39話 日英交渉 その5


「王女殿下、チャールズ閣下。お約束の日本の品物は明日の早朝、コチラに到着致します」


「まあ、そんなに早く着くのですか?」


「随分、早いな」


「一応、空輸で来ますから」


 三木は先程席を外していた時、レミエルとガヴリエルの脳内経由で注文書をFAXの要領で送り、それを日本にいる沙理江に伝え、輸出見本品の手配を依頼するとともに、先日乗ってきたC-2を一足先に帰国させていた。



 英国に滞在2日目となり、英国側との交渉は大方進んでいたものの、日本の軍事力が先端技術に裏付けされ、アメリア、ル連の2カ国を本当に打倒出来るものであるかを、英国側が半信半疑であったことから、オセアニア方面の連邦移譲による利権の譲渡が半ば口約束状態で、その約束事を書面で表したモノを交わすことが出来ずにいた。


 そこで三木が苦心していると思った中破総理は、三木からの要請に応えて、日本の工業製品等を満載したC-2と対潜哨戒機、輸送機等を早急に手配して、明日の早朝に英国に着くように指示していた。



 その日の会議は昼過ぎに大方終了して、2日目も晩餐会になる予定であったが、流石に三木はフランス料理のマッタリと脂っこい料理が続くのは勘弁して欲しいと思い、日本側の職人の手による日本料理を出すことを王女に提案していた。


 早速、玲美経由で蘭子に英国に来るように依頼し、腕利きの職人を一緒に連れて来るように伝え、1時間後に三木のところに蘭子と職人2人が現れた。


「三木さん、お久しぶりね。

 依頼していた腕利きの魚料理人を2人連れて来たよ。

 あ、それと日本の食材は私の亜空間収納に入っているから、何時でも何処でも取り出すことが可能だから」


「済みません、蘭子さん。

 それと後藤さん、田中さん、お久しぶりです。

 済みません2人共。私が無理を言って、コチラの料理の手伝いを依頼したのです」


「三木さんが謝ることはないよ。実は総理が国防ビル内のウチの料亭に来て、俺と向かいの店の寿司職人である田中に、ココにいる三つ編み女子の蘭子さんと英国に出張に行ってくれと依頼されたんだ」


「その蘭子さんは、僕に対して日本の食材が必要になると思うのですが、どうしますか?と言われたので、僕は寿司で後藤の得意料理は鰻と伝えたところ、いきなり後藤を連れて僕の目の前から2人の姿が消えたよ。

 そして15分後に再び俺のところに現れて、何処に行っていたのかと尋ねたら、鹿児島県志布志の鰻養殖場に行き、活きの良い鰻を大量に仕入れて来たんだというんです。


 今度は僕の手を握り、何処に行くのと尋ねられたら、魚の種類が豊富な豊洲へ行きたいと言った瞬間、豊洲市場出入口に着いてましたね。

 だが、活きが悪いからダメと言ったら、寿司ネタ産地を順に言わされて、順に産地に行くからと言われ、北海道、三陸、北陸、四国等々に飛びまして、極め付けは青森県大間に行き、大間漁港から直接本マグロまで仕入れましたよ。

 しかし、蘭子さんの瞬間移動と亜空間収納は実に素晴らしいですね」


「2人共、蘭子さんの能力を決して他人に知らせるなよ。神々や天使達の能力の一部だからな」


「「了解!」」


「それと、晩餐会の用意まで若干時間があるから、2人はもう一度蘭子さんと英国内を回って現地の食材を手に入れて欲しい。

 メインディッシュの食材を指定するが、英国の鱈をメインにしたフルコースを願いたい」


「分かりました。直ちに現地に向かいます」



 蘭子は2人の指示で、スコットランドの港町に飛んで、鱈を含めた魚介類を大量に仕入れ、問題は英国の鰻は天然のヨーロッパウナギで、コチラとの食べ比べが出来ないモノかと後藤は考えていた。

 港町で魚を仕入れた際に、ロンドンの市場で大量に地元産の鰻を置いてあるとの情報を入手し、ロンドンに戻って英国産の鰻を仕入れることが出来、蘭子と2人は宮殿の厨房に戻って来た。


「三木さん、魚介類等の食材はこの厨房内に出しますか?」


「ハイ、頼みます」


「それと、日本の鰻とヨーロッパウナギは生きた状態ですが、ココの厨房に出しますか?」


「そうだな、出来れば湧き水か井戸水が常時流れている生け簀があれば良いのだけど」


「うーん、玲美に造ってもらおうかしら。ちょっと待っていて下さい」


 1分後、玲美が蘭子の前に来た。


「お呼びでしたか?蘭姉」


「実は、このボロボロの池みたいモノを生け簀に造り換えて欲しいの」


「え?宮殿のモノを改造するのですか?怒られそうなので、前もってガブ姉様に連絡します」


「えーと、フムフム。ハイ、了解でーす」


「どうなの?了解は取れたの?」


「ハイ、その池は長年放置されたモノで、美味しい料理が食べることが出来るのならば、どのようなモノに造り換えても問題無しとのことでした」


 蘭子は亜空間収納から井戸掘りボーリングマシンを出して、玲美に池の横に掘り抜き井戸を掘らせ、それと同時に生け簀を造り換えることを職人ロイドに指示し、後藤と田中に今晩の晩餐会料理の準備をすることを伝えていた。


「準備はどうだ?」


「鰻は今晩の晩餐会には出さないのですよね?」


「そうだ、それは明日のランチメニューだ。

 出来れば、日英の鰻の食べ比べが出来れば最高だな」


「分かりました。今晩のメインの鱈はスコットランド産で、どれも活きが良くて、特に白子が最高です」


「それは楽しみだ。それじゃ頼むぞ」



 三木は厨房の裏口から裏庭を眺めていると、何やら馬鹿デカい機械が垂直に立って穴を掘り始めている様子であり、その機械を玲美が操作していた。


 三木の姿に気付いた蘭子は、何気に近づいて声を掛けた。


「三木さ~ん、今日の私の運搬料は高いわよ」


 蘭子は三木にドンドン身体を密着させ、三木に色仕掛けをしてきた。


「そ、それはマズイのでは。そこに玲美もいることだし」


「あの娘はね、一旦機械をいじり出すと終わるまで他のことが見えないの。

 だから、空いている時間を私と少し楽しみましょう」


「え?それは確かにそうかも知れないけど、、、、」


「三木さん、諦めて下さい。

 私ら2人も出発前にコッテリ蘭子さんに絞られました。

 さらにコッチ側で余計な虫が付かないように、職人ロイドとメイド型セクスロイドの合計4人(体)の助手を付けられました。

 彼女らは、仕事が早くて優秀で、とてもアンドロイドとは思えず、コチラとしては非常に大助かりですが」


「そうか、ロイド達はシタ(舌、または下)のお手伝いもしているのか」


「上手い冗談を言うのですね、三木さん。

 あの口下手の玲美が貴男に心底惚れる訳ね。

 大丈夫、私は貴男の身体と一体になりたいけど、心は別の人に惚れているので安心してね。それじゃ、行きましょうか三木さん!」


「へっ?」



 蘭子は三木の手を握った瞬間に姿を消し、宮殿の人気の無い客間で2時間程ラブリーな時間を三木と過ごしていた。



 三木は、中破総理からも聞かされていたが、天使達が実に性に奔放であり、極めて淫乱であることを改めて実感していた。


 それと、玲美が口下手であるというのは、他人に人見知りするだけであり、親しい者には饒舌であった。

 また玲美の特殊能力の一つとして、自らの心の中に多重人格を創り出して、その人格を他人に憑依させコントロールすることが出来ることであった。

 その能力は最大5人ならば標的相手を無意識下において完全ロボット化することが可能で、標的相手が意識を保った状態である程度コントロールするならば、10人は可能であった。



 蘭子が三木とラブリーな時間を過ごして、裏庭に戻った頃には丁度生け簀が出来上がり、中には湧き水が溜まっていた。


「凄いじゃないの、玲美。ゴメンね、生け簀が出来上がるまでの待ち時間の間で、貴女が真面目に働いているのに、私は三木さんをつまみ食いしていたの」


「ううん、蘭姉は謝ることない。私も同じ立場だったらそうするし、今後蘭姉の彼氏とHするかも知れないから。それより鰻を生け簀に入れてね」


「分かった、2つに分けて入れれば良いのね」


 本来、亜空間収納は無生物しか収納出来ないのだが、蘭子の場合は宇宙船が亜空間潜行する際にエネルギーフィールドを利用することから、コレを自分の能力に活用し、収納するモノをエネルギーフィールドで取り囲むことで、生物でも生きた状態で時間を停止させて収納することが可能であった。



 その後、三木が計画していた日本料理の用意が出来、2日目の晩餐会が開始された。


 本来、和食であれば畳の間を用意したいところだが、英国側が靴を脱ぐ習慣が無いため、仮に畳を用意したとしても座ることがままならず、また王女殿下がイブニングドレスであったことから、普通のテーブルと椅子形式での食事となった。



「この白いのは何?」


 まず前菜として運ばれたのは、鱈の白子ポン酢和えであった。


「ハイ、殿下。今朝北海で獲れた鱈をメインディッシュにした日本料理です。

 その前菜は白子のポン酢和えで、鱈の精巣ですね」


「三木殿、何ちゅうモノを殿下に食べさせるのか!」


「チャーリー卿、落ち着きなさい。

 まずは食べてみなければ分からないでしょう」


 王女は白子の切り身を口に運んだところ、口の中でクリーミーで蕩けるような食感とマッタリとした味わいが広がり、彼女にすれば未知なる味であった。


「コレ、美味しいわ。チャーリーも食べて見なさい」


「あ、はい。む、むむ、コレは美味いな」


「後程、この白子を使った天ぷらも出て来ますから、お楽しみに」



 この後、刺身、鱈鍋、天ぷら、寿司等と日本食のオンパレードで、王女殿下とチャーリー卿は、日本料理を心行くまで堪能していた。

 最後に抹茶アイスクリームのデザートが出た頃は、日本食の虜になり、2人共に至福の顔付きをしていた。



「もう、満腹で死にそーう。オマケに日本酒が美味しくて飲み過ぎました。

 私は王女で~す!三木さ~ん、今日の料理は大変美味しかったで~す。

 少し酔っ払っていま~す。ヒック!」


「大丈夫ですか?殿下?」


「私はこのまま休みま~す。

 また明日、交渉をお願いしま~す」



 王女は席から立ち上がる際、かなりふらつきをしたが、メイド長に支えられながらも、何とか自力で自室まで歩いて行った。


 チャールズ卿は、その王女殿下の姿を見ながら、やれやれと思って席を立ち上がろうとした時、自分の足腰に酔いが回って事に初めて気付いた。


「ダメだ!立てない」


 周りにいたメイド達は、チャールズの為に車椅子を用意し、コレに乗りながら自室に戻って行く際、三木達に対して言葉を掛けた。


「どうやら私も王女殿下と同様に酔いが回っていたらしい。

 主賓を残して先に休むのは失礼だが、どうかご了承願いたい」


「いえ、無理をしないでお休み下さいませ」


「年を取ると酔いが回るのが早く、全く情けないものだな。

 何処ぞの大統領のように車椅子に乗って立ち去るのは大変不本意だ。

 だが、三木殿。明日も宜しく頼むぞ」


「ハイ、お任せ下さい」



 王女殿下とチャールズ卿を見送った三木達は、手が空いたこともあり、3人は何故か同じ部屋のゲストルームに向かい、3Pな激しい夜を過ごした。




 翌朝、大浴場で湯浴みをして酒を抜いていた王女は、普段着に着替えたところでメイド長が要件を伝えに来た。


「殿下!昨日の料理長が、殿下に朝食を用意したと申しております」


「分かりました。その者を通しなさい!」


 後藤は、カセットコンロに一人用土鍋を乗せたワゴンを王女の自室まで押して来た。


「コレは何?」


「コレは、昨日の晩餐で登場した鱈鍋の出汁を使用した雑炊粥ですね。

 そしてコチラはシジミの潮汁になります」


 後藤は王女の為に、飲み疲れしている胃腸にやさしい雑炊粥とシジミのすまし汁を用意したのだった。


「うわー、この粥は出汁が効いているのにお腹にやさしい感じです。

 それにコチラのスープは、身体の中にエキスが染み込んで行く感じです」


「(この王女殿下、二日酔いのオッサンと同じかよ)」


「ん?何か言いましたか?」


「いえ、この潮汁はシジミという貝を使用しています。

 この貝にはオルニチンという成分を多量に含んでいて、弱った肝臓の機能を回復させ、二日酔いには大変良く効くスープなのです」


「そうでしたか、私の健康を気遣ってくれて有り難う」


「殿下のお褒めの言葉痛み入ります。それでは、昼食でまたお会いしましょう」


「後藤シェフ、今日のお昼のメニューは何ですか?」


「ズバリ言うと『ウナギ』です」


「え?私はウナギのゼリー寄せは大嫌いなの。それを承知で鰻料理を私に用意するのですか?」


「少なくとも、殿下の考えているウナギゼリーではないことは確かです。

 私が作る鰻料理は、殿下が知らない未知の料理であり、お替わりすることは間違いない料理ですから」


「後藤さん、分かりました。その料理を期待しましょう」


 王女は、後藤が昼食にウナギを使うと聞き、あのゼリー寄せの味を思い出して一瞬寒気がしたが、後藤が作り出す料理だから、多分美味しいモノだろうと半ば期待はしていた。

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