第39話 疫病神?
「ふぅ、今日も疲れたわね。」
シズがそんなことを言いながら従業員用に用意した休憩室でくつろいでいる。
今はお店の閉店時間である4時を過ぎ、片付けがひと段落したところだ。
いつもなら閉店後は各々好きなように過ごしてもらっているが今日は新商品のお披露をするという事でこの休憩室に集まってもらった。
集まってもらったと言ってもここにいるのはシズとリズ、そしてスピネルにシルフ。
なぜかギルドマスターまでがいるがそこはスルーしよう。
なにか面倒な仕事を持ってきたに違いない。
「みんなお疲れ。店の方はどうだった?」
みんなに冷たい飲み物を配りながらそんなことを聞く。
もちろんギルドマスターの分はない。
恨めしそうにこちをを見ているがここはスルースキルに頑張ってもらおう。
なぜ店の様子を聞いたかと言うと、リュースティアは厨房にいることが多く、きちんとお店の様子を見れていない。
やっぱりオープンキッチンにするべきか、、、。
でも付与魔法をかけてある機械を見せるわけにもいかないしなぁ。
それでも追加するケーキの量や売り上げから店が繁盛しているのはわかるのだが実際に接客をしている二人から話を聞くのは重要だ。
「そうですね、皆さん新しい物には抵抗があるみたいでしたけどリュースティアさんに言われた通り試食を配ってからはすごい勢いで売れていましたよ。価格も安くなっているので皆さん買い求めやすいみたいです。」
「でもやっぱり私たちが伯爵家の令嬢だって知ってる人が多いから買いにくそうにしてるわね。それに相変わらず貴族たちからの需要はないみたいよ。」
ん?
すっかり忘れていたがこの二人も貴族、しかも伯爵家の娘たちだった。
いつも冒険者の格好で普通に接していたから忘れていたよ。
やっぱり普通の人からしたら貴族から物を買うという行為はやりにくいものなのか?
「そうだな、店にも余裕があるし従業員でも雇うか?そしたらリズたちの負担も減るだろうし、さすがにいつまでも伯爵家の令嬢に使用人まがいの事をさせるわけにもいかないか。」
そんなことを提案したのだがなぜか二人に食い気味に反対された。
なぜだ、、?
「まあいいじゃない。私たちがやりたくてやってるわけだし。それより貴族のほうはどうするの?」
「私的には今のままでも十分に繁盛していますし、無理にトラブルになりそうな貴族たちに売り込みをする必要はないと思いますが。」
確かにそれもそうなんだよね。
今のままでも売り上げが出てるわけだしこのまま平民向けの店としてやっていくことは充分可能なんだけど、
そうなんだけどさ、、
「はぁ、それだとあんたの望みが叶わない、でしょ?」
「リュースティアさんはみんなにけえきを食べてほしいんですもんね。」
リュースティアが言う前に2人の方からリュースティアが考えていたことを言ってくれた。
2人とも若干呆れ気味だがだてに一緒に仕事をしてきたわけではないようだ。
リュースティアのことをよくわかっている。
「ああ、だってこんなに美味い物を知らないなんてかわいそ過ぎるだろ。それに本来ケーキは独り占めするもんじゃなくてみんなで食べるもんだしな。」
そんな感じでしばらく店のことや世間話などをしていたのだがここまで空気扱いされていたギルドマスターが耐えらえなくなったのか口をはさんできた。
「おい、小僧。いつまで無視するつもりだ。」
「ああ、ドゥランさん。そう言えばいたんでしたっけ?」
声をかけられるまでリュ-スティアはギルドマスターの存在を忘れていた。
最初こそスルーしようと思っていたのだが話に集中するうちに本当に存在を忘れていた。
リズたちはずっと気にしていたみたいだがリュースティアが触れるまでは放置するというスタイルを貫いていたみたいだ。
「てめぇ、いつかぶっ殺す。」
物騒だな、ギルドマスター。
つい忘れていただけじゃないか。
わざとじゃない、不可抗力だ。
そんなことを思ったが口に出せば火に油を注ぐ形になりそうなのでギルドマスター要件を聞く。
「すいません。で、今日は何の用ですか?また魔物の素材採取とかだったら断りますからね?」
実は何日か前にギルドマスターに頼まれて
ギルドマスターはでかくてもせいぜい50センチくらいだと言っていたので本当に知らなかったか本当の事を言えば断られると思ったかのどちらかだろう。
リュースティア的には後者だと思っている。
それに
冷静に考えれば当然なのだがそれで納得できるわけじゃない。
と、まあこんな感じで色々とあったのでリュースティアはギルドマスターの言葉を一切信用しないことにした。
「おいおい、まだあの時の事を根に持ってんのか?あれは悪かったって何度も言ったじゃねえか。」
なおもそんなことを言ってくるのでリュースティアはそれを一瞥し黙らせる。
もちろんこの前手に入れた威圧スキルも使う。
「っつ⁉」
レベル71を黙らせるほどの威圧スキルを使えるレベル1。
うん、なかなか異様な光景だ。
「まあもういいです。で、今回はなんです?」
「あ、ああ。今回は依頼の類じゃないから安心してくれ。実はエルランドから俺の元に手紙が届いてな。あいつが俺に手紙をよこすなんてよほどの事だ。そう思って開封した手紙には案の定飛んでもないことが書いてあったってわけだ。なんて書いてあったかわかるか?」
まさかエルランドとギルドマスターが知り合いだったとは、、、。
この前の依頼よりも嫌な予感がするのはきっと気のせいじゃないだろう。
「、、、、、。」
とりあえず無言を貫いてみる。
変な事を口走って言質を取られても困る。
「無言か。この手紙にはお前を弟子にした経緯と修行の成果、そしてお前が勇者になることを拒んだと言う旨が書いてあった。そしてそれを含め、面倒ごとに巻き込まれそうになったら助けてやってほしいという事も書かれていた。だがここにはお前の魔法スキルや実力に関しては一切書かれていない。俺としてはそこら辺を一番聞きたいんだがな。」
おお、エルランドにしては気の利くことをするじゃないか。
できれば勇者云々も黙っていてほしかったが脳筋戦闘狂のエルランドにしては上出来の範囲だろう。
こんな見た目とは反対にギルドマスターは常識人っぽいから何となくだけど俺のスキルとかは知られないほうがいい気がする。
「別に特に突出したものなんてありませんよ。いたって普通の冒険者ですから。」
そんな嘘を平然と言っているリュースティアに咎めるような視線を送るのはリズとシズだ。
お願い、黙ってて!
そんなリュースティアの内心の祈りが届いたのか賢明にも二人が口をはさんでくることはなかった。
「けっ、何が普通の冒険者だ。鑑定石をやすやすと破壊するわボルボリンの森から無傷で生還したと思えば、炎竜王との修行だ。挙句の果てにぼろ家をたった数日で修繕、見たこともない道具に食べ物。そして極めつけは風魔法しか使えないにも関わらず付与魔法で火や氷も作っていやがる。ここまでの事をしておいて”普通”だと?」
ギルドマスターの情報収集能力の高さにとっさの言い訳も出てこない。
正直見くびっていたよ、ギルドマスター。
だが俺の平穏生活の為にはここは何としても普通の冒険者として通さねば!
「フン、あくまで普通で通す気か。だが俺もお前がトラブルを持ち込まない限りとやかく言うつもりはない。」
リュースティアの内心を見透かしたわけではないだろうがそんなことを言ってくる。
ん?
ずいぶんとものわかりがいいな、てっきり黙認する代わりに対価を要求してくるのかと思っていた。
「最後に忠告しといてやる。俺は小僧が敵にならない限りお前の養護をするつもりだ。お前は悪人ではないからな。だが小僧の実力に疑問を持ったり、悪用しようとする輩はどこにでもいるだろう。くれぐれも用心することだな。お前はよくてもそっちの嬢ちゃんたちはそうはいかんだろう?」
えっ、なにこの人、ほんとにギルドマスターか?
親切すぎて逆に怖い。
「どうしてわざわざそんなことを忠告してくれるんです?」
「あ?お前はいわば爆弾なんだよ、爆弾。それも国を簡単に破壊できるほどの威力を持った、な。敵に回ればやっかいだが味方の内は使わない手はないだろ。だからいざって時の為に今のうちに恩を売っておいて損はない。どんなに危険だろうが武器ってのは使う為にあんだよ。それが人だろうと同じだ。」
なるほど、人の事を武器みたいに言ってくるのは気に入らないが言いたいことはわかる。
それに変に表面を取りつくって腫れ物に触るように扱われるよりは全然いい。
だけど彼の言葉を聞いて少しからかってやりたくなった。
「ドゥランさんには俺を使える、そう言いたいんですか?」
「はっ、それは小僧がわかってんだろ?お前は悪人じゃない、目の前で死にそうな奴を放っておけはしないさ。俺がわざわざ使わなくても、な?」
確かにそう言われると言い返せない。
こういうところははさすがレベル71ってことなんだろうか?
「じゃあな、くれぐれも面倒ごとを持ち込むなよ。疫病神の小僧」
リュースティアがそんなことを考えているとギルドマスターはそんな言葉を残し店から出ていった。
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>称号”疫病神”を手に入れた。
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うん。
この称号は死蔵しよう。
トラブルの匂いがプンプンする。
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