幼馴染が俺を好きになる呪いにかかったけど、嫌だから解呪を試みます ~その呪いの原因、実は俺なんだけど~

ぬま

1 呪われた幼馴染! の巻

第1話

 俺の名前は陰急蓮男。


 今、俺は通っている高校の屋上で幼馴染と二人きりでる。


「あっくん、急に呼び出してごめんね」


 すまん、陰急蓮男というのは嘘だ、冗談だ。

 陰急蓮男に「あっくん」要素なんて皆無だもんな。


 本当の名前は一色いっしき飛鳥あすかという。

 ちょっと変わった健全な高校二年生だ。


 いきなり冗談を言ったのは他でもない。

 その所に由来する。


 いや、この日本だとちょっと所の騒ぎじゃないかもしれない。


 母親は普通の人間。

 父親は普通じゃない悪魔という別種族。


 そして、その子である俺は人間と悪魔のハーフなのである。


 っても、ラノベとか漫画じゃよくある設定だよな。

 別に俺もなんとも思ってない。


 転生物のラノベで最初に主人公が「これはまさか異世界転生ってやつ!?」ってなるのと同じだ。

 俺の場合は「人間と悪魔のハーフ!?」ってくらいなもんだ。


「大事な話があるの……」


 そう、大事な所はそこではない。

 この状況を説明するにはこれだけでは不十分。


 俺の父は悪魔は悪魔でも、淫魔に分類される。

 これが必要なピースだ。


 淫魔――サキュバスというと分かりやすいだろうか。

 男を誘惑してえっちなことをするアレだ。


 男の淫魔はインキュバスという。

 改めると俺は人間とインキュバスのハーフなのである。


 つまり、俺にも女の子を誘惑する力が備わっているということでもあって……


「私、あっくんのことが、好きなの!」


 こういうことが、たまに起きる。


 俺は目の前にいる幼馴染――高石たかいし里奈りなの告白を正面から受け止める。


 里奈の頬は少し赤く染まり、目は潤んでいる。

 元々の整った顔立ちもあって色っぽい。

 幼馴染なんだから見慣れているはずなのだが、その俺でも少しドキドキしてしまうほどだ。

 他の男なら大抵の奴はこの顔だけでイチコロだろう。


 だが、俺の言うことは決まっている。


「……なぁ里奈、これで何度目だ?」


「今回が記念すべき五十回目の告白です! おめでとうございますっ!」


「全然嬉しくねーよ!!」


 いつからだろうか。

 里奈はこうして俺に告白してくるようになった。


 きっかけは俺の魔力が暴走してしまったこと。

 ハーフである俺は純粋な悪魔と違って魔力の制御が下手らしい。

 自分の魔力を制御できず、里奈を呪いに掛けてしまった。


 その呪いの正体は俺のことを「好き」にすること。

 簡単に言うと魅了である。

 残念ながら高校生になった今もその制御は下手くそなままで、こうして何度も里奈を魅了してしまっている。


「何度も言うようだが、これは俺のインキュバスとしての魔力が原因なの。お前の気持ちは偽物なの!」


 五十回も告白されれば、その都度色々とある。

 里奈にはもう俺が人間とインキュバスのハーフであること、そして俺の意に反して里奈を魅了してしまっていることはカミングアウト済みなのである。


「何度も言ってるけど、そんなの関係ないの。魅了されてなくても私はあっくんが好きなの!」


 これは呪いに掛かっている人間の特徴だ。

 自分の意志が捻じ曲げられていることを自覚できない。


 里奈にはそこも含めて何度も説明しているんだが、こうして五十回目を迎えてしまった時点でそれらが無意味だったことがよく分かる。


 俺が自分の魔力をちゃんと制御できればそれでいいんだが、もうずっと練習しているのに上手くいかないままだ。


「はぁ、しゃーない。とりあえず学食行くか」


「返事! 返事は!?」


「その前にお前の呪いを解くのが先。もっと言うと昼飯食べる方が先」


 今は昼休みであり、俺も里奈も昼飯は食べてない。

 午後の授業が始まる前に腹を満たさないと授業どころじゃなくなってしまう。


「私の告白お昼ご飯以下!?」


「いいから行くぞー」


 里奈に背を向けて屋上から校舎へと入る。

 昼飯事情以外にもあそこにはあまりいたくない。


 学校の食堂は一階だ。

 気持ち早足で階段を降りる。


「私も行くよー! ちょっと待ってよー!」


 里奈は告白など無かったかのように、階段ひとつ飛ばしで俺の後ろに付いてくる。


「ねぇねぇ、手繋いで行こ?」


「ここ学校なんですけど。恥じらい持てよ」


「いいんじゃんいいじゃん。私、魅了されてるらしいし?」


「やっぱりそうなんじゃねーか」


「そういうことにしておいてあげてるんだよ」


 里奈は悪戯めいた顔で俺を見る。


 減らず口で返されるのは面白くないが、それを言う里奈は……まぁ、可愛い。

 我が幼馴染ながらとても整った顔をしてるしスタイルもいい。


「そういうことしてると他の男が泣くぞ」


「そう言われたって、あっくん以外の男の子と付き合う気なんてないし」


「付き合う気がなくても愛想くらい振りまいとけよ。その方が得だろ」


「別に損得とかじゃないもん。それに友達付き合いはちゃんとしてますー」


 実際、里奈の愛想はいい。

 男連中からめっぽうモテる。

 俺に頻繁に魅了されるためこうして公然とアプローチしてくることが多いのだが、それでも里奈に告白する輩は後を絶たない。


 彼らが振られる原因の九割以上は俺が原因だろう。

 そのことに申し訳ないと思いつつ、まぁ他の男のことなんて知ったこっちゃないからそのままだ。


「あっくんも友達付き合いはした方がいいと思うよ? 周りからあっくんがなんて言われてるか知ってる?」


「知らん。話とかしないし」


「厨二ツートップの一角」


「なんじゃそりゃ」


 誰が厨二だ。

 あくまで悪魔のハーフというだけで邪気眼とか持ってないから。


 どうやらあまり人と話をしない所為で色々言われてるらしい。

 こんな特異体質なのだから仕方ないんだよ。

 下手に人を呪いに掛けてしまったら大変なことになる。

 別に人付き合いが苦手なわけじゃないし、厨二なわけじゃない。


「学食だとお金かかるし、明日から私お弁当作ってこようか? 今一人なんだし」


「金は置いてもらってるから大丈夫だよ」


 今、親父は海外出張中だ。

 残念ながら魔界に出張しているわけではない。

 ちゃんと地球にいる。


 悪魔が海外出張ってちょっとよく分からないと思うが、うちの親父は普通の人間と同じように働いている。


 そして、母さんはそんな親父に心底惚れているらしい。

 親父は魔力コントロールは完璧なので、母さんが魅了されているわけではない。


 そんな親父大好きな母さんは、一人息子の俺を置いて親父についていった。

 つまり、今俺は一人暮らしなのである。


「お義父さんとお義母さんいつ帰ってくるんだっけ?」


「ちょっと待て。今嫁に来てる前提で話してなかったか?」


「私なら綺麗なお嫁さんになるって? もーやだーあっくんたらー!」


「そんなこと言ってないけど!?」


「大丈夫! お味噌汁は毎日作ってあげるね!」


「何も大丈夫じゃない!」


 里奈は頬に手を添えて身を捩らせながらブツブツ言い出した。


「あっくんは朝はご飯派だよね。味噌汁はお豆腐とワカメの具が好きで赤味噌派。目玉焼きは半熟でかけるのは塩。納豆は大粒が好き。三日に一回くらいはトーストを食べたい。トーストは少し焦げ目がつくくらいの焼き加減で、マーガリンはたっぷり塗る。カリカリのベーコンを目玉焼きの横に添えると喜んでくれる。トーストの時でも味噌汁は必要! うん、完璧!」


「重いよ! 合ってるけど!」


 流石は幼馴染。

 俺の好みを熟知していた。


「他にも色々知ってるからねっ。好きな食べ物はもちろん、服の好みからチャンネル登録してるユーチューバー、お気に入りのセクシー女優まで!」


「やめろぉ! ってかなんで知ってんの!?」


「あっくんはまだ十八歳になってないんだからほどほどにね? 処理したくなったら私を呼んでくれていいからね?」


「んなっ……」


 上目遣いで見てくる里奈に嫌でもドキリとさせられる。


「そ、それこそお前だって未成年なんだからダメだろ!」


「私はパパとママから、あっくんならって許可をもらってるもん」


「外堀から埋めるのやめてくれません!?」


 最近どうにも里奈の家からお裾分けがくるわけだ。

 うちの親が海外に行ったからだと思っていたが、里奈が何か言ってた可能性も浮上してきたな。


「でもいいよ。はまだ先でも」


「おうおう、先だ先」


「私のこと、大事にしてくれてるんだよね?」


「……そういうんじゃねーし」


「んふふ、そういうことにしといてあげる」


「言ってろ」


 ともかくだ。

 飯食って午後の授業が終わったら里奈の呪いを解かねばならない。

 解かねばならないんだが……


「話戻るけど、あっくんパパとあっくんママはいつ帰ってくるんだっけ?」


「……最速で夏休み」


 今は六月になったばかりで、夏休みは約二ヶ月先だ。


「じゃあどうする? いつも解呪ってやつはあっくんパパがやってくれてたよね」


 そう、そうなのだ。

 魔力のコントロールが苦手な俺は、自分が掛けた呪いを自分で解くことができない。

 その度に親父に頼んで解呪してもらったのだが、その親父は今海外にいる。


 つまり、今は自力でなんとかしないといけないわけで。


「やれるだけやる。色々試すから放課後付き合ってくれ」


「やった! デートだねっ!」


「違ぇよ! 俺は真剣なんだからな!」


「私も真剣にあっくんとお付き合いする所存ですっ!」


「付き合う意味が違うんですけど!?」


 こうして、俺の自分が呪いを自分で解くための奮闘記が始まった。

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