第13話 夕翔の式神
花奈はリビング全体に防御結界を張った。
「じゃあ、これからゆうちゃんの能力を確認させてもらうね」
「うん」
夕翔は緊張しながら返事をした。
「じゃあ、その場で足踏みしてみて。走るみたいに」
「うん……」
夕翔はドタドタと足音を立てながらその場で走ってみる。
——お……? なにかが変……。
夕翔の手と足の動きがあまりにもぎこちないので、花奈は首を傾げる。
「ゆうちゃん、走りながらこの玉受け取ってみて——」
花奈は紙を丸めた球を夕翔に軽く放り投げた。
「わっ!」
夕翔は慌てて避ける。
「避けるんじゃなくて、受け取ってね。走りながらだよ」
「うーん……やってみる」
夕翔は眉間にしわを寄せた。
「ゆっくり投げるからねー」
花奈は夕翔が走ったことを確認し、もう一度下から放り投げた。
「わっ!」
夕翔は慌てて目を瞑り、手で顔を覆った。
「ゆうちゃん……運動苦手?」
夕翔は立ち止まり、俯いた。
顔を真っ赤にしながら……。
「そのとおりです……。言い訳をすると、親から運動を止められてたんだよ。心臓が治っても、万が一のことがあるからって……」
花奈は頷いた。
「そっかー。じゃあ、ゆうちゃんは防御とか支援系に特化した妖術を覚えてもらおうかな。頭を使うのは得意でしょ?」
「運動よりはね」
『——姫様』
花奈の首に巻き付いていたフウが話しかけてきた。
『なに?』
『式神を使役させてはいかがでしょう? 姫様と離れている時、補佐として役立つはずです』
『ゆうちゃんに式神召喚が可能だと思う?』
『姫様と繋がっておりますので、可能性は高いかと』
『そっか……失念してたよ。まずは式神召喚からやってみる。ありがとう、フウ』
『お役に立てて光栄でございます』
「——花奈?」
花奈が急に無言になってしまったので、夕翔は不安になっていた。
「あ、ごめん。式神と話してたの。声を出さないから不自然だよね」
「なんだ……急に黙ったから焦ったよ」
「ごめん、式神見えないもんね。えーっと……私の式神の提案で、ゆうちゃんに式神召喚を試してもらおうと思うの」
「高位の術者しか無理って言ってなかった?」
「うん。でも、今はその私とゆうちゃんが繋がってるから、可能性は高いの。ゆうちゃんは保有妖力も桁違いだし」
「へー。言い方は悪いかもしれないけど、話すペットができるってことだよな?」
「そうそう」
「楽しみ。俺、ペットと会話するの憧れてたんだよな〜」
「じゃあ、式神の姿をイメージして。好きな動物とかなんでもいいよ」
「ちょっと待って……」
——やっぱりダックスフンドがいいよなー。でも、花奈の式神は全部そうだったし……。そうだ、いいこと思いついた。
「イメージできたよ」
「次は、私がゆうちゃんの右手を握ったま床に魔法陣を描くね」
「うん」
「後ろから抱きつくね。人差し指出して」
「うん」
夕翔は花奈の柔らかい体が背中に当たり、顔を少し赤くする。
花奈もドキドキしながら夕翔の右手を握った。
「目を瞑って。声を出さずに式神のイメージだけしててね。浮いて少し回るけど、じっとしてて」
「うん」
夕翔は目を瞑った。
「今から魔法陣を描くよ——」
花奈の妖術で2人は床から少し浮いた。
自分たちを中心にして少しずつ回り始め、それに合わせて指をうごがしながら魔法陣を描く。
その間、夕翔はずっと式神をイメージし続ける。
魔法陣を描き終えると、花奈は夕翔の両手掌を上に向け、下から持ち上げるように支えた。
そして、夕翔の妖力だけを魔法陣に注入する。
『夕翔の式神よ、召喚されたし』
花奈は心の中でそう呟いた。
すると——。
夕翔の掌に光を帯びた白い卵が出現した。
「ゆうちゃん、目を開けて」
「これ、卵?」
「うん、式神の卵だよ。召喚成功。普通は召喚者本人にしか見えないんだけど、なぜか私と私の式神には見えてるんだよね。不思議だなー」
夕翔は卵から温もりを感じ、胸を弾ませる。
「どれくらいで殻から出てくる?」
「うーん……1週間くらいかな。その光が消えたら割れて出てくるよ」
「そうなんだ。仕事中も持ってた方がいい?」
「うん。肌身離さず持っててね。イチに持っててもらえば落とさなくて済むかな」
『イチ、お願い』
『はい、姫様』
「あっ、浮いた」
夕翔の掌から浮かんだ卵は、夕翔のネックレスの中に吸い込まれた。
「ネックレスの中に入った?」
「うん。割れそうになったらイチが私に知らせてくれるから。楽しみに待ってて」
「うん」
***
次の週末。
夕翔と花奈は朝食を食べているところだった。
「——ゆうちゃん、式神が殻から出てくるみたい!」
「本当!?」
「うん。今、イチが出してくれるって」
「イチ、ありがとなー」
意思疎通は取れないが、夕翔はネックレスになっているイチに礼を言った。
『お役に立てて光栄でございます。姫様、机の上に置きますね』
『お願い』
イチは式神の卵をテーブルの上に出した。
「あ、ヒビが入ってる!」
「うん!」
2人は童心に返ったように目を輝かせる。
亀裂がどんどん広がり、最後には——。
パリンッ!
殻が砕け散った。
『パパー!』
人型の赤ちゃんサイズの式神が飛び出してきた。
幼少期の花奈にそっくりで、犬の耳と尻尾が生えている。
まるで獣人のようだ。
神社の神主が着るような装束を着用しており、勢いよく夕翔の胸に飛び込んできた。
夕翔は慌ててだっこする。
「意外に大きいんだな」
夕翔は式神の頭を優しく撫でる。
「ゆうちゃん……ペットって言ってなかった? てっきり犬だと思ってたんだけど……」
——それに、パパって……どういうこと?
花奈は動揺していた。
『犬にもなれるよー』
夕翔の式神は犬型の花奈とそっくりに変身した。
「花奈そのまんまだな〜」
夕翔は目尻を下げながら撫で回す。
式神は腕の中で尻尾をブンブン振っていた。
——ゆうちゃんって、私のこと大好きなんだな〜。ふふふっ。
夕翔の式神は花奈をイメージしていることは明らかだったので、花奈の気分は良好だ。
「名前は決めたの?」
「『モモ』にしようかな」
「桃色の袴履いてるもんねー。私、この色好きなんだー」
——昔飼ってたペットの名前だ、とは言いづらいな……。
「……そうそう。花奈の雰囲気が桃色だと思ってたんだー。はははっ」
夕翔はごまかすことにした。
「嬉しいな〜」
花奈は満面の笑みを浮かべる。
「モモ、私にも抱かせてほしいな〜」
「いいよ」
夕翔はモモを花奈に抱かせる。
『ママ〜』
モモは人型に戻り、嬉しそうに花奈に抱きついた。
「えっ!?」
「うえ!?」
2人はモモの発言に驚きの声を上げた。
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