第4話 会議は踊る
「魔皇ヤルダバオトの復活です」
「…馬鹿馬鹿しい」
「それが、緊急の宮廷会議を開いた理由ですかな?」
「世迷い事だ。そのようなこと、出来る訳がない」
「あなたは、復活魔法が使えますか?」
「…何? 私が? 使えないが…、それが何だ?」
「他者の復活を出来ない者が、何故に出来る訳がないと断言できるのか、聞きたかったもので」
「……物言いには気を付け給えよ」
「事実として、確認したかったまでです」
「愚弄するか!」
「そこまでに。落ち着いてくださいませんか? …バラハ殿、我々の耳にもヤルダバオト復活の話は届いておりますが、その方法をここに集まってくださった皆様にも、説明してもらえませんか?」
「畏まりました。魔皇ヤルダバオトの復活、この可能性を教えてくださったのは、アインズ・ウール・ゴウン魔導国からの使者として来ていただいたシズ様です。彼女は、魔皇に元は支配されていたメイド悪魔の一人。それ故に、信憑性も高いです」
「ふん、悪魔の言い分を聞くとは」
「戯言に過ぎん」
「静粛に、お願いします。まだ続きはあります、そうですねバラハ殿?」
「はい。悪魔にも様々な復活の方法はあるようですが、あの魔皇ほどになると、その為の儀式もとてつもなく大掛かりな物となると予想されますが、必要な物は大きく二つ。黄金を中心とした貴金属や宝石に、大量の生贄です」
「黄金と、生贄…? まさか…」
「ええ、リ・エスティーゼ王国での騒動、そしてこのローブル聖王国での魔皇亜人戦争で奪われた多くの財宝に、夥しい死者……この簒奪の犠牲者を使って復活の儀式を行うとのこと。…であれば、すでに向こうの下準備は整っている、と見るべきです」
「それこそ出鱈目だ!」
「根拠がない、妄言の類ではないか」
「準備が出来ているなら、すでに蘇っているはずではないか!」
「下準備、と言ったのですが、お聞きになられなかったご様子。そして、儀式も大掛かりであれば、未だに完遂していないだけであり、現在進行中であった場合を想定し、即座の行動をお願いしたいのです」
「そんな妄想で国家を動かせるか!」
「いえ、妄想とは限りません。そして貴族の方々はお忘れですか? 魔皇亜人戦争より以前から、この聖王国の村々の民が忽然と、跡形もなく姿を消した事件の数々を。…彼らが消えたのは、恐らく悪魔の仕業であったと神殿では考えています」
「村の暮しが嫌になって、皆で逃げ出しただけでは?」
「身の回りの品々を放って、姿だけを消したと言う方が不自然です」
「たかが村人の考えなど知らんよ! どんな愚劣な行動を取るかなど、解るものか」
「村人の考えが分からぬのに、暮しが嫌になったかどうかなど、判断できるものではないでしょう」
「愚者は愚者に過ぎんと、そう言っているのだ」
「民を蔑ろにされるのはお止めください。それに悪魔の件に関しましては、聖騎士団からも報告していましたが、先日も南部の地にて三体の悪魔を発見、討伐しました。未だに聖王国で奴等の悪事が動いているのは事実です」
「それは聖騎士団の失態でしょうが」
「…南部が、まるで悪魔と手を組んでいると言っているようにも聴こえますな」
「そうではありません。悪魔の活動や発見の報せは、聖王国の各地であり、直近で相対した事件が南部での一件であったという事です」
「我々へのあてつけであろうが」
「繰り返しますが、この国でまだ悪魔の暗躍があるのは事実です。このような事態が続く先には、もしそれが魔皇復活ではなくとも、大事件に繋がる事は間違いがないでしょう。我々聖騎士団は、聖王国とその民を守る為にも、悪魔対策を進めて行く事に賛同します」
「元団長も亡くなり、かつての四割以下の人数で、ですかな?」
「人々の命を守るに、人数がどうのこうのと申しません。歴代の団長も同様です」
「アンデッド風情に泣きついただけはあり、ご立派な事で」
「…共に聖王国に暮す身でありながら、何故に人同士でいがみ合うのですか? 聖騎士団があの戦争の混乱の中で、国を、民を救わんと努力したのは、紛れのない事実でしょう。悪辣な悪魔を滅する事にすら手を取り合えないのでは、ローブル聖王国の名が、それこそ地に墜ちましょう。神殿の者も、悪魔対策に、魔皇復活の阻止に賛同いたします」
「国や民を守りたいと言うのであれば、それこそ空想で動くなと言っているのですよ? 悪魔だ魔皇だと言いますが、亜人残党の対策にだって我々南部貴族が多額の資金を負担しているのです。これ以上の重税を南部の民に課す方が、余程の問題でしょうに」
「お金で命は買えませんよ」
「仮面、態度だけでなく口も慎め」
「それで貴族の臆病が払拭出来るのであれば、喜んで」
「貴様…!」
「よい、聞け」
「はっ」
「魔皇復活が事実にせよ、虚偽にせよ、その可能性があるのであれば、全力を持って当る。仮に復活すれば、北部での虐殺が再びこの国で起こるだろう。そうなれば南部も同様の阿鼻叫喚に包まれる。そして、各地での亜人残党に悪魔の活動、奪われた聖王国の財宝が未だに発見されていないのも現実に起こっているのだ。静観などあり得ぬ」
「お言葉ですが、陛下。民への税を今より更に上げる事になりますぞ」
「それには及ばぬ、寧ろ税を下げよ。新通貨である
南部貴族たちの妨害や横やりにより宮廷会議は難航したが、魔皇復活を前提にした対策組織と予算が組まれ、活動する事が決定した。
ネイア・バラハは悪魔捜索・討伐隊の独立隊として、聖強教団の中から選抜隊を結成。
新しい任務を開始した。
目的は、魔皇ヤルダバオトの復活阻止。
なんとしてもやり遂げねばならない、それは決死隊でもあった。
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