32話 新旧日本の合同軍事戦略会議 その2


「それでは、斉藤博士の当面の戦略目標等についての話が終わりましたので、皆様方の意見をお伺いしたいと思います」


「斉藤博士、本当にアメリアに勝てるのか?」


「先程説明したとおり、前世界の国防軍だけならば、せいぜいハワイ、アラスカ止まりですね」


「しかし、今回は我々帝国軍がいるから勝てると」


「ハイ。繰り返し言いますが、戦術的な一時的攻撃ならば我々の国防軍の装備であれば、世界中何処でも攻撃は出来ます。

 だが、その攻撃で相手国をある程度屈服させ、自国に有利な和平を得ることは出来るでしょう。

 しかし、一時しのぎの和平は再び戦争を呼び込むことに繋がるわけです。


 アメリアのような大国、まして戦争狂のルーズベルトが大統領の椅子に座り続けている限り、日本が前世界のように叩き潰されるか、コチラがアメリアを徹底的に叩き続けて無条件降伏させ、分割統治することで世界平和を得られるか、現在の段階では2つに1つなのです」


「そうか、やるときは徹底的に叩くわけか」


「ええ、中途半端にすると戦闘状態が長引いてしまいます。

 占領は素早く敵の反攻する隙を与えずに行い、統治はドラスティックな変化を付けることで、敵国民に余計な事を考えさせないことが大事なのです。

 そのための分割統治なわけです」


「斉藤博士は、何故アメリアを分割統治する必要があると思うのか?」


「アメリアという国は、ランドパワーとシーパワーの2つの力を保有する国家で、1つは北アメリア大陸という広大な領土を保有して、もう1つは太平洋と大西洋の2つの大海に面しています。


 その北アメリア大陸には2つの国家に接していますが、北のカナダは英国連邦内の自治国に過ぎないために、アメリアに反攻する野心的な部分は皆無で、メキシカにあっては過去アメリアとの戦争で領土を奪われて牙を抜かれ、子分的な国家に成り下がっています。


 このような大陸的な地の利に恵まれ、かつ2つの大海に面しており海洋進出が簡単に可能なため、自国開拓を終了後は軍事力を外部に開放させることで、欧州諸国との植民地競争の遅れを取り戻すべく、急いで世界中に覇権を広げていったのです。


 このアメリアの海洋進出により、同国の覇権が世界中に波及しつつあるわけで、西インド諸島から始まり、中南米諸国、パナマ、ハワイ王国を経てグアム、フィリピンに至り、次は中国を手に入れたいが日本が先に手を掛けているため、コレを止めさせようと必死に圧力を掛けている始末です。


 アメリアが如何に覇権国家に及んだまでの話はこれ位にし、本題の分割統治について説明します。


 このアメリアは『州』という単位に分かれてますが、この州は日本の『県』とは違い、小国程度の政治・経済力と自治力を持っています。

 そして合州国憲法という連邦法とは別に、州独自に『州憲法』と『州政府』が存在し、『州法』が制定されているわけです。

 この州が48州と2つの準州が集まって出来た国が、アメリア合州国という連邦国家なのです。


 アメリアの州同士は同じアメリア人なので、仲が良い州もありますが、互いがライバルで競い合っているところが多いのです。

 過去には州同士敵対し、南北戦争を引き起こしたことは有名な話です。

 それ故に分割統治は比較的スムーズに行くわけなのです」


「なるほど。それで斉藤博士は具体的に何処の国がアメリアを分割統治すれば良いと考えているのか?」


「日本、英国、ドイツ、メキシカの四カ国ですね」


「そのアメリア分割案にメキシカが入っているが、何故メキシカを入れる必要があるのか?」


「アメリア大陸の南西部には、かなりの元メキシカ人であるヒスパニア系住民が居住しています。

 これらの住民が住んでいた場所は元々はメキシカの領土だったのです。

 日本側からみればアメリアの半分以上を統治するよりは、メキシカ人が多い土地をメキシカ側に任せた方が丸く収まると考えているわけです」


「だが、メキシカにタダで領土をくれてやるようなものだけど、日本側に何か得があるのか?」


「畑陸相、メキシカを日本連邦に取り込み、メキシカに譲渡した領土で農産物や鉱業等で得られた原材料を日本側に輸入し、それを元に加工した製品をメキシカを含めた各国に輸出して日本側が利益を得るわけです」


「なるほど。領土をただ勝ち得るだけでなく、貿易で上手く活用しなきゃダメなわけか」



「次に私の世界覇権案を皆様にお聞かせしますが、、、、、」



 斉藤は、今後実施予定の世界覇権案について語り始めた。


・太平洋全体を日本の支配下に置く。


・太平洋上の全ての島々を欧米の圧制下から解放、独立を促し、自ら統治出来ない場合は日本の保護領とし、独立した国々を日本連邦に組み込む。


・メキシカを日本連邦に取り込み、軍事協定を締結する。


・中南米諸国を日本連邦に取り込む。


・英国とはアメリアとの開戦前に軍事同盟を結ぶ。

 英国にはインド洋と大西洋の覇権を確保してもらう。

 また、英国は親米派が多いが、今大戦ではアメリアにそっぽを向かれて困惑しており、またドイツに攻め込められて自国領土維持が風前の灯火になりつつある。

 そこで、日本側から技術供与して助け船を出し、その見返りに英領マラヤを日本に譲渡させ、シンガポールを共同統治する。

 また、もう一方の見返りとしてオーストラリア、ニュージーランド両自治領の英連邦を放棄させる。


・オーストラリア、ニュージーランドを含めたオセアニア諸国は、英連邦から日本連邦に自治権を移譲する。

 これらの国の統治はどの人種も平等に扱うが、白人達は相当反発する可能性が高いため、これらに反抗した白人は全て国外追放とする。


・東南アジア諸国を日本連邦に組み込む。


・ル連邦を徹底的に壊滅まで追い込み、国家を滅亡させる。

 その後の国々については英国、ドイツと協議して分割統治する。

 沿海州、カムチャツカ半島を含む極東地区は日本が永久統治する。


・現在のドイツは前世界のナチスドイツとは大きく違い、民族浄化せずに君臨統治するが、諸民族宥和の政治体制を維持している。

 諸民族の領土的争いや内戦が無くなるのであれば、当面英国を除いた欧州はドイツの支配下に置いた方が良いと考え、日本側とすれば協定なり条約等の外交交渉を検討する。


・ル連の滅亡後、新たにドイツと接している領土を共産主義思想のロシア人に共和国を建国させた後、共産主義思想のロシア人をその共和国に押し込めて、ドイツ側に管理させる。

 残りのル連の白系ロシア人は、各民族共和国の自治国家と同様に白系ロシア人の自治国を成立させ、それらを日本連邦に組み込んで行く。


・英国とドイツを和平させる。


・ドイツ側のル連解体とロシア統治への見返りとして、アメリア分割統治に参加させる代わりに、ドイツが占領しているグリーンランドをオセアニアの見返り分として英国に譲渡させる。


・アイスランドは英国連邦に加入する。


・ル連滅亡後、北極海の覇権を日本が握る。


・インド統治は英国に任せるが、セイロンは日本連邦に加入させる。


・中東地域、中央アジア、南アジア地域の統治は当面英国に任せる。


・トルコは英国連邦に加入する。


・アフリカ北部、地中海沿岸はイタリーが統治する。


・アフリカ中部はドイツが統治する。


・アフリカ南部は英国が統治する。


・現在、マダガスカルは英国連邦下であるが、オセアニアの連邦移譲に伴い、マダガスカルを日本連邦に移譲する。


・ジブラルタル及びその周辺、セウタからメリリャまでの地域は英国が統治。


・アメリアを無条件降伏させる。


・アメリアの分割統治には、日本、英国、ドイツ、メキシカの4カ国が参加。


・日本はアラスカ及びカリフォルニアを含む西海岸一帯、中部、東部を統治、英国はニューイングランド、ドイツは南東部を統治、メキシカはテキサス及びメキシカ国境に接する州を統治する。


・南極大陸については、世界各国の領土宣言は一切認めず、当面の間は国際的な機関で管理する。


・日本が撤兵した中国は、日本連邦に取り込まずに同盟を結んだ英国の連邦に加入させる予定。



「コレは壮大な計画、否、遠大な計略と言った方が良いのか?」


「要は世界全体を日本、英国、ドイツの覇権国家で収めるわけですか?」


「そのとおりです。米内閣下」


「枢軸国側のイタリーの占領地域は随分狭いけど、何か理由があるのか?」


「畑陸相の疑問はもっともだと思いますが、イタリーは武力の大半をドイツに依存しており、せいぜい占領統治地域は地中海沿岸とアフリカ北部になると思います」


「日本が統治する地域は随分広いが、広い故に統治がおろそかになり、地元民の独立気運が高まり、独立したら日本側に不利になるのではないか?」


「それは欧米諸国が植民地に圧政を敷いて地元民を弾圧したため、地元民が反発したからに他ならず、日本側としては地元民の独立気運が高まったら、無理に独立を抑えずに独立の手助けして、そのまま日本連邦の一員にするのです」


「それは、我が日本国が英連邦の真似をすると?」


「半分は当たりです。勿論天皇陛下を統治者と仰ぎますが、英国みたく地元民を差別はしません。

 また、英国連邦のように総統を派遣統治する場合もありますが、それは自治領までだと考えております」


「何故、天下三分の計みたいに世界を三分割するのか?いっその事、日本国が世界征服すれば手っ取り早いのではないか?」


「確かに世界征服は多少時間が掛かりますが、可能だと思います。

 しかし、一つの国家が世界全体を支配してしまうと国家間の争いが無くなる反面、人々の競争心が薄れて文化や科学技術の進歩が遅くなり、月日が経つに連れて発展・進歩が停滞して、最終的には退廃して国家が滅亡し、世界各国が再び分裂状態になります」


「何故そのようなことになるのか?」


「畑陸相、人間は争うこと、競い合うことで互いに切磋琢磨します。

 競争し合うことを止めると、人間は成長進歩しません。

 それが故に、世界全体を一極支配しないわけなのです」


「なるほど、成長が止まるのか」


「以前の前世界では、アメリカ、ソ連邦の2カ国が争う二極構造で、通称冷戦と呼ばれていました。

 二大国家が争うことで科学技術が発達したのですが、ソ連邦が体制崩壊してアメリカ一極に覇権が集中したため、今までソ連が抑えていた連邦国家が分離してテロ国家に走ったため、その国家群と対決する羽目になったのはアメリカ自身でした。


 その後、ソ連の代わりに覇権国家として台頭してきたのは中国ですが、この中国の行いはアメリカやソ連以上にその周辺国家に不幸をまき散らし、とても覇権国家とは思えず、国家の存在自体が世界中の迷惑といえました。


 そのような状況ですから、パワーバランスとして一極集中はその覇権国家が終焉を迎えた時、パワーバランスが崩れて全世界の混乱に繋がるわけです。

 それでは二極集中ならば良いかというと、片方が潰れると結局一極集中してしまうわけです。


 では、我々が目指す天下三分の計ならば、パワーバランスが取れるのか?と思われますが、例え一つが潰れたとしてもそれに代わる次の覇権国家を育てることで、三極の形は取り戻すことが可能なのです。


 それに図形に例えると三角は意外と安定しているのです。例えば三すくみに三つ巴など、互いに牽制しあうことで良い緊張状態を保つことが出来るわけなのです」


「それじゃ、今後やろうとしていることが天下三分の計だというわけか」


「取らぬ狸の皮算用をしても始まりませんから、世界の分割統治論は今大戦の終了が見えた時点で、再度議論を進めましょう」


 斉藤は、軍略関係についての説明を終えた後、帝国幹部達を離席させて次の会議の準備に入っていた。

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