第71話 バカ×バカ=大災害

「なぁ、これどう収集つければいいんだ?」


「さ、さぁ。」


目の前のわけわからない光景を見ながら呆然と立ち尽くすことしかできない。

えっと、どうしよう。

今更後悔しても遅いけどこいつら、混ぜるな危険だ。



ことの始まりはアルが宿までついてきたことからだった。

まあ予想はしていたけどアルとルノティーナは知り合いらしい。

そりゃそうだよな。

Sランク冒険者でパーティメンバーの妹、知らないはずがない。


「おかえりー。思っていたより早かったのね。ってあれ?アルじゃない!うわー久しぶり。」


「もしかしてティナちゃんかい?ずいぶんときれいになったね。見違えたよ。」


うんうん、久しぶりの再会だ。

はしゃぐのはわかる。

いいんだ。

好きなだけ感動の再会を楽しんでくれて。

けどルノティーナ、よだれの後ついてるぞ?

それにほっぺたには紙の文字が転写されてる。

お前、完全に寝てただろ。

仕事はどうした仕事は。


「なるほどね。リューにぃのけぇきを食べに来たんだ。私も丁度休憩にしようと思ってたところなのよ。一緒に食べましょう!」


おい、それを用意するのは誰だと思ってる?

勝手に決めるな。

それに休憩ってお前まったく仕事進んでないじゃん。


「いいのかい?うれしいなぁ。これでようやくけぇきが食べられるよ。ていうかリュースティア君の事リューにぃって読んでいるんだね。」


いや、お前もなに普通に応じてんだよ。

誰も用意するとは言っていないぞ。

少しくらい俺に遠慮しろ。


「だってリューにぃってお兄ちゃんみたいなんだもん。強くてやさしい、それになんだかんだで困っている人を放っておけないタイプ。性格は全く似てないのに不思議よね。」


「ああ、確かにそうかもしれないね。彼は良い色してるから。でも僕の事はお兄ちゃんって呼んでくれないんだろ?少なくとも僕はリュースティア君よりもエルよりも強いんだけどなぁ。」


「ダメ!アルは何かお兄ちゃんって感じじゃないのよねー。なんでかしら?それよりリューにぃおやつまだー?」


エルと似てるって言われると嬉しいか微妙なところだ。

っていうか色ってなんだ?

もしかしてオーラとか見えちゃう系男子?

っていうかそれよりもまず言いたいことがある。


「お前らなに普通にくつろいでんの⁉」




「オマタセシマシタ。これが本日のスペシャリテです。」


結局二人の(ほぼルノティーナの)圧に負けてお菓子を作ることになった。

言いたいことは色々とあるが我慢しよう。

なんせ俺は大人だからな。


「うわーっ!すごいね、これがけぇきってやつかい?それよりもどうしてそんな変な口調になってるの?」


「別に、、、。」


すこーし、ほんとにすこーしだけ拗ねたように口を尖らせるリュースティア。

お菓子を作ってくれって言われて断れない自分が憎い。

これがパティシエ、職業病か、、、、。



「いいじゃない、そんなこと。それより今日のケーキはなんてやつなの?」


そんなことってお前なぁ。


「それもそうだね。早くけぇき食べたいし。」


お前も同意してんじゃねぇ。

こいつらってなかなかの無神経なのではないだろうか?


「リュースティアさん、頑張ってください。」


リズ、、、、、。

あれ、おかしいな。

なんだか泣けてきた。



「ふぅ、美味しかった。」


「うん、ほんとに美味しかったね。特にこのしょーとけぇきってやつ!生地のふわふわ感が堪らないね。」


そうか、それは良かったよ。

くそ、褒められるとやっぱりうれしい。


「ショートケーキはうちの店でも一番人気の商品なんだよ。うちにある窯の癖もだいぶつかめたからな。焼き具合は完璧だ。生クリームも高めのパーセンテージで甘さ控えめ。さらにベストな状態でナッペしてるからな。最高の一品、それに合うように他のお菓子も作ってあるから。」


そうなんだよね。

ショートケーキって一見単純なんだけど少しこだわるだけですごく美味しくなるんだ。

甘さが控えめって言うのもこだわりポイントだしね。

甘さを少し控えるだけでクリームの感じがだいぶ違う。


「うん、何言ってるのかさっぱりわからないわね。ふつうに美味しいでいいじゃない。」


てめぇ。

そこは俺の、って言うかパティシエのこだわり部分なんだよ。

説明くらいさせろ。


「さっ、お腹もいっぱいになったことだし食後の運動でもしましょうか!当然アルが相手してくれるんでしょ?」


ん?

おいちょっと待て、仕事はどうした仕事は。

まぁ俺に相手をしろって言ってこなかっただけましか。


「うん、いいよ。ティナがどれだけ強くなってるか楽しみだなぁ。3年ぶりくらいだっけ。ルールはいつものでいいんだよね?」


さてと、じゃあ今のうちに片づけしちゃうか。

さっさと片付ければもう一回くらい街の観光に行けるかもしれないしな。


「じゃあリューにぃ、結界と転移よろしくね。」


はい?

結界に転移?

待て待て、どんな食後の運動する気だ。


「よーし!行くわよ!」


「うん、いいよ。」


ちょっ、まだ結界張ってないから!

勝手に先走んな。



「やっぱりアルは強いわねー。ぜんぜん歯が立たなかった。」


「そう?でもティナもだいぶ力をつけたと思うよ。びっくりしたよ。」


えっと、和んで称え合ってるとこ悪いんだけどさ、これどういう状況?

どんな戦いしたら地形が変わるんだろう。

食後の運動にしては激しすぎやしないかね?


「よく言うわ。でもこの前リューにぃとも戦ったけどリューにぃの方が強い気がするのよね。なんかアル変わった?」


俺の方が強いってのは嘘だろ

アルを見た時勝てるビジョンが全く浮かばなかったんだけどなぁ。


「そうかなぁ?あっ、そっか。今の僕、休暇中だから。」


いや、関係ないだろそれ。

人が変わるわけでもあるまいし。


「そっか。じゃあもうひとセットやりましょ!」


えっ、まだやるの?

もうそろそろやめとけよ。

だって結界にヒビ入りだしてんだよ。

これ以上やったら周りに被害が出る。

というか俺が宿の人に怒られる。

なぜって?

転移をお願いしておきながら転移する前に戦いを始めたバカがいるからだ。

何とか結界は間に合ったけどさぁ。

こんな狭い所でやり合うなよ。



あっ、屋根崩れた。









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