冒険のその後
*
「さてと、さっさと終わらせるか。」
そんな事をつぶやくリュースティアが今いる場所は先ほどシルフたちが魔物に襲われていた場所、つまり瘴気に侵された森である。
そしてリュースティアは文字通りそんな森を空中から見下ろしている。
風魔法の【
わざわざ併用しなくてもいいのだが二つを合わせて使った方が空中でのバランスがとりやすいのだ。
これなら空中で静止することも難しくないしね。
実際こんなことができるのは魔力の保有量が多いリュースティアだけだ。
普通ならスキルと魔法を併用するなど魔力とスタミナを膨大に浪費するようなものだ。
できたとしてもそんなことを行うもの好きなどそうはいない。
リュースティアがこの場所に来たのは、シルフにこの森を助けてほしいと頼まれてしまったからだ。
正直この森がどうなろうと興味はないのだがシルフに頼まれてしまっては断れない。
なんだかんだでリュースティアは身内に甘いのだ。
「っても瘴気ってどうやって消すんんだ?そもそも俺聖魔法つかえないんだよなー。仮で聖者のジョブ持ってたけど意味ないしな。」
リュースティアはなにか役に立ちそうなものはないかとストレージや自身のスキルを調べていく。
だがやはりと言うべきか使えそうなものはない。
「瘴気の発生原因はわかっていないってラニアさんも言ってたし原因を断ち切るのは難しいよな。瘴気がたまるってことは土地柄の問題か、風通しでも悪いのか。風通しが問題なら、【突風】」
リュースティアから放たれた風はあたりの空気をすべて吹き飛ばす。
一瞬だけ澄んだ空気に戻ったがすぐに淀んだ空気に戻ってしまう。
「ダメか。やっぱり原因を断ち切るかこの地を丸ごと浄化しないと無理そうだな。こんなことなら聖魔法使える奴連れてくるんだった。」
そしてとりあえず次の手を試そうと思っていたところで邪魔が入る。
大量の魔物だ。
瘴気に汚染されている場所では魔物の発生率が高いとは聞いていたけどいくら何でも多すぎる。
ついさっき魔物の大軍を撲滅したばかりだ。
はぁ、めんどくさい。
もしかして魔族とか絡んでたりしないよな?
そんなことを思いつつ魔物を倒しているとディーネから念話が入った。
『ご主人様、今いいかの?』
『魔物の相手してるだけだから問題ない。なんかあったのか?』
ディーネたちは屋敷であることをやってもらうために置いてきた。
それがこうも早く連絡を入れてくるとは何かあったのだろうか?
三人の冒険の話を持ち出すわけではないがこいつらが集まると何が起きるかわからない。
『魔物の相手をしていることは問題ある状況だと思うのは妾だけか?まあよい、それよりもこっちはもう終わりそうじゃぞ。ご主人様の方はどうじゃ?』
呆れたような、どこか諦めたような口調でそんなことを言ってくる。
だがそんな対応をされることなど今に始まったことではない。
リュースティアはディーネの口調を特に気に留めるでもなく会話を続ける。
『瘴気を浄化する方法がわからなくて手こずってる。それより終わりそうなら買い出しも頼んでいいか?』
とりあえず何かがあったわけではなさそうなので安心する。
ならついでにもう一仕事お願いしておこう。
さすがにそろそろ時間もないし使える者は何でも使おう。
『買い出しならば任せるがよい。しかしお主は妾と契約をしたのじゃから水魔法が使えるではないか。水魔法の中には浄化の魔法もあることを知らぬのか?』
なに⁉
それは初耳だ。
水魔法にも浄化魔法ってあったのか。
でもそれなら簡単に済みそうだ。
『今初めて知った。その魔法の名前教えてくれ。』
『かまわぬが、使えるのか?詠唱もなしに見たことのない魔法を行使するなど聞いたことがない。魔法名は【
ディーネが当然の疑問をぶつけてくる。
だがそんなこと言われてもリュースティアにだってわからない。
『あー大丈夫だろ。とりあえずそれ使ってみるわ。またなんかあれば連絡してくれ。』
そんな風に適当に返すと念話を終了し、あたりを見渡す。
まだ倒しきれていない魔物が何匹かいたが相手をするのも面倒なので放置する。
「えーっと、なんだっけ?そうそう、【
リュースティアは先ほどディーネに教えてもらったばかりの魔法を行使する。
初めての魔法を使う時はいつも魔力を抑えるのだが今回は浄化魔法と言う事もあり、人や森に害はないだろうと思い、最初からかなりの魔力を込めてみた。
「お、おっ?」
魔法を放った直後、あたり一面が光で包まれた。
そしてその光は徐々に範囲を広げる。
浄化できているかもわからず光の広がりを見ていると何の前触れもなくその光は消えた。
「終わったのか?」
魔法の効果が切れたことを確認したリュースティアは浄化の効果を確かめるべく地上へと降りる。
とりあえず先ほどまでの陰険な空気は消えたみたいだ。
これで解決していればいいのだがリュースティアの危機感知が近くで反応している。
「はぁ。やっぱりか。」
リュースティアはため息をつきながら危機感知が反応したほうを向き、風神で一気に切り裂く。
すると何もなかったはずの空間が切れた。
そしてその先にはどこからどう見ても怪しい黒い壺が置いてあった。
「これが瘴気の原因か。」
そう言って壺をストレージに回収する。
これでこの地が再び瘴気の汚染されることもないだろう。
「さ、帰るか。壺の事はラニアさんにでも押し付ければいいだろ。」
そしてリュースティアは最後にもう一度だけ壺のあった付近に浄化魔法をかけその場を後にする。
リュースティアは知らない。
彼が使った浄化魔法がここら一体に影響を及ぼしていたことを。
そしてそれが多数の命を救ったことを。
この件を知った国の聖騎士たちが必死で術者を探そうとしている事を彼は知らない。
*
「ん?なんで先の森が俺の支配領域になってんだ?」
屋敷に戻り、三人が帰ってくるまでの間、黒い壺を調べようと思いログを確認していた時の事だった。
理由はわからないが先ほどの森もリュースティアの支配領域になったみたいだ。
「あそこには源泉はないはずだしな。支配領域にすんのは源泉を支配する以外にもなんか方法があんのか?まあいいか、とりあえず放置で。」
知識に乏しいリュースティアが考えたところで答えなど分かるはずもない。
なのでそうそうに思考を放棄し、黒い壺を備考欄で調べる。
何となく危険な気がしたのでストレージからは出していない。
>呪具:瘴気壺
>壺が置かれた周囲から瘴気を集める。
>または瘴気を放つ。
呪具?
また物騒なワードが出てきた。
せっかくこれから楽しいパーティだって言うのにさ。
怪しい道具の類には退場願いたいね。
「これは死蔵決定っと。今度おっさんにでも見せてどうするのか判断してもらうか。」
そんなことを言い、リュースティアは工房へと向かう。
つい先日新しく作ったリュースティア専用の工房だ。
だからと言ってなにかがあるわけでもなく、ただ広い空間に様々な鉱石や魔石が置いてあるだけの部屋だ。
倉庫となんら変わりはない。
「さてと、3人が帰ってくるまでには造っちまうか。素材は銀かな?加工はむずいけどうまく加工できればきれいな輝きを放つしな。魔鋼とかミスリルは武器以外には向かないし、金とか宝石の類は引かれそうだもんな。」
そんあことをブツブツとつぶやきながら慎重に素材を選び、デザインを明確に頭の中でイメージする。
いくらスキルで簡単に創れるとは言え、難易度はそう低くはない。
特にアクセサリーなどは特に。
「ふう、これなら。」
作業を始めてから数十分、ついにそれは完成した。
1つ数秒で作れるそれは何十回もの失敗を重ね。完成させたものだ。
故にたいした時間はかかっていないがやり切った感は半端じゃない。
これなら大丈夫だ、きっと喜んでくれる。
そう確信したリュースティアは完成した作品を丁寧に包装し、ストレージへとしまう。
そして手を洗い、着替えを済ませると買い出しに出ていた三人を迎えるために玄関へと急ぐのであった。
約束の時間まで残り1時間を切った。
うん、急がないとね。
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