第44話 ドジ幼女VS.マゾ変態

「いい加減起きろ。」


目の前で幸せそうな表情で気絶している精霊には悪いが面倒ごとの匂いがプンプンしているのでさっさと起きて出ていってほしい。

あと、何よりその表情がキモチワルイ。


「な、何するのじゃ!妾は四大精霊の一人、水の精霊ウンディーネなるぞ。それなのになんと容赦のない平手打ちをしよる。」


ちなみに惚れ薬の効果は万能薬エリクサーを飲ませて解除済みだ。

精霊に惚れられてもうれしくないからね。


「あー、悪い。顔が気持ち悪くてつい魔法が出た。四大何とか言ってるけどウチにはシルフがいるから間に合ってんだわ。ってことでじゃあな。」


テキトーに謝ってテキトーにお別れをしようとするリュースティア。

何と無慈悲な対応だろう。

リズとシズが若干引いている。

そしてお仲間のシルフはウンディーネが苦手なのかいつの間にか消えていた。


「お主、人ではなく畜生の類であったか⁉目の前のこんな美少女を事情も聴かずに放りだすとは殿方の風上にも置けぬ。う、うーむ、しかこれはこれで悪くないのぅ?何とも言えぬ興奮を誘うのじゃ。」


あっ、こいつヤバイ奴だ。


この場にいた全員が思った。

シルフがドジ幼女、ウンディーネがマゾ変態。

もしかして四大精霊ってまともな奴いないんじゃ、、、。

リュースティア達がそう思ってしまうのも無理はない。

だって、ねぇ?


「オデグチハアチラデゴザイマス。」


なるべく目を見ないようにしながらそんな事を言う。

面倒なことに関わりたくないとか以前にこの精霊が面倒だ。


「なぜ外を向く⁉妾を見ようともせんとは、、、。だがいい!それもいいのじゃー!はぁはぁ、興奮してもうた。」


だ、だめだ。

こいつは変態レベルが高すぎる!

なにをしても喜ばれてしまいそうなのはどうすべきか、、、、。

 

「リュー、ディーネは褒められるのに弱いの!落ち着いたらディーネの話聞いてほしいの。ディーネの光弱い?このままだと消えちゃいそうなの。」


「消えるってどういうことだ?てかそれよりお前が出てきて話してくれよ。さすがにきついわ。」


いつの間に消えていたシルフから念話が入る。

いち早くここから逃げていたくせにしっかりと現状は把握しているらしい。

しかも消えるとか無視したくてもできないワードが出てきたしさ。

前にラニアさんから聞いた感じだと精霊って不死だったと思うけど?

仮に死んだとしても何年か経てばどこからともなく再生するらしいし。

だからといって目の前で消えていくのを黙って見ているのはなんか嫌だしなぁ。


「いやなの!ディーネは危険なの。気持ち悪いの。」


おい、それを俺に押し付けるな。

俺だって気持ち悪いんだぞ。

俺はノーマルだからアブノーマルな奴の耐性ないんだよな、、、、。


「えっと、ウンディーネとか言ったな?とりあえず話は聞いてやるから。」


消えられても夢見が悪いし諦めるか。

内心でため息をつきとりあえず話聞くことにする。

念話の内容を知らないリズたちが驚いていたがそこら辺のフォローは後ででいいだろう。


「こ、こんな美少女の話を聞かんとはー、、、って聞いてくれると申すか?」


あれ。

なんで少し残念そうなの、この子?


「ああ、だからとりあえず座れば?お茶とお菓子くらいなら出すから。」


「す、座って?お茶にお菓子?まるで客扱いじゃの。・・・・・これは何か違うのじゃ。」


驚きながらも促されるままに椅子座るウンディーネ。

シルフよりは大人と言っても体が小さくて足が床まで届いていない。

まあ、今の姿が本当の姿かわからないし気にする必要はないんだけどね。


ちなみに最後のつぶやきは聞き耳スキルを持っているリュースティアにしか聞こえていない。


「で、君がここに来たのはなんで?」


椅子座ったウンディーネに鎮静剤入りの紅茶を飲ませてから話を振る。

また興奮でもされたら話が進まないからこれくらいの対抗策は許してほしい。

なんだか最近薬を作ることが多くて冒険者よりも薬剤師のほうが向いてる気がしてきた。

まあ本業はパティシエなんだけどさ。


「実は妾を祀った水の祠が魔物に荒らされておるのじゃ。普段ならば結界と妾の力で返り討ちにできるのじゃがなぜか妾の力がうまく働かぬ。そこで他の力を借りようと祠から出てきたのはいいのじゃが肝心の妾の力が使えぬ現状では頼りになりそうな他の精霊を感知することもできず困っておったのじゃ。途方に暮れながらこのあたりを彷徨っておったのだが美味たる匂いに誘われてつい、という訳じゃ。」


うん、話が長いよ。

簡単に言うと住処が荒らされてるってことか?

まあそれくらいなら退治してやれなくもないと思うんだけど力が使えないって、何気に気になるな。

もしかして第三者の妨害でも入ってるんじゃないか?


「じゃあ俺がその祠ってとこに行って魔物を倒してくればウンディーネは家に帰れんの?」


「そんな簡単なものではないのじゃ。あそこにはレベル20を超える魔物がうじゃうじゃおる。そんなところに特攻など死にに行くようなものではないか。痛みは死なぬ程度がよいのじゃ。」


なんだその持論。

しかもお前なら分かるだろとでも言いたげな視線はやめてくれ。

悪いけど俺は君の仲間じゃないから。

みんな、違うから!

俺をそんな目で見ないでください。


「うわ、確かにこりゃ多いわ。少なく見ても1000単位でいるな。しかも中には厄介な奴も数体まぎれてる。いつもこんな数対処してたの?」


ウンディーネに教えてもらった祠のあたりをマップで検索してみた。

未探索の地は表示されないはずなのだがウンディーネと契約を結んだからか普通に表示も検索もできた。

確かに高レベルな魔物が多く生息する地ではあるらしいがそれにしては数が多すぎる。

しかもそのうち特にレベルの高い魔物の状態が【支配:上級魔族】になっていた。


「お主今何をしたのじゃ⁉なぜそこまで知っておる?よもやお主が黒幕などとは言わぬよな?まさに飴と鞭、それを体現、、、、、、、」


「これは俺のスキルの一つ、索敵に特化してんだよ。それより君はどうしたいわけ?」


勝手な妄想を始めたウンディーネを途中で遮り、当事者のやりたいことを聞く。

シルフの頼みだし何とかしたいとは思うけどそれは本人の意思次第だ。


「妾は、、、、。」


なぜか言いよどむウンディーネ。

あれだけ自分の変態さを余すことなく披露していたくせにこういうところでなんでしおらしくなるんだ?


「もうじれったいの!助けてほしいならそう言えばいいの。シルのリューは強くてなんでもできるの。だからディーネは助けてって言えば良いの!」


シルフがじれったさに耐えられなくなったのか再び現れる。

現れたり消えたり忙しい奴め。

っていうかハードル上げすぎじゃね?


「お主、シルフか!ずいぶんと久しいのう。それにしても今回はまたずいぶんと幼き姿になったものじゃ。して、なぜお主がここにおる?この男と面識があるようじゃが?」


あれ、気づいてなかったの?

てかさっきもシルフだけで充分って言わなかったっけ?


「リューはシルのなの!契約したからシルもリューのなの。そーしそーあい?」


ない胸を一生懸命張りながらそんなことを言う。

シルフ、契約は事実だが誤解を招くような言い方すんな。

誰が誰のもので誰と誰が相思相愛だって?


「なっ⁉仮にも四大精霊の一人であるお主が契約を結べるような者がおるとは、、、、。しかし幼きお主の事だ、どうせ気まぐれと言うやつであろう?」


なかなか信じてもらえない。

それだけ精霊が人と契約を結ぶことは珍しいのかもしれない。

今まで気にしてなかったけどやっぱり精霊ってすごいんだ。

それよりもいつ言おう、、、。



ウンディーネがすでにってこと。




「ディーネは相変わらず頭が固いの!シルの勘がリューはすごいって言ってるの。」


「ふん、お主の言葉など信じられるわけなかろう。他人を罵ることもできない天然めに用はないのじゃ。」


「シルだってディーネに用ないの。リューの事信じられないなら帰ればいいの。」


「お主に帰れと言われても全く興奮しないのじゃ!これだから無垢はダメなのじゃ。」


「ディーネにダメって言われたくないの!ドライアドもディーネみたいにはなるなって言ってたの。」


「なっ⁉ドライアドめ、、、、、、。だが奴なら?いかん、想像するだけでぇーーー。」


「気持ち悪いの!だから嫌なの!」



「はい、そこまで。シルフ、もういいだろ?」


だんだんと泥沼化してきた喧嘩をとりあえず止める。

できれば関わりたくなかったのだがリュースティアが止めないと永遠に続きそうっだったので仕方なく重い腰を上げた。

だって、リズとシズに関しては自分に飛び火することを嫌がって傍観を決め込んでいるし。

スピネルは興味ないのか本に没頭中だ。


はぁ、俺の適正ジョブってもしかして子守りか?


「喧嘩は後にしてくれ。今はこれからどうするか決めるぞ。それからウンディーネ、お前も俺と契約してるぞ?」


「なん、じゃと?」


信じられない、といった表情で何かを確認するウンディーネ。

そしてそのまま固まる。

俺に聞くなよ?

俺だってわかんないんだから。


「妾が契約。ならばお主は主?はっ⁉これがご主人様と言うやつか。それならば悪くない、かもしれぬ。ご主人様、よい響きじゃ。」


「契約解除でお願いします!」


予想の斜め上をいく思考、ヤバすぎるだろ。

こちらから願い下げたい。


「冗談じゃ、冗談!じゃからこのままでお願いしたいのじゃ。そして今一度我が主に頼もう。妾の住処、水の祠と妾自身を救ってはくれまいか?」


急に真剣な眼差しになり改めてお願いをしてくるウンディーネ。

その表情、仕草には精霊の年の功とでもいうべき威厳が感じられる。

いつもそうしていればいいのに、、、、。


「ああ、仮にも契約した身だしな。無下にはできない。それに放置したらここら辺も被害にあうかもしれないしな。」


「助けてくれると申すか!なんと礼を述べたらよいか。うむ、何なら妾の体で、、、、?」


そこは普通に感謝してくれるだけで良いんだけど。

シルフよりは大人と言っても幼女が少女になっただけだ。

遠慮したい。


「あっ、リュースティアさんダメですよ!明日はお店休めません。」


「何かあったっけ?」



明日祠に行って魔物退治をする方向に話がまとまりかけたところでリズからの待ったがかかる。

別に二日くらいお店休んでも問題ないよな?


「忘れたんですか?明日は新作のお披露目会と言って近所の皆さんやお客さんに宣伝してたじゃないですか。」


あっ、わすれてた。

そう言えばマカロンが完成したからそれのお披露目をするって宣伝してたわ。

うん、早いうちに手帳かカレンダーでも作ろう。

また忘れそうだ。




「ってことで、ウンディーネ今から行くか?」


「はい?」




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