37話 日英交渉 その3
三木達は別室に移動して、先程の出来事について会話を始めた。
「あのう、三木さん。レミエル殿の能力とは一体何でしょうか?」
「玲美、まず私に耳打ちしてくれ」
レミエルは、チャールズ首相の下着の色から、背広の内ポケットにある品々について、三木に耳打ちしていた。
「閣下、今日の下着は上がベージュ色胸元襟なしシャツ、下が灰色トランクスで、、、、、茶色革製の財布の中身は紙幣が沢山入っています」
「もう良い、見事全て正解だ。だが、なぜ分かるのだ?」
「玲美こと天使レミエルは透視能力を持ち全天使の中では一番優れており、その能力で電子部品や機械類等の設計図を起こすことが可能です。
他にも色々な能力がありますが、透視能力はその一部です」
「そうか、その能力で殿下の下着の色を言って殿下を辱めたのか。無礼にも程があるぞ!」
「ほおう、閣下。我々を無礼だと言うわけですか。
この際ですから下手なプライドや身分等は関係なく、腹を割って話し合いをしましょう。
まず英国側が勘違いしないで欲しいのはチョンマゲに刀を差した着物姿のお江戸から100年経った軍国主義の日本ではなく、それよりさらに100年後の未来の日本がコチラの世界に国家ごと転移したのです。
それ故に科学技術はこの世界よりも数段優れていますし、その気になれば今現在の国力で世界中の軍隊を相手にし、全ての国の軍隊を殲滅出来るだけの兵器、軍隊を所有しています。
さらに、宇宙上空に日本の人工衛星が飛行して常に24時間監視しており、その気になれば衛星からの爆撃も可能で、大英帝国に爆弾を打ち込めば一発で国家を滅亡させることも可能です。
私自身がこの交渉を気に入らなければ、今すぐにでも昨日運搬してきた戦闘機を破壊し、本日中に帰国させて頂きます。
そして日英交渉は無かったことにし、改めてドイツと同盟を結んで世界を二分する相談をしたいと思います。
それでも英国側がそれで良いというならば我々は帰国しますし、アーノルド補佐官は英国側の人間が女神と天使達に会った事実を、天使の能力を使用して記憶から全て消去するでしょう。
さて、どうしますか?閣下。返答をお聞かせ願いませんか?」
「うう、それは我が国に対する最終警告の脅しか?」
「そのとおりです。あまり全権特使を舐めないで頂きたい」
「三木さん、少し私から言いたいことがあるの」
「何だ?玲美」
「私はね、この国の人種差別意識や貴族制度は良く思っていなかったんだ。
昨日、戦闘機を組立後市内見物と鉄道記念館や大英博物館を見て回ったの。
その時に感じたんだけどこの街並みや機械類に人々の歴史が刻まれ、街中にいる人達は労働者だったけど自分の身分に誇りを持って生きていたんだ。
だから、この国の身分制度も捨てたモノではないと少し考えを改めたんだ。
三木さんの一言でこの国の未来を一瞬で終わらせることも出来るのだけど、機械好きの私から見れば少し悲しいし、出来ればこの国の歴史を長く残したいなと思うんだ」
「玲美、本音を言ってくれて有り難う。私も玲美の言葉で思い直した。
正直言って、特使という役職を与えられて少し傲慢になっていたようだ。
閣下、先程の失礼をお詫び致します」
「三木さん、ガヴリエル姉様が王女殿下の記憶を少し操作したようです。
あの状態では、赤面したままで交渉もままならないでしょうから」
「レミエル殿、あの補佐官は人の記憶を操作出来るのか?
もし、それが可能ならば魔女だな」
「いいえ天使です、閣下。
普通、ガヴリエル姉様は人間の行動、言動で生じた些細な事象や言い争いは放置しておきます。
しかし重大な局面などで間違いが生じた時は、それを修正するために人々の記憶を消去して別の記憶をインプットします」
「だけど、玲美。俺や閣下の記憶が消去されてないのはどういうことだ?」
「それは、ガヴリエル姉様からの警告でしょう。
2人共、決して神々や天使達の能力を忘れるな!というところでしょうか」
玲美の話を聞いた2人は、背中に『ゾゾゾッ』という悪寒を感じ、互いに顔を見合わせた後、求めるように握手をしていた。
「三木さん、お互いに仲良くして行きましょう」
「コチラこそ閣下、長い付き合いをして行きたいですね」
「「ワ、ハハハ!」」
「ゴメンね、お二人さん。私、王女殿下の様子を確認に行って来る」
「ヨロシク頼むな、玲美」
玲美は別室から出て、王女の居る控室に向かった。
「ガブ姉様。入って良いですか?」
「ハイ、どうぞ」
王女はガヴリエルの精神操作によって、ベッド上で横になっていた。
「まあ、レミエルが怒るのも無理ないと思うの。
この王女殿下は、王族の期待を一身に背負って気張ることで、あのような高飛車な態度に出たと思うの」
「済みません、ガブ姉様。そんな王女の気持ちを分かっていませんでした」
「だけど、あの三木さんは凄いわね。
百戦錬磨のチャールズ首相をコテンパンに追い詰めるとはね」
「見てたのですか、私の視線を通して」
「だけど、レミーもやるわね。
あそこまで怒りの頂点に達していた三木さんを、レミー流の機械的歴史観の話で良く収めたわね」
「エヘヘ、ガブ姉様に褒められると背中がこそばゆい思いです」
「それより、チャールズ首相はどうやって納得させたの?」
「え?そこは見ていなかったのですか?」
「王女殿下に気を取られ、少し視線を外していたのよ」
「分かった。チョット待って、レミーの記憶を巻き戻しするから。
あ、私を魔女扱いしている。
フーン、私の記憶操作能力を話して、あえて2人の記憶を残したことを警告であると説明したのね。レミーもなかなかやるじゃないの」
「ウフフ。ガブ姉様からのお褒めの言葉、痛み入ります。
それより、王女殿下の具合はどうなのですか?」
「身体、精神的には全く異常は無いから。
問題はね、どこまで記憶を巻き戻して失敗したところを消去するかだけど、さてどうしましょうか?」
「姉様、最初の日本の要求分はOKですよね」
「その辺までは大丈夫」
「次はオセアニアの要求分でしょ。
全部を占領統治するわけじゃないし、英国連邦から日本連邦に変わるだけの話だけで、問題は無いはずなのにプライドの高い国は困るのよね」
「コレをどうするのですか?」
「ウーン、取りあえず心の不安感と高飛車な性格を直しましょ。
心を丸くすれば、この要求分も検討出来るでしょう。
レミー、そろそろ終わる予定だから、2人を呼んできて」
「分かりました、お姉様」
レミエルは、2人もあの様子ならば互いに打ち解け、今後の交渉もスムーズになると思いながら、2人がいる別室に向かった。
その頃、別室で待機していた三木とチャールズは意気投合し、別室のワゴンにあったブランデーを2人で飲み始め、最終的に2人でボトル1本を空けて、半分泥酔状態に近かった。
「カチャ!」
「ウワ!お酒臭ーい。2人共、一体何を飲んでいるの?」
「おお!この素敵な女性が大天使レミエル様なのですね。
実にお美しい方ですな。私、ヒック、チャーリー卿と呼んで下さい、、、で。
まずは、友好の証というところ~で~ほんの一杯どーぞ」
「三木さん、このチャーリーオジサンを何とかして。かなり泥酔していますよ」
「まー、ま~あ~玲美。この~人は~結構良い人~だよ。
少し腹黒いけど、飲めば分かる~ぞ。良いから座って飲めや」
「ウワ!三木さんも同じ酔っ払いじゃないの」
玲美の心に怒りの感情がピークになった瞬間、と同時に2人に電撃が走り、2人はその場で気絶して床に倒れ込んだ。
電撃といっても、せいぜい人間が気絶する程度で身体的には何ら問題無いのだが、彼女はこの酔っ払い2人の酔いをどう解決するか少し考えていた。
「お、そうだ。コッチに出発前に蘭姉が私に色々な医療用ナノマシンカプセルを持たせてくれたのよね」
蘭子は、天使の中では病気や様々な抵抗力が低いタイプで、先日もガイアのところに行き、身体に耐電抵抗力の治療をしたばかりであった。
そのような理由から、日頃から医療用のカプセルを常時持つように習慣付いていた。
蘭子が持たせてくれた救急カバンの内、解毒用カプセルが多数入っていた。
「蘭姉の話だと人間も天使と同じような身体構造だから、薬は良く効くからと言っていたけどコレは1回1カプセルで良いのね」
レミエルはどうやってカプセルを2人に飲ませるか考えていた。
「(うーん、愛しのダーリンである三木さんは口移しで良いけど、チャーリーオジサンはお口が葉巻臭いから、コレを使いましょ)」
仰向けに寝ていたチャーリー卿の口にアイテムバッグから取り出した吸い口の先を突っ込み、カプセルと水を同時に入れて鼻をつまんで飲み込ませたところ、一気にその吸い口に入った水とカプセルを飲み込んだ。
「(三木さんは私がキスで)」
チャーリー卿の横に仰向けに寝ていた三木の頭を起こし、レミエルは自分の口にカプセルと水を含ませて、三木にキスがてら口移しで飲み込ませた。
カプセルを飲ませて約1分前後で急速に効果が現れ始め、2人共に意識が回復し始めた。
「あれ?確か、三木特使とブランデーを飲んでいた記憶があるのだがな」
「玲美、俺達は一体どうしていたんだ?」
「(ハイ、2人共泥酔状態で暴れていたので、私が電撃で気絶させた後に解毒用ナノカプセルを服用致しました)」
「(そうか、ありがとう。チュ!)」
レミエルは、三木からのお礼のキスに一瞬感動していたが、そのヒマが無いことを思い出して、2人に王女の記憶の巻き戻しと記憶を消去した件を伝え、交渉話の辻褄が合うように依頼した。
三木は、オセアニアが英国連邦から日本側に譲る理由について、チャールズに説明するのに、先にアメリアの覇権について語り始めた。
「つまり、アメリアは日本を叩き潰すために戦争をしたいわけですか」
「その戦争を切っ掛けに、欧州との戦争にも参加したいわけです」
「多分、世界一の覇権国家を目指したいわけなのですよ」
「だけど、三木さんがいた前の世界では、アメリアに当たるアメリカが覇権を握ると人類が滅亡するのですよね」
「ハイ、そのとおりですが、もう一つの問題がコチラの世界で言うル連なのです」
「ふむ、ル連の存在は我が英国でも頭を悩ませています」
「このル連の東側から我が国が進攻します。
逆にドイツに西側から攻め入るように仕向けたいわけなのです」
「つまり、日本はドイツと同盟を結ぶのですか?」
「いえ、同盟は英国以外は当面は結ぶことは考えていませんが、協定あたりは検討した方が良いと思っています」
「ほう、それは何故ですか?」
「前世界のドイツは、民族虐殺とか人権弾圧等を行う恐怖政治体制でした。
しかし、今のドイツは前世界と同様に帝国主義で覇権国家を目指し、他国を支配するため身分差別制度を導入していますが、被支配者は人権弾圧されずに逆に覇権を受け入れることでその庇護に預かり平和な生活を送っています。
この支配体制を悪いモノだと、頭から否定するのは如何なものかと我が国の外務省は検討の余地があると思っています」
「つまり、日本側としてみれば帝国主義を悪と考えないのですか?」
「帝国主義が民族浄化等の人種差別主義に走り、次々と無実の市民を虐殺しているならば断固粉砕すべき存在です。
ところが、現在のドイツは確かに帝国主義ですが、あくまで覇権国家を目指しているだけです。
それと、帝国主義は英国も該当するのではないですか?」
「確かに、我が英国も過去帝国を名乗っていたことは紛れもない事実ではある。
しかし、現在は女王を中心に据えるが、政治は民衆の手で動かしている」
「それは日本も同様ですよ。
天皇を中心にして民衆が政治を動かしている体制です。
我が国では、コレを国会主義的立憲君主制国家と呼んでいます」
「ふむ、その点は英国と日本は共通点が多くて共感出来るな」
「国の支配者が民衆第一と考えることが出来る人物ならば、別に支配者を民衆の手に委ねる必要は無いのです。
ところが、自分達の支配体制を強化するために、粛正の名の下で次々と反対者を虐殺している国も存在します」
「それは、共産主義国家のル連だな」
「ハイ、そのとおりです。
ル連は、共産主義という夢物語を民衆に吹き込み、共産党という支配者達の体制を強化することで成立している国家です。
その共産主義国家を支えている民衆は、ロシア帝国時代の農奴と何ら変わりはなく、農奴から労働者に名を変えただけの話です」
「そのル連とドイツを戦わせるように、我が英国が仕向けるわけだな」
「ハイ、そのとおりです。閣下。
それとアメリアの自由資本主義についても言及しておくと、あの自由資本主義は民主主義の見せ掛けに他なりません。
この自由資本主義はリンカーンの名言を拝借して言い方を変えると『白人の白人による白人のための政治』に他ならず、リンカーンは黒人擁護派を装っているだけで黒人解放はあくまでも方便に過ぎず、彼自身は先住民族のインディアンを何万人も虐殺しています。
つまり、アメリア大統領の殆どは自由資本主義の名を借りた資本第一主義であり、『白人資本家の白人資本家による白人資本家のための政治』と言い方を変えた方が宜しいでしょう。
実際の問題として、自国の先住民族虐殺に飽き足らず、太平洋進出後は数々の国々を自国の支配下に置いて、過去の虐殺と同様にフィリピンでは無抵抗の民衆30万人以上を虐殺しています。
こんな資本第一主義で、自国利益優先覇権国家を許せると思いますか?
私達がいた前世界の日本では、今現在と同様に覇権を押し付け、日本を戦争におびき出し、あげくに新型爆弾を2回使用して、35万人前後の罪無き市民を虐殺したのです。
新型爆弾を製造し、それを使用したアメリカの言い訳は、戦争を早く終結させるための手段の一つで、新型爆弾を使ったから戦争を終結出来たというものでした。
だが、実際は戦争早期終結という大義名分に隠された壮大な人体実験に他ならなかったのが真実でしょう。
私自身は前世界のアメリカに恨みはありませんし、この世界に転移する以前はアメリカの自由資本主義に疑問を持ったことすらありませんでした。
しかし、その隠された資本第一主義という真実を知り、またアメリカが覇権国家であり続けることで地球を温暖化させて最終的には新型爆弾を多用することで、人類滅亡に繋がってしまうわけです。
この人類滅亡を回避するため、人類世界の歴史改変を行うために日本が神々に選択されてコチラの世界に国家ごと転移したわけなのです」
「日本は、そのような大義名分でアメリアと戦争するわけか」
「日本が戦うのは、人権を弾圧して民族虐殺を平気に行う国家です」
「うむ、我が国には耳が痛い話だな」
「確かに、英国も過去植民地を支配する際に行った事実はあるでしょう。
だが、今現在で一番民主主義を第一にしている国家が、率先して民衆の弾圧や虐殺を行っています」
「それがアメリアだというわけだな」
「ハイ、それとオセアニア諸国なのです」
「ああ、あの国は先住民族を虐殺し過ぎたからな。
それと我が国での差別主義が、悪い方向に走ってしまった国家だからな」
「それは、白人至上主義ですよね」
「ああ、三木特使はよく勉強しているな」
「あ、ハイ。分かりました。2人を連れて行きます」
「どうした、玲美?」
「ガヴリエル姉様から、王女殿下の準備が出来たので2人が会議室に戻って欲しいとの連絡でした」
「分かった、すぐに向かう」
三木とチャールズは別室から会議室に向かった。
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