25話 転移する日本 その1


2040年3月1日午前0時


 この日の午前0時前後から、日本列島全体を白い霧のようなモノが覆い、数分経つと霧が晴れると、PW地球の国土に正史地球の国土が上書きされた。

 霧が覆っている間、日本列島全体には地震等の揺れも無く、また津波や高潮等の発生も全く無かった。

 ただ違うのは、目の前の視界が霧に覆われて視界が全く効かなくなったことである。

 だが、その視界不良もせいぜい数秒程の時間であった。


 決してタイムスリップでは無く、また正史地球の日本(以下新日本略)が、PW地球の旧日本(以下旧日本略)と入れ替わった訳ではない。

 あくまでも旧日本に新日本が上書きするのである。

 互いの国土を構成している空間が重なり合い、古いモノが新しく再現されるといった表現が正しく、『日本国転移』というより『日本国転生』という言葉がピッタリ来るかも知れない。


 旧日本の昔の駅とか、役場などの古い建物は、現代の新しい建物に置き換わり、由緒ある代々受け継がれてきた寺院等は、そのままの姿だった。


 否、まさしくPCデータの上書きに近いが、旧日本から現代まで100年以上も続いた建物ならば、建物年数の新しい方が優先されるのだ。

 但し、100年の間に改修工事で全体がリフレッシュ、またはリノベーションされた建物は、そちらの方が優先して残るらしい。


 例えば、日光東照宮のような寺社の場合だと、改築や修復等を行った部分は新しい部分が残り、旧日本の新しい建物と融合するわけである。


 古い建物を壊して更地になった土地は、駐車場として舗装化された場所は、現代の駐車場のままで、何も無い自然と同様の空き地では、旧日本の建物が建ち、特にその現象が強く表れたのは、都市部よりも農村等の過疎地では顕著であった。


 つまり、過疎地で離農等でその土地を離れた場所では、旧日本の建物が復元する形で建っており、特に炭鉱等の炭鉱街では、市街地ごと放棄された場所は見事に街並みが甦るように旧日本の新しい建物が建ち並んでいた。


 また、転移事象で一番メリットがあったのは、過去東日本大震災による原発事故により、放射能汚染された場所であった。

 女神ガイアは、原子力発電所の建物を元の形に再現し、その中の放射性物質や廃棄物等を一切消去していた。

 そのため、原発事故で漏出した放射能被害地域は、被害前の建物や田畑等に入れ替わっていた。


 この現象は、他の原子力発電所でも同様で、建物はそのままだが核燃料物質や放射性廃棄物、放射能汚染されて脆化した建物や機械類等の一切のモノから放射性汚染のみが消去されていた。

 これらの原子力発電所は、蒸気タービンの発電装置を備えていることから、後日そのまま核融合炉を設置して再利用された。



 今回の転移事象で上書きされるモノは、建物、橋、トンネル等の人工構造物のみで、旧日本の建物が再現された場合で、その建物に住んでいた人々はその建物で生活を続け、都会等の新しい建物と頻繁に建て換わる場所では、旧日本の人々は、その建物の横等に転移した。


 ただ、この転移事象で若干違うモノも存在していた。

 新日本と旧日本の地名等は全く一緒で、企業等の名称も全く変わらなかったが、若干違うモノがあるとすれば人名と国名であった。


 例えば、歴史上の人物で新日本だと『坂本龍馬』が、旧日本は『坂本竜馬』であり、1940年当時の首相は『米内光政』が『米内光正』と、一字程度しか変わらない者もあれば、『山本五十六』が『山元磯禄』のように、語感のみが一致し、『山』の一字しか一致しない者もあった。



 国名の方は、世界各国の代表的な国々の国名に若干の違いがあった。


 正式国名では


・『大日本帝国』が『日本帝国』

・『中華民国』が『中華共和国』

・『アメリカ合衆国』が『アメリア合州国』

・『メキシコ合衆国』が『メキシカ連邦共和国』

・『グレートブリテン及び北アイルランド連合王国(イギリス)』が

『ブリタニア諸国連合王国(以下英国略)』

・『大ドイツ国』が『ドイツ帝国』

・『フランス共和国』が『フランク民主国』

・『スペイン王国』が『ヒスパニア帝国』

・『ポルトガル共和国』が『プルート王国』

・『オランダ王国』が『ホラント共和国』

・『イタリア共和国』が『イタリー王国』

・『ソビエト社会主義共和国連邦』が『ルーシー共産主義連邦(以下ル連略)』


の若干に違いが見受けられた。



 この転移事象で、一番メリットがあったのは労働力の確保であった。

 旧日本の人々が、この転移事象に巻き込まれて一番困ることは、仕事と住居の確保であったが、外国人が丸ごと消滅してしまったため、その穴を埋める形で旧日本の人々が外国人代わりに仕事に就き、同じ日本人で言葉の障害が無いため、即戦力的人材といえた。


 旧日本の人々の労働力は全産業にメリットがあったが、一番恩恵に預かったのは介護系と建設系産業、それに第一次産業であった。


 他の変更点としては、JRの鉄道路線で統廃合で廃線になったところが復元していた。

 転移直後、膨大な赤字路線が一気に増加したため、JRの経営圧迫の懸念があったが、転移事象で日本の人口がほぼ倍となり、特に過疎地の増加が顕著で、現代の交通インフラでは、道路網のみで人々の移動手段をカバー出来ず、これらの不足した交通手段の解決に、廃線された鉄道網が役立った。


 今回の転移事象は、新日本の全産業に活力を与えるほどであった。

 また、旧日本の人々も文化的水準が高まり、豊かな生活を送れることに喜びを感じていた。


 だが、帝国側のデメリットといえる痣が浮上していた。

 それは、旧日本の貴族・華族達と帝国政府の議員、財閥系企業の社長、役員等であった。


 これらの問題に対して、華族制度は当然ながら廃止して、旧貴族・華族等の一族達と帝国政府議員、旧財閥系の社長、役員等で、彼等の中でも優秀な人物は、新日本の各省庁、大企業等に次々と登用されていたが、社会に害毒を流す穀潰しのような人間は、新日本の元財閥系大企業が中心となって、名目上では子会社という名の収容所を企業連合で造り、そこで彼等の特権等を全て剥奪し、飼い殺し状態で将来的な生活を保障した。



 今回の転移事象で国土が重なり合うことで、千島海溝から日本海溝を経由して小笠原海溝までの間、重なった国土の余剰分が海溝を埋める形で海溝部分が無くなり、太平洋海盆と同等の水深に変化していた。


 また、転移した国土は地殻プレートにも影響を与えており、日本を分断していたフィリピンプレートがユーラシアプレートと一体化し、北米プレートとの境界が千島列島からカムチャツカ半島の東側沖まで、北太平洋から赤道付近まで縦断する形で移動していた。

 この地殻プレートの変化は、日本国内で発生する地震を殆ど無くしていた。

 また、火山活動も小さくなっていたが、マグマ自身がマントル・コアの影響を多少受けるため、完全には火山活動は止まることはなく、また温泉等の湧出量もほぼ変わらなかった。


 正史地球から転移しなかった地域は沖縄県全域、北方領土、千島列島、竹島であり、女神ガイアはこれらの地域をあえて除外した。

 除外理由は沖縄県はアメリカ化、北方領土はロシア化、竹島は韓国化が進んでおり余計なモノが多過ぎるため、3つの地域は旧日本のままであった。


 特に沖縄県民は

・沖縄本島に存在する在日米軍基地問題

・中国側からの潜入スパイによる扇動活動で赤化思想の影響

・日本国憲法改正に反対した住民が大多数

・日韓戦争の際に県民の大多数が反戦デモを行っている。

等の本土住民とは異質の思想を持ち合わせている者が多数存在する。


 そのため、ガイアは今回の国家転移と今後日本に降りかかる戦争等について、同県民が猛反対して国益を損なう危険性が極めて高いと判断し、沖縄県全域とその地域住民を転移対象から除外するとともに、本土内で居住する沖縄県人で沖縄県が本籍の者が転移除外になった他、沖縄県内に居住する本土人で本籍を沖縄県に移した者、若しくは住所が沖縄県内の者は転移除外としたのだった。



 なお、今回の国家転移と共に転移したものでは

・準天頂衛星『みちびき』

・気象衛星『ひまわり』

・地球観測衛星『だいち』

・情報収集衛星『光学』

等の他に通信衛星等多数の日本製の人工衛星が一緒に転移した。


 しかし、前世界の米国製GPS衛星や他国製の航法衛星がPW地球では存在していなかった。

 そのため、政府は宇宙航空研究開発機構(JAXA)への予算増額するとともに、急遽米国製GPS衛星に代わる日本版GPS衛星を早急に打ち上げし、開戦前に衛星測位システムを構築するように衛星打ち上げを前倒しで進めていた。



 今回の転移事象で、世界各国に散らばる形で貿易上の貨物船等は日本国籍以外の外国船籍であっても、日本側の会社が使用して日本用に輸入した貨物等を積載している船舶は、例え日本の反対側を航行していたとしても、女神の能力で排他的経済水域内に船舶が戻されていた。

 また、逆に外国船籍で外国側会社の船舶は日本の港湾、海岸沿い、領海、排他的経済水域等から一切消失していた。


 他に航空機も同様で、日本の航空会社が所有する航空機で、国際線を飛行していた航空機は、地球の反対側にいたとしても、全て排他的経済水域の上空に移動し、船舶と同様に外国航空会社の航空機は外国人パイロット、スタッフ等全て航空機と共に消滅していた。



 転移事象で一番変化があったのは、日本国内の地下資源であった。

 正史地球での日本は、殆ど石油は産出しなかったことが太平洋戦争を始めた原因の一つであった。

 ところが、国家転移後での資源調査結果はクウェートのブルガン油田並の油田が秋田沖から新潟沖に、サウジアラビアのガワール油田並の油田が北海道に存在しており、この油田に目を付けた石油元売業者は早速採掘を開始し、石油消費国が産出国に変貌して、石油製品の値段が相当下がったが、国内では石油依存社会から水素利用社会へエネルギー転換しつつあり、石油化学用、軍事用と航空用燃料しか用途は無かったものの、世界各国への輸出用として活用出来ることを検討していた。


 このPW地球では、日本以外にも石油地下資源が大きく変化していた。

 本来、アメリカは石油産出国であるはずだったが、女神の天恵により埋蔵量が大幅に減らされ、このままのペースで消費を続けていれば3年しか持たない量であった。

 また、産油国であった中東諸国、ロシア、南米等からは一切石油を産出しなかった。


 日本国内の製油所は、正史地球ではエネルギー転換で石油需要が低下して、数カ所は休止されていたが、国内油田が発見されたため諸外国から輸入する必要が無くなり、代わりに石油製品等を輸出する分と、軍事用燃料の増加により再び需要が急増し、休止中の製油所は全て復活して石油製品を製造していた。


 日本の地下資源は、石油以外にもボーキサイト以外の鉱山物質が正史地球の埋蔵量の十倍に膨れ上がり、石油業界と同様に金属業界やそれに付随して全ての業種に好影響を与えていた。




 場面は変わって、転移直後の各元在日米軍基地にて



 横須賀港海軍基地の埠頭岸壁に第7艦隊戦闘部隊の原子力空母であるロナルドレーガンを始め、イージス巡洋艦、駆逐艦、原子力潜水艦等が30数隻係留され、米軍基地には日本人スタッフ以外の米軍兵士は全て消えていた。


 また、佐世保元在日米軍海軍基地の埠頭岸壁にも、横須賀と同様に海兵隊が乗船するはずの揚陸部隊の強襲揚陸艦4隻他多数の戦闘艦船が係留されていたものの、米軍兵士は全て消えていた。


 一方、厚木基地には海軍空母航空団のF-35C、F-18E、EA-18Gが多数駐機してあり、おそらく転移事象により基地滑走路、エプロン、格納庫及び航空機とその機材関係全てが転移した。

 しかし転移したのは航空機、兵器機材等で、米軍パイロット及び関係者の姿は、日本人スタッフ以外は全て消失していた。


 また、沖縄嘉手納基地にあった米軍機は、沖縄を除く日本中の空軍基地等に分散転移しており、一番多くの機数が転移したのは千歳基地であり、ここにはF-22A、F-35Aが数十機駐機されたいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る