第11話 2人の想い


 夕翔は時々後ろを確認しながら走り、家までたどり着いた。


「はあ、はあ、はあ……」


 ドアの鍵を閉め、その場にへたり込む。


「ゆうちゃん! 大丈夫!?」


 人型の花奈は慌てて夕翔に駆け寄る。

 家に到着してすぐ、イチは花奈に念話して一部始終を知らせていた。

 襲われた直後に知らせなかったのは、襲った相手を警戒してのことだった。


「花奈……」


 夕翔は花奈の顔を見てホッとしたが、まだ震えは止まらない。


「さっき、イチから事情は聞いた。無事でよかった……」


 花奈は涙目で夕翔に抱きついた。

 夕翔は花奈の温もりで徐々に恐怖を和らげる。


「ゆうちゃん立てる?」

「ごめん……情けないけど、力が入らない……」

「腕回すよ?」

「うん、ごめんな」

「いいの。気にしないで」


 花奈は夕翔を妖術で眠らせ、2階の寝室へ運んだ。





 夕翔の寝室。


 花奈はベッドで眠る夕翔を傍らで見つめていた。


『——イチ、詳細を報告してくれる?』


 花奈は夕翔のペンダントになっているイチに念話した。


『はい、姫様。夕翔様を襲ったのは国王の式神でしょう。この世界の住人に乗り移っていましたから。夕翔様が襲われた原因はイツです』

『イツの場所が知られてしまった原因はわかる?』

『その原因は、夕翔様のために施したイツの結界かと。国王の式神は我々よりも経験が圧倒的に上であるため、我々が見過ごした欠点があると存じます』

『ありうるわね。でも、今のところイツを完全に隠し通すことはできないわ。イツの結界を解除すれば、ゆうちゃんはまた私を女として見てくれなくなる……』

『ですが、それでは夕翔様の身に危険が……』

『姫様、やはり異世界の者との恋愛は難しいかと……。これを機に諦めてはいかがでしょう? 姫様が帰れば、国王様も何もしてこないかと』


 2人の話を聞いていたフウがそう助言した。


『フウ……18年越しにゆうちゃんに会えたんだよ?』


 花奈は悔し涙をこぼす。


「花奈」


 眠っているはずの夕翔が弱々しい声で話しかけてきた。


「ゆうちゃん……」

「泣いてるのか? 俺が襲われたのが自分のせいだって責めてるんじゃないだろうな?」

「私のせいだよ。ゆうちゃんは私といると、これからも危険な目にあう可能性がでてきたの。だから、私は自分の世界に帰らないと——」


 夕翔は起き上がり花奈を抱きしめた。


「そんなこと言うなよ。俺をいっぱい誘惑して好きにさせて……それでさよならはないだろ。俺はもう花奈が好きで好きで仕方ないのに。昔みたいに本気になったんだ」

「ゆうちゃん、記憶を思い出してたの?」

「うん、恥ずかしくて言えなかった。だってあんな子供の俺が本気でプロポースしてたから……」

「でも——」

「——花奈、もう俺の前から消えないで。俺とずっとに一緒にいて」


 2人は体を離し、見つめ合う。


「私、どうしていいかわからない。ゆうちゃんが大切だから」

「俺、花奈が大好きだよ。これからも一緒にいたいんだ」


 そう言うと、夕翔は花奈にキスをした。

 抑え込んでいた気持ちを込めながら。

 花奈は涙を流しながら受け入れ、強く抱きしめ合った。


 その後、式神たちは気を使って部屋から出て行った。


「——ゆうちゃん……あのね、ゆうちゃんの安全をより確実にする方法が2つあるの」

「なに?」

「1つは、ゆうちゃんに妖術を学んでもらうこと。そしてもう1つは……私と体の契約を結ぶこと」

「それって……」

「つまり、体を交わらせて1つになることだよ。それを行うと、私の体はゆうちゃんだけのものだと証明されて、体内の式神は完全に隠せるの」


 ——そう、それは父であっても破棄できない契約。私が死ぬまでは……。


 花奈は心の中で呟いた。


「花奈はずっとこの世界に住むのか?」

「え?」

「今日俺を襲ってきたやつは、花奈を連れ帰ろうとしてるんじゃないか、と思ってるんだ」

「それは……違うよ」

「嘘つけ。そういうとこ下手だよな。素直すぎ」


 花奈は視線を下げる。


「花奈は向こうの世界では必要な人物じゃないのか? 頼むから、正直に言ってくれ。俺には隠し事はするなよ。俺はも覚悟してるんだぞ?」


 花奈はその言葉に胸を熱くする。


「私はね、犬神国っていうところから来たの——」


 花奈は正直に自分がその国の姫であり、次期国王候補に挙がっていることを伝えた。

 国王である父親が勝手に決めた婚約者がいること、父親と義理母との間にある確執など……全てを打ち明けた。


「とんでもない身分だな……。よりによって俺を選ぶなんて、花奈はどうかしてるよ。義理の妹さんも困るんじゃない?」

「さっき言ったけど、ゆうちゃんは嗣斗より保有妖力がかなり高いの。妖術を学べば圧倒的な力の差を見せつけられると思う。最強術者の私が教えればね。もちろん、それだけじゃないよ。私はゆうちゃんしか好きになれなかったの」

「そんなこと言われたら、突き放せないよ」


 夕翔は涙目の花奈を抱きしめる。


「ゆうちゃん、もしかしたら私の世界に行くことも考えてる?」

「ちょっとはな……。だって花奈は貴重な人物みたいだし。それに、すごくいい国王になるだろうな、って思うから。そんな花奈をこの世界に引き止めておくのはダメかなって」

「あまりにも私の世界の者がこの世界に関わってくるなら、そうしてもらうかもしれない。私たちが戻ればすべて収まるから……」

「俺がそう思えたのは花奈のおかげなんだよ」

「え?」

「俺、本当は死んでたのに……花奈のおかげでこうして元気にやってこれた。今の人生は花奈のおかげで維持されてるんだよ。だから、俺は花奈に未来を託してもいいなって。男のくせに頼りないけど……」

「そんなことないよ。私がゆうちゃんを守ってあげる」

「花奈、俺の全部を受け入れてくれる?」

「最初からそのつもりだよ」

「じゃあ、俺と体の契約を結んでくれ」

「うん」


 花奈は嬉し涙を流した。

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