ほんとは人間の事が好きなくせに関わることを怖がって城に引きこもってるやつの気持ちなんて。なんで自分の気持ちに嘘をつくんだよ。人間と仲良くなりたいならそう言えよ!」
くそ、俺はほんとはこんなキャラじゃないのに。
だけどこいつには、ヴァンだけには本気でぶつからないといけない気がするんだ。
なんでもかんでも諦めて周りを理由にしてさ。
昔の、前の世界の俺みたいだ。
あの時の俺は自分が不幸なことに慣れてそれを言い訳にして色んなことから逃げて、すべて諦めてたんだ。
その結果、死ぬときに残ったのは後悔だけ。
あんな想いはもう二度としたくない、させたくない。
だから俺は本気でヴァンとぶつかるんだ。
「仕方がないであるな。所詮、リュースティアは人間、私は吸血鬼。わかり合えはしないのである。私の耳に二度とそんなきれいごとを聞かせるな!」
そう言ってヴァンは自らの拘束を解くとリュースティアに飛びかかってきた。
今度はル○ンダイブなどではない。
本気でリュースティアを殺そうとしている。
「っつ、何でだよ⁉俺はヴァンとは戦いたくない。どうしてわからないんだ!」
リュースティアはヴァンの一撃をかろうじて躱しながら叫ぶ。
だがヴァンから返事が返ってくることはなかった。
何でそんな悲しそうな目をするんだ。
ホントはヴァンだって俺と戦いたくなんてないんだろ?
俺だってヴァンとは戦いたくない。
なのに、なのに!
何で俺たちは戦わないといけないんだ、、、。
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